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第ニ話

***


ほんの二日前、2回目の美化委員会の活動があった。

今期は2年に一度の裏庭の清掃、造園を行うという年が回ってきたらしく、先生から話し合いをするよう言われていた。

そこで、何を植えようか、予算はいくらなのか、と話し合いをしていたのだ。

「6年前かな?その時に、すごい綺麗に整えたっていうんで、その時は近所の人も見に来ててな、、、」

顧問の先生はパソコンで資料を探しながら、先生なぁその当時も美化委員の顧問だったんだ、と語り出す。

「あ、、、父さんから聞きました。すごかったんだぞ、って」

「おおそうか!一ノ瀬の父さん来てくれてたのか。あの時はなぁ、先生も頑張ったんだ!体力もあったし休日返上してな、お前らにも見せてやりたいんだが、、、ああ、あったあった!」

先生はスクリーンに何枚か写真を写した。

それぞれを拡大しながら、

「一ノ瀬、父さんいるか?」

と覗き込んでくる。

そんな都合よくいるかなぁと思いつつ、いますかねーと相槌を打ちながら画面に目を凝らす。

すると、右下に警察官がこちらを向いて笑っている写真があった。

「あ、、、父さんだ」

顔がほころぶ。

若干ぎこちない笑顔が、カメラを向けられた父の緊張を物語っていて、ふっと笑ってしまった。

「ね、お父さんってあのひと〜?」

隣のクラスの女子が楽しそうにきいてくる。

「あ、うん、、、そうだよ」

「へー!、、、?なんか、一ノ瀬くんとは似てないね!」

「、、、確かに、そうかもね?」

突然後ろから男の子が焦ったようにその女の子の肩をグイッと引っ張った。

「ばか!そりゃそうだろ、、、」

「え、なに?なんかある感じなん」

嫌な予感がした。

2人は声のトーンを抑えるが、2人の空気の変化は教室中にさあっと広がっていった。

いつのまにか、彼等から席が離れているはずの席の人も顔をよせあって興味津々といった様子でこちらを見ている。

誰かが何かを言いだすと、もうそこからは早い。

「一ノ瀬って、、、、、、、、、」

「え、そうなん?!」

「ほんとほんと!だって私中学一緒だし、、、」

「へー」

「わたし初めて会ったかも、そういうひと」

「あるんやなそんなこと」

「なんかさ、、、ドラマみたい。」

「うわ確かに!すず好きじゃん、そういうの」

「ちょっとーやめてよ」

その生徒は笑いながら言った。

でもさ、、、、、、

「一回、インタビューとかしてみたくない?」

本人たちはひそめたつもりであろう甲高い笑い声が、教室にぐわんと響いた。



全部聞こえてるよ。

何回経験しても慣れないもんだな。むしろ小さい頃の方がマシだった気がする。大人になると、みんな下手に想像力が豊かな分、いろんな想像をされるんだなぁ。


ああ、もう帰ってしまいたい。



そのとき、がらっと扉が開いて、先輩が2人、教室に入ってきた。

「去年までの資料もらえたよー」

2人は空気の変化に気づき、顔を見合わせる。

「なんか、、、、、、話し合いって雰囲気ではないけど、何の話?」

たちまちみんな黙った。

ほらね。

やっぱ、聞かれたらまずい会話してるって自覚あるじゃん。

「、、、、、、要約すると、俺は貰われっ子で父親が2人いるんだって話です」

気づいたら下を向いたまま低い声で言い放っていた。

はっと気づいて笑顔でごまかし取り繕おうとするが、遅かった。

後から入ってきた2人の先輩は怪訝な顔になり、他クラスの委員、先輩たちは苦笑いで次々と弁明と慰めの言葉を口にする。

「いや、、、なにもそんな頑なにならなくても」

「ね、、、!そんな、悪い事だって話をしてたんじゃないし、、、」

「そうそう!誰も悪口なんて言うつもりないし!」

ある程度は申し訳なさそうに。

それでも、自分達は悪くない、あれくらいで空気をこわすなよ、とでも言いたげに。

「、、、、、、」

俺の机の上に荷物を下ろして、その先輩は話し始めた。

「話が見えないけど」

俺の机の前で、みんなの方に向き直る。

「まず、知らなかったとか悪気なかったとかの言い訳って、全然意味ないからね?」

むしろそっちの方がレベル低い。自分、無知なので配慮できませんーって言ってるようなもんじゃん、とその先輩は続けた。

「て言うか、あんたらがどう思って発言したかなんてどうでもよくない?」



「そんな自分達の保身なんかより、この子が傷ついてるって事実がいちばん大事だって、、、、、、何でわかんないの?」


よく通る、ちょっと低い声が、教室内を突き抜けた。




そのあと、その人が柚珠さんだと知って自然と目で追っているうちに、柚珠さんのいろんな顔を知った。

重たいファイルを黙々と運ぶ姿がかっこいい。作業中は髪をしばってきつめのポニーテールにしてるところがかっこいい。眠気覚ましにコーヒーを一気飲みできるところがかっこいい。

そして、それでも我慢できなくて先生の話で居眠りしてるところがかわいい。


柚珠さんの全部が、かっこよくてかわいくて、とてもきれいだと思った。



もっと知りたい。

もっと、柚珠さんと、話してみたい。





こんなそわそわした楽しい気持ちは初めてだった。

そうだ、明日、朝学校に行ったら満留のとこに行こう。なんか、これはLINEじゃなくて直接言いたい。

わくわくして、理由もなくふわふわした気持ちが俺の中で大きく膨らんだ。




***




恨まないでね。

あの子彼氏いるよ。


昨日までの浮かれきった気持ちはすっかり無くなり、恋かも、と思っていた自分がなんだか滑稽に思えた。満留にも報告なんかしなきゃよかった。

柚珠さんがおれにとっては特別な人でも、先輩には別の「1番特別な誰か」がいるんだ。

涙が出るほどでもない。自分を嫌いになるとかもない。だって、何年も続けた片思いでもなければ、夜も眠れないような一目惚れでもない。

でも悲しい。ぜんぶ俺の早とちりなのに、なんか、すごく虚しい。


もう柚珠さんのことを考えて嬉しくなったり楽しくなったりしちゃいけないんだ。

もっと知りたいと思う気持ちも、いけないものなのかもしれない。


そう思うと、自分の体がやけにずっしり重かった。




***


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