#18
説明不足な上支離滅裂だが、品場は自分なりに推察しているようだった。影山は顔を覆っていた手を離した。
「留置所に連れて行かれてすぐ、彼がおかしくなったと連絡がきました。この病は暗所や閉所で過ごすとパニックになることがあるから、条件が重なって病状が悪化したんだと思います。今は入院して、薬を投与されてるらしくて」
「そうか」
品場は深いため息をついた。過去に戻れるのなら……その相談者が助けに入った時、影山は何がなんでも彼を止めて、説明しないといけなかった。
だが何年も前から、影山もこの病に蝕まれ、正常心が息絶えていたのだ。それを知りながら、隔離施設で働くことを黙認していた自分も罪がある。
過去の失敗を振り返ったらキリがないが、これからどうするか考えなければ。
「一番良いのは……お前が警察に本当のことを言うことだ。強姦されたのではなく、合意の上だったと。そして、お前もこの病気の罹患者だと。きっと今検査したら、お前も即入院だ。それぐらい酷い……以前会った時とは比べものにならないほど悪化してる」
病に罹りながら、誰よりも近い場所で患者達と関わり続けた……今の影山ほど危険な人物はいない。本来ならすぐにでも入院して、適切な処置を受けないといけない。
だが善人の彼がそれを拒む。まだ働かないといけない、まだ誰かを助けなければいけないと。
「行木さんがおかしくなったのも、雲井さんが大怪我をしたのも、全部俺のせいなんです。ああ……でも、仕方なかったんですよね。ああするしか雲井さんを落ち着かせることはできなかった。……そうか! じゃあやっぱり行木さんが悪いんですよ。あんなに殴る必要がどこにあんだって」
影山は爪を強く噛み、ぶつぶつと唱え出した。
「俺は悪くない。悪くない……ふ、ふっ……あはははは! はっはっは! ああ!」
狂気に満ちた笑い声が鳴り止まない。無意識にシャワーを強めた。
「みんなみんな死ねばいい。明るい奴なんて大っ嫌いだ。暗くて僻んだ奴が……ふふっ、大好き」
バスタブに寄りかかるようにして、彼は震えていた。やがて笑い声は泣き声に変わり、影山は嗚咽した。天井を見上げ、幼い子どものように手放しで涙を流した。
「うああああぁぁぁっ! うっうぅ……あぁああああ、うわああああぁぁっ!」
悲痛な叫びが品場の鼓膜を突き刺す。
壁を蹴って叫ぶ彼は、駄々を捏ねる子どものようだ。
この病はとても利口だ。影山という人間の理性を一つずつ、段階を踏んで殺していく。




