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格ゲー無双! ~~RPG系異世界に格ゲー厨がやってきた!~~  作者: としょいいん


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第05話 追憶の冒険者ギルド

 全回復したオレが病院を出て向かった先は、みんな大好き冒険者ギルドだ。


 いくらこのオレが格ゲー厨だからと言っても、せっかく剣と魔法の異世界へやって来たのだから、世界中の男の子が憧れる冒険者ギルドを訪れるのは必然だったと言える。


 冒険者ギルド……嗚呼、そこでは今日もムサいオッサン冒険者たちが、美人受付嬢の居るカウンターにばかり並んで混雑させては、巨乳メガネの美人ギルド長に今日も汚い尻を蹴り飛ばされているはずだ。


 新人冒険者になろうと大志を抱いた若者たちを相手に、毎日のようにパワハラを繰り返しては巨乳メガネの美人ギルド長にまたまたお尻を蹴り飛ばされているオッサン冒険者たち。


 知らない者同士でパーティを組んで、たった一人の女性メンバーを争って今日も何処かで熱い漢たちが拳で語り合い、最後は女性メンバーの存在すら忘れて熱き漢同士の友情が芽生えると共に、その女性メンバーが実は腐っていて彼女の脳内ではどちらの男子が受けなのかな等と今日も頭を悩ませてるはず。


 大槌をもった前衛メンバーが長剣で戦うリーダーを弾き飛ばし、弓矢を持つ後衛メンバーが放った矢が長剣で戦い続けるリーダーの背中にニアミスしてしまうが、それでも一緒に成し遂げたクエストを肴に、今夜も何処かの酒場でクッソ不味いエールを注文し乾杯が交わされる。


 魔術師なのに杖を忘れて来るメンバーが居たとしても、そこは仲間だからと笑って許してやった神官が、急にゴソゴソと荷物をひっくり返して何かを探し始める。

 こんな微妙な魔法職二人の他にも、どこか挙動不審なスカウトも居て、まともにコミュニケーションが取れなくても長剣で戦いつ付ける偉大なリーダーは気にしない──はず。


 まぁそんな感じで、例え格ゲー厨であろうと世の男の子たちは異世界文化の代表たる冒険者ギルドが大好物なので、かく言うこのオレも、その一端に触れておこうと思ったのだ。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 冒険者ギルドは王都の南門の近く、王城へと続く大通りに面しており、オレはこの場所を元人格であるタツヤ(2P)の記憶から良く知っていた。


 何故かって? それはこの場所がオレの父の職場だったから。


 オレが生まれた場所は、ここよりもっと北東の辺境にある寂れた島国だったらしいんだけど、オレがまだ幼かった頃に母が亡くなってしまい、その後何らかの理由で国を出る事になった父親が、まだ3歳だった幼児のオレを連れて傭兵団の仲間たちと仕事を求め各国を渡り歩いていた時、この国の西端にあるエストラーデ辺境伯爵家の領地へと辿り着いた。


 ちょうどこの頃、王国の各地で魔王軍残党である魔族との抗争が始まっており、辺境伯の領地でも騎士団や守備隊兵士たちだけでは手が回らず、冒険者や傭兵に頼る事が増えていたので父の傭兵団が仕事にあぶれる事は無く、それどころか領主である辺境伯からお声が掛かるほどの名声を誇っていた。


 辺境伯ご自身も剣の腕に覚えのある方だったので、オレの父とは直ぐに打ち解けて父の傭兵団と長期契約を結ぶ事となり、その際にオレの養育を伯爵の屋敷で行うようになった。

 辺境伯爵家にはオレより2歳上のご令嬢が居たので、ちょうど良い話し相手になると考えたそうだ。


 そんな父に連れられて、子供の頃のオレはよくこのギルドへ遊びに来ていた記憶がある。

 だけど父が亡くなったあの日以来、この場所へ足を運んだのは今日が初めてのはずだ。


──カラン!


