第三章 焼き付けるもの
――世界が静かに動きを取り戻そうとしていた。
冷蔵ケースの低い唸り、遠くの車のライトが微かに揺れる。
時間が、戻り始めている。
「……ひょっとしてこの時間は終わってしまうのか?」
晃市は、止まったままの世界の中で、最後の祈りを込めてつぶやいた。
彼はふと思い出した。真剣に愛した交際相手がいて、その女性の裸体を見たのは、二十年以上も前のこと。
それからは、柔らかな肌の感触も、温もりも遠い記憶の中にしかなかった、
だが今、目の前には――
人生の全てを背負い、母として命を育てた無防備な伊沢美紀がいた。
(俺には後悔する時間も、悩む時間などももうない……)
晃市にはもう躊躇いはなかった。
彼はそっと、美紀のバンダナを外し、続けてエプロンの紐に手をかけた。
シャツのボタンに指をかけ、一つひとつ、ゆっくりと外していく。
腰に手を伸ばし、ズボンのベルトを静かに緩めると、そのまま下ろしていった。
そこに現れたのは、堅実な伊沢美紀らしい、装飾の少ないごくありふれた黒い下着だった。
それは秘密の箇所を過不足なく覆いながらも、肉付きの良い白い胸と腰にぴたりと貼りつき、その輪郭を静かに浮かび上がらせていた。
晃市はその姿をしばらく見つめた後、美紀の大切な所を隠す黒い下着を静かに優しく、上から順番に躊躇なく剥ぎ取っていく。
そしてまず現れたのは――
女性としての標準より、わずかに大きい乳房だった。
柔らかく、丸みを帯び、ほんの少し下に引かれるような重さがあった。
若い頃の張りは薄れつつも、そこには別の豊かさが宿っていた。
母として、長年命を育んできた証。
晃市の目には、それがとても尊く、そして艶やかに映った。
――乳輪はやや大きめで、赤みが濃い。
乳首は、まるで寒さにふるえるかのように、きゅっと硬さを帯びていた。
それは、晃市にとって忘れかけていた“女性の存在感”を一気に呼び覚ますには十分だった。
彼はそっと両手を伸ばし、その胸を包み込んだ。
掌に吸いつくような柔らかさが、じんわりと指先に伝わってくる。
重みがあった。
思っていた以上に、温かく、やわらかく、しっとりとした感触だった――
そして彼は、片方の乳房の先にある、美紀の乳首を指でそっとつまんだ。
反応を確かめるように、ゆっくりと転がす。
その小さな動きだけで、胸全体が微かに揺れ、晃市の心は静かに高ぶっていく――
ためらうことなく、彼は乳首に口を寄せた。
そして、唇でやさしく包むように含んだ。
舌先で形をなぞり、ほんのわずかに吸う。
空気のない静かな空間に、わずかな湿りと温もりだけが広がっていった。
口内に広がる味は、淡く、肌の香りと混じり合って、言葉にできないほど官能的だった。
これは過去の誰でもなく、今ここにいる伊沢美紀のものだ――
晃市の中に、そう確信できるだけの重みと実在感があった。
何度か、左右の乳首を交互に含み、舌で優しく刺激した。
それは快楽のためというより、愛しさと感謝を伝えるような所作だった。
乳房の奥に宿る、母としての記憶までも、静かに抱きしめているような感覚だった。
晃市はそっと口を離し、もう一度両手で胸を包み込んだ。
ただ、そのまま静かに見つめた。
彼女の乳房が、どれほどの時間と愛情と苦しみを抱えてきたかを、肌で感じ取っていた。
そして次に視線を移したのは、子供を産んだことで少し弛んだ腹だった。
それが日々の過食にてさらに膨れ上がり、丸みを帯びていた――
その姿は、決して華奢ではない。
しかしそこには、彼女が生き抜いてきた証と、命を育ててきた尊さが満ちていた。
晃市は彼女のその腹を見つめ、胸の奥から熱いものが込み上げるのを感じた。
そこに、人生の苦しみや葛藤も刻まれている。
けれど、彼女の生命力の強さ、そして美しさが、彼の視線を釘付けにした。
