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第一話

名前は「奇跡きせきくん」と言います。友達の名前は「満留みつるくん」、先輩は「柚珠ゆずさん」です。

***


「満留ーー!!満留!」

「、、、おはよう。」

その日おれはいつになくハイテンションだった。というか、正真正銘の浮かれポンチだったと思う。友達のクラスに来て挨拶もそこそこに、聞いてくれと言わんばかりに彼の席まで走る。

満留は笑った。

「どうした?」

「あのな、、、」

いざ言うぞ、と思うとなんだか言葉が詰まってしまう。顔に血が昇るのを感じた。

「なんだよ。言うなら言えよ。」

らしくないとかなんとか言われながらおれは満留に促されて口を開く。

「、、、ばか可愛い先輩がいるんだ!美化委員に!!」

真っ赤になって、ヤケクソで叫ぶように言うと、満留は目を丸くして、そして、思わず、と言うふうに吹き出したのを見てもっと恥ずかしくなった。自分、女々しすぎないか。

「なんだよ」

急に恥ずかしさが込み上げて胸の辺りがむかむかした。

「笑うのかよ満留」

「いや、、、」

小学校から知ってるけど、と前置きして満留はつづける。

「おまえのそんな顔は見たことなかったから」

微笑を浮かべて、へぇ〜、奇跡がね、と楽しそうにひとりごちる満留を見て、いや満留のそんな顔見るのも初めてだよ、と小さく言い返す。

「恋だ?」

揶揄うように満留は重ねて聞いてくる。

やめろよ、そんなんじゃないよと否定したが、顔が赤くなって止まらない。

それを見て、満留はさらに笑った。


その日は朝学活ぎりぎりまで満留のクラスにいたけど、おれは照れて照れて、結局名前、しかも苗字しか言えなかった。名前だけじゃわかんないよ、と満留に大笑いされながら自分の教室に帰った。

ふわふわした気持ちで、なんだか教室がまぶしかった。

やっぱりこういうのが恋なのかな、満留がいうならそうなのかも。初めての感情になんだかきらきらした期待が募って、授業なんかとてもじゃないけど聞けそうになかった。


***


「で?今日さっそく美化委員の活動があるから一緒に帰れないって?」

「はい」

「えなんでそんな凹んでんの」

もっと喜びなよ、と満留は苦笑いを浮かべた。

「いや、、、満留と帰るって約束しとったのにさ、ドタキャンすることになるから」

クラスが違っても一緒に帰ろうぜ、と言ったのはおれなのに、二学期に入ってから委員会活動で待たせたり、いきなり1人で帰ってもらうことも増えた。ごめん、とおれが言葉を重ねると、満留は笑った。

「奇跡は本当に情に篤いなぁ。一緒に帰るだけの約束にそんな義理がたくて」

いつもありがとうな、と満留はほほえんだ。

「奇跡がおれのことすごく大事にしてくれてるの、伝わってるよ。そんなことで謝らんくてもおれも奇跡のこと大事だぞ」

満留はさらっとそんなことを言ってきて、おれはそれをまともに食らってしまった。顔が熱くなる。そう、この親友はこういうところがあるのだ。おれが情に篤いとかいうことより、こいつの直球なものいいのほうが珍しいだろ。高校2年生なんて、思春期真っ只中だし、友達にこんなことさらっと言える時期では絶対にない。だが、こいつはこういうことを伝えてくるのだ。奇跡には甘えてしまってるところがある、とかなんとか言ってたが、これがそうなのか、、、?変なやつだ。

でも、そんな満留に、おれは随分と助けられている節がある。家族のこと、家のこと。相談できる友と言えば、満留だけだ。

「じゃあ、またなー」

と平然と荷物を持って帰っていく満留を赤くなってひきつった顔でなんとか見送り、自分も歩き出す。

9月の太陽が校舎を照りつける。

なるべく日陰を通りながら鉢植えをする校舎裏へと急いだ。

「一ノ瀬お疲れー」

「あ、先輩お疲れ様です」

先輩こと堀口彩乃は中学で部活が同じだった先輩で、美化委員で同じになったのだ。そして、、、おれが一目惚れした、松岡柚珠先輩の友達でもある。

「今日日差しやばいね。日焼け対策せんとなのに」

あーあ、ジャージわすれちった、とひとりごちる先輩に、日陰選んだらいいじゃないですかと相槌を打ちながら手を動かす。あれ、堀口先輩いるのに今日柚珠さんいない?今日やすみなのかな、、、そういえば、前の時も途中から参加だったなぁ、、、なんてぼーっと考えていると、いつのまにか土がなくなっている。前はめちゃくちゃ時間かかって終わらせたのに。自分、今日は早いな。

「はい一ノ瀬、追加の土ですよー」

「あっすみませんありがとうございますー」

土が追加される。

柚珠さん、、、部活が忙しくてとか?いやそもそも部活してる人はこんな多忙な委員会入らないか。あーけど全然入ってる人もいるわ。え、何部なんだろ?まって気になるーーバレーとか、、、長刀とかもぽいなぁ、、、

「ちょっと、さっきから顔きもいよ。恋か?少年」

「え?!?」

前で作業していた先輩がじーっとこちらを見ていた。

「手は動いてたから突っ込んでなかったけど、ちょっと顔が、、、見てらんなくて」

まじか。いやきもいって、、、、、、先輩きもいは言い過ぎかも。

結構ショックだ。恥ずかしい。

「図星だろ」

しまった、と思ったがもう遅い。でっかい声でえ?!なんて言ってしまってるのだから。そして堀口彩乃は鋭い。絶対ごまかせない。

「恋ならお姉さんに話してごらん。必勝法を伝授してやるよ」

「絶対面白がってますよね」

「いいから言ってみろよ、まあバレバレだけど。柚珠でしょ?」

「なんでわかるんすか!!」

驚きと恥ずかしさで勢いよく顔を上げた。

「、、、えまじで柚珠なの」

じわじわと彩乃から目を逸らすがもう遅い。真っ赤な顔を隠すようにうつむく。

「、、、ひっかけかよ」

「こんなんに引っかかるなよ」

呆れた顔で小さくため息をつかれる。

「一ノ瀬は分かりやすいんだよな、顔にでる。ぽわぽわしてるのも柚珠の妄想してんのも全部。」

全部すぎるだろ。

もうここまできたらやけくそだ。

「、、、、、、、、、柚珠さんって何部ですか」

「1番に出てくる質問がそれなのがもうおもろいんだけど」

もうきもくてもなんでもいい、知りたい。

呆れ笑いの先輩が土の袋をあける。おれも落っことしてたシャベルを掴み直した。

「柚珠はダンス部だよー」

え、そうなんだ。ダンス部、、、やばい、解像度あがった。あ、じゃあやっぱり忙しいよなぁ。そっか、ダンス部、、、

その様子を見ていた彩乃は、バツが悪そうに口を開いた。

「きもい顔なってる一ノ瀬氏に情報あげるよ」

ばさ、と音がして、先輩は土を出し終わって少し気まずそうに頭をかく。はぁーーっとさっきとは比べ物にならない大きいため息をついた。

先輩は立ち上がって、無表情になって言った。


「恨まないでね。あの子彼氏いるよ。」



***

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