 出入口の扉に付けられている呼鐘の乾いた音が小さく響く。


 すると玄関を入ってすぐの所にある待合スペースに居た冒険者の人たちの視線が、一斉にこのオレに向けられたのが判る。

 もうあれから何年も経ってしまったので、この懐かしい場所にオレの知り合いはもう誰も残ってないみたいだった。


 それなのに、そこには多くのオッサン冒険者たちが並ぶカウンターにはオレが夢想した光景と同じスレンダー美女の受付嬢が居て、二階への階段の所にはスーツを着こなしたメガネ巨乳の美女まで存在していた。


 なるほど。これが『デジャブ』と言うヤツか。


 受付嬢の名前は知らないけど、スーツ姿のメガネ巨乳女性はゾフィーさんだったかな? 彼女の耳たぶはエルフほど長くは無いが尖ったような形をしている。


 さっきは『もう知り合いは居ない』なんて考えていたが、こっちの異世界には人族より長寿の種族が居たのをド忘れしていたな。


 これはこっちの異世界のタツヤ(2P)の記憶だが、オレはあのお姉ちゃんを知ってる。だって、あの頃とちっとも姿が変わっていなかったから一目で思い出した。

 そう言えば実家のお屋敷に居たゾワンのおっちゃんも、背が低くてガッチリした体格から察するにドワーフか何かなのだろう。だってずっと見た感じがずっと変わらないもんな。


 いつまでも玄関口に立ったままだと次に入って来る人の邪魔になるので、オレは冒険者たちの視線に気が付かないフリをしながら、一番隅にある空いてるカウンターに並ぶ。


「おう、ボウズ。こんな所に何の用だ? ミルクが欲しけりゃ今すぐ家に帰ってママのおっぱいでも吸ってるんだなw」


 これは冒険者ギルドの窓口で良くある『テンプレ対応』と言うヤツだろうか?


 但し悪い方のテンプレだけどオレは気にしない。それどころか、あれほど行きたいと願っていた異世界の、それも憧れの冒険者ギルドでの貴重な一幕なんだ。文句などあろうはずが無い。


「すみません。母は私が幼少の頃に亡くなってますので、今から家に帰っても居ないのです。それに父も今から10年前の魔族侵攻の時に急逝してしまい、今の私は叔母が働いてる家でお世話になってる状況です。だから冒険者になって少しでも早く独り立ちして、私を気にかけてくれてる皆を安心させたいと思ったのですが──」


 オレがこっちの異世界でこれまで経験した記憶を元に、丁寧な言葉を選んでこの冒険者ギルドへ足を運んだ理由を説明していると、筋肉マッチョでツルッパゲのオッサンが滂沱の涙を流しながらオレの話をうんうんと頷きながら聞いてくれていた。


 第一印象では怖そうなオッサンだと思っていたんだけど、もしかしたら若者に優しい漢だったのかも知れない。

 それに先ほどの返答も、まだ若いオレが無駄に生命を散らす事の無いようにとの思いから出た言葉だとしても、それだと彼のキャラ設定が壊れるから敢えてあのような言い回しを選んだのだと思う。きっとそうだ。


 その瞬間──バリバリバリッ!!──と空気を劈く様な乾いた音と共に、カウンター席に座っていたオッサンの頭上から真っ白な光が稲妻となって立ち昇った。


 オレは何が起こったのか理解できず、目を見開いたままの状態で突っ立っていると……。


 ──ドタッ!!


 鍛え上げられた筋肉の塊から煙が登りカウンターの向こう側に崩れ落ちる音がすると、それまで目の前でオレの話を聞いてくれていた優しいオッサンの姿が消えていた。


「貴方、もしかしてタツヤ様では?!」


 いつの間に下りてきたのか知らないが、そこには階段の上からギルドの室内を見渡していたはずのメガネ巨乳のツン耳女性が立っていた。

 彼女の後ろでは別の受付嬢らが3人掛かりで気の毒なオッサンを引きずって行く姿が見え隠れしているが、誰も指摘しない所を見ると今はそれを問題にしている状況ではなさそうだ。


「はい、私の名前はタツヤですが……覚えていてくれたのですか?」


「当たり前じゃない。だってカイエン様の妻たるこの私が貴方の事を忘れるはずなんてありえませんから!!」


 オレの第六感が危険を感知する。


 だってそうだろ? オレがまだ幼少の頃の話だったとは言え、オレの母親は既に亡くなっていたはずだ。

 それに父が再婚した話なんて覚えていないし聞いた事もないが今は置いておこう。今はこの状況を理解するのが先だ。


 それにオレが父に連れられてこの冒険者ギルドへ出入りしていたのは、今からもう10年くらい前の話だぞ? それなのに15歳になって凛々しく(?)成長したオレをひと目見ただけで判るわけ……いや、もしかして陰ながら見守ってくれていたのか。それなら判って当然か。