晃市はしゃがみこみ、ゆっくりと視線を落とした。
そして、自然とその目は、彼女の下へと引き寄せられる――
そこには、深く黒く、濃密に広がる美紀の陰毛があった。
密度はしっかりとしていながら、整えすぎた不自然さはなく、どこか自然体のままの美しさがあった。
晃市はその柔らかな茂みを、太い指で優しく掻き分けた――
茂みの奥から長いあいだ誰にも見せることのなかった、彼女の奥の入り口がそっとその姿を見せた。
黒々とした陰毛に包まれるようにして、そこは静かに扉を閉めて潜んでいた――
長時間布に覆われていたその部分は、わずかに湿り気を帯びて光を反射し、艶を含んでいた。
色は薄紅とは言えず、日々の積み重ねと共にほんのりと黒ずんでいたが、そのくすんだ色合いは晃市には美しく映った。
蒸されたような空気が肌を撫で、微かな体温と匂いが立ちのぼる。
それは身体の奥深くからにじみ出た、生きてきた証
――女として、母としての日々が宿っているようだった。
ふっくらとしたその形は、唇のようにも見えた。微笑むでも抗うでもなく、ただ静かにそこに在る。
それは、美紀という女性のもうひとつの「顔」――傷つきながらも保ち続けた意志、誰にも媚びない気高さ、そして隠されていた柔らかさが、そこに重なっていた。
晃市は、目を奪われるように見つめていた。
彼はそっと指を伸ばし、温かな空気の中にあるその“かたち”に触れた――
晃市はその輪郭をなぞりながら、胸の奥から熱くなるものを感じた。
これはただの接触ではない。
触れるたびに、彼女が生きてきた時間と重さが、確かに伝わってくる気がした。
晃市は何度も指先で輪郭をなぞった後、少しだけ指を中に挿入した――
しっとりと優しい湿り気があった。その湿り気を染み込ませるように、しばらく指先を中に入れたままにした。
命を育み守り続けてきた伊沢美紀の、恥じらいや虚飾を脱いだ、母として女性としての深い部分だった。
――晃市の胸に、圧倒的な感動が押し寄せる。
そこには、ただの身体の一部ではなく、人生の歴史が刻まれていることを知っていたからだ。
晃市は指を抜き、顔を近づけ、彼女のその黒々として濃密な茂みに鼻を埋めた。
――湿り気を帯びたその香りは、甘さと酸味が混ざり合い、身体の奥から滲み出たような熱を孕んでいた。
まるで熟成されたチーズのように、濃く、重く、鼻腔にまとわりつく。
それは単なる匂いではなかった――
女として、母として、日々を積み重ねた身体が放つ「生」の香りだった。
晃市は息を深く吸い込みながら、理性が静かに溶けていくのを感じていた。
やがて、唇のように柔らかな入口に舌先をのばしてそっとなぞった。
乾いた表面に残る塩味が舌にじわりと広がり、続いて少しの刺激が奥へと差し込んだ。
それは澄んだ味ではなかったが、だからこそ海の底に眠るような確かさを感じさせた。
晃市は、その複雑でどこか生々しい味わいに、むしろ強く心を惹かれていた。
そして晃市は、しゃがみながら美紀の背後にまわり、素肌の尻に手を回して丹念に撫で始めた。
大きく張り出した腰回りは、母としての確かな重みをたたえていた。
晃市がそっと彼女の尻に手を添え、丸く張った両の肉を左右に広げると、その奥に小さな窪みが静かに姿を現した。
ふだんは誰の視線にも触れず、まるで存在そのものを隠すように、ひっそりと守られてきた場所――
わずかに肌よりも深い色合いを帯び、周囲には柔らかな産毛がうっすらと流れていた。
閉じられた小さな“口”のようなその形に、晃市の胸の奥に強い衝撃が走った。
ああ、これが――気の強い、決して譲らず、誰にも心の奥を見せようとしない彼女の“本当の核”なのだ、と。
どこか鋭く、緊張を孕んだその小さな輪郭は、まるで固く口を結ぶように閉ざされていて、まさに彼女の強い意志そのものだった。
何かを拒むようでもなく、媚びるでもない。
