#16
振り落とされたモップは風と一緒に雲井を叩きつけ、何度も物騒な音を響かせた。
何かが折れて、砕けた音。雲井が叫ばなかったことは幸いかもしれない。もしここでぎゃーぎゃー泣かれたら、自分も同じように叫んで発狂していた。
現れたのは同じ入所者の行木だった。 自分を抱いていた雲井に憤り、暴行を続けている。助けてくれようとしたんだ。
『行木さん……』
駄目だ。
違うんだ。襲われたんじゃない……俺が、雲井さんを誘ったんだよ。
人の頭を殴る音は自分の骨にも響いた。下半身をさらけ出したまま、声も出ず、呆然と彼らを見つめる。
行木はやりきった、という風にモップを投げ捨てた。
正しいことをした、という横顔だった。
本当に……彼は正しいことをした。自分が正しいと思えば、それは「正しい」ことになる。そう確信させてくれた顔だった。
ならこのまま正しいことにさせてあげた方がいい。その時はそう思ったけど、やっぱり駄目だと思った。
─────いつかは絶対、バレる。
警察と救急に連絡して、二人で窓の前に佇んだ。
警察には、俺が襲われたことにしよう。そして偶然目撃した貴方が助けてくれたと。
でも、君には本当のことを言う。
俺が……俺から、雲井さんを……。
『所長……』
行木の足元を見つめる。
怖い。何が怖いって、そりゃあ……
『所長。顔を上げてください。俺、別に怒ってませんよ』