 オレの父は多くの人たちに愛されていたようで、お屋敷に居る彼らや彼女たちがオレに優しくしてくれるのは、きっと父が皆を大切にしていたからだと思う。

 そんな父が遺してくれた『心の遺産』とも言うべき何かによって、孤児だったオレが人の愛情を感じて成長する事が出来たのは、偏にこれまでオレに関わってくれた皆のおかげだった。


「さっきはゴメンなさいね。あのハゲには後で私からちゃんと言っておくから気にしないで。それと今日来たのは冒険者登録で良かったかしら? それならもう既に出来てるから安心していいわよ!」


 目の前のメガネ巨乳の女性がスーツの胸元に手を入れて、そこからホカホカの何かを取り出してオレに差し出してくれたのだが……。


「はい、これ! 受け取ってちょうだい。これでタツヤきゅんも今日から冒険者で〜すパチパチパチ。はい、そこに居るお前らも拍手っ!!」


 室内に居た荒くれの冒険者たちに向けて鋭い睨みを効かせると、空気が帯電してパチパチと音を鳴らし始めてプラズマを発生させる。

 周囲では事情を全く飲み込めていないであろう者たちも『後が怖いからとりあえず手を叩いておこう』みたいな微妙な空気が漂う中、何故かいたたまれず申し訳ない気持ちになったので、方々へ向けて小さく頭を下げてお辞儀を繰り返す。


 そして彼女が手に持っているのは、確かに巷でよく見る冒険者カードだった……が、色がおかしい。

 普通はオレみたいに初めて登録する初心者は鉄級の濃い灰色なのに、出されたカードは白銀色で魔力を帯びて薄っすらと青白く優しい光に包まれている。


「ゾフィーさん……でよかったですよね? それと、このカードなんですけど、なんか色が違うな~なんて思ったりするのですが?」


「そうです。ゾフィーお姉ちゃんです! 私の名前、ちゃんと覚えてくれていたのね!」


 え? さっきは父の妻だと言ってたような気が……いや、そんな些細な事は置いておき、それよりも今はカードの色について教えて貰わなければいけない。


「あ、このカードのこと? キレイでしょ? 貴方のために特別にミスリルで作っておいたから、遠慮なんかしないで受け取ってくれればいいからね!」


「これって、やっぱりミスリル製だったのですか……」


 オレの右手が震える。


「そんなの当たり前じゃない。カイエン様のご子息に、これ以外のカードなんて相応しくないでしょ? おい、お前らもそうだと言ってやれ!」


 オレから周囲に顔を向けた瞬間にゾフィーさんの表情が豹変すると、先ほどまでの微妙な空気が急に重苦しい雰囲気に変わる。

 確かゾフィーさんって上位の魔法職だったから、もしかして空気とか重力も操作できる系のスキルを持っていたのかな。きっとそうだ、そうに違いない。


「あ、あの!」


 室内に居る冒険者たちが押し黙る中、心細そうに手を上げたのは、長い行列の前に座っていた美人受付嬢のお姉さんだった。


「ん? いいわよ、発言を許す。言ってごらんなさい」


「わたしと言うか……ここに居る皆様もそうだと思うのですが、新人さんはアイアンクラスからのスタートではなかったのでしょうか?」


「フン。貴女、何も知らないのね? その小汚い耳の穴をかっぽじって良く聞きなさい──」


 ゾフィーさんの説明は長くなりそうだったが、誰も口を挟めない。


 それは今から丁度10年前の魔族侵攻の頃まで遡る。その当時まだ存命だったオレの父が率いる『暁の傭兵団』が、この街を始め各地に点在する伯爵家の領内において目覚ましい功績を打ち立てて行くのだが、母を失っていたオレはどうしても父たちと離れる事を嫌がり、一緒に付いて行った過去があった。


 強大な力を誇る魔族たちが強力な魔物どもを率いて攻めてきたせいで、各地で死力を尽くした総力戦が展開された。


 当時『暁の傭兵団』は50名ほどの規模を誇っており、そのうえ全員が手練れ揃いで有名だったらしんだけど、戦いが激化して行く度にメンバーが一人、また一人と櫛の歯が欠けるように帰らぬ人となってゆく。


 その当時まだ5歳だったオレは、いつも遊び相手になってくれた兄や姉たちが次々に姿を消して行く中、何も出来ない無力な自分を呪いながら最後まで目に焼