ただそこに、彼女の強さと矜持が静かに、だが確かに刻まれていた。
彼女の背中が何も語らないまま前を向いているのに、晃市には、その場所が彼女の心の奥を代弁しているように思えた――
そしてその周囲には、思いのほか多くの皺が寄っていた。
晃市は左手で彼女の片側のふくよかな肉をそっと広げながら、右手の指先でその皺を一つひとつ丁寧になぞった。
――無遠慮ではなく、敬意を込め、確かめるような静かな手つきで。
それはしっとりと湿りを帯び、柔らかく、体温がじかに伝わってきた。
指が触れるたびに、そこに在るものすべてが、言葉にならない静けさで彼の胸に響いてきた。
晃市はしばらく、その場所を目に焼き付けた。
美しさとは何か――
若さではない、張りでもない。
この皺さえも、そのすべてが、彼には美しかった。
「……なんて綺麗なんだ……」
それが、晃市の内からこぼれた、偽りのないひとことだった。
晃市は、その固く結ばれた小さな“口”に顔を寄せた。
まるで記憶に焼き付けるように、鼻先を深く埋め、息を吸い込んだ。
香りを、ただ嗅ぐのではなく、自らの内側に刻みつけるように。
――そこにあったのは、予想以上に生々しく、むき出しの“生活の匂い”だった。
清潔さや華やかさとは無縁の、動物的で身体の深部からにじみ出る、まるで鉄のような重さを帯びていた。
だがそれは、誰もが今日を生きているという、静かで力強い証だった。
心地よいとは言えない。けれど晃市は、不思議な安堵と、深い愛しさを同時に覚えた。
――この身体が、虚飾も遠慮もなく「生きてきた」ということの、ありのままの匂い。
晃市は、もう一度だけゆっくりと吸い込んだ。その香りが鼻腔の奥に静かに染み込んでいく。
そして晃市は舌をまっすぐに伸ばし、そっとその沈黙した口元をなぞった。
ぬめりの中にわずかな甘みがあり、その奥に微細な苦みが潜んでいた。
舌先をゆっくりと滑らせながら、彼は何度もそこを慈しむように舐めた。
まるで、長く封じられていた想いをほどくように――
(絶対に全て忘れない……)
そう思いながら、彼はそっと目を閉じた。
不意に、晃市は下腹の奥から突き上げるような猛烈な熱に襲われた。
それはあまりに急で激しく、どうすることもできず、ただ反射的にズボンの中から破裂しそうに膨らんだ己を取り出す。
次の瞬間、堪えきれない衝動が一気に噴き上がり、熱い液が勢いよくあふれ出た。
晃市のその液体は、美紀の肉付きのいい太ももに飛び散った。
晃市は、年齢相応に自分を慰めることはあるが、これほど熱く激しいものを放ったのは、いったい何十年ぶりだろうか。
胸の内で暴れるような動悸を抑えながら、自らの反応に驚きを隠せなかった。
「伊沢さん、ごめん……」思わず口にした。
そして美紀の太ももに飛び散った熱いものを、自分のハンカチで綺麗に拭き取りつつ、再び美紀の黒い茂みに目をやった――
彼は深く感謝した。
こんな尊い存在を拝み、触り、嗅いで、舐める機会を与えてくれたことに。
この奇跡の時間をくれた何かに。
やがて、晃市は美紀の服を元に戻した。
黒い下着の上下を着せて、シャツのボタンを留め、ズボンを履かせ、エプロンを締め直し、バンダナを結び直す。
時間が止まる前に美紀が補充のために持っていたペットボトルを彼女の手に違和感なく持たせた。
静かに立ち上がったとき、わずかに空気が動いた。
「ありがとう……」
晃市のその声とともに、世界は動き始めた。
伊沢美紀は、何事もなかったかのようにペットボトルを棚に戻す。
さっきのことは記憶には残ってないようだった。もちろん晃市の熱い液体を太ももに浴びせられたことも――
晃市はなぜこんな説明がつかない瞬間が起きたのか理解できないでいる。
だが、晃市の胸には、今夜刻まれた“永遠”が深く刻みつけられた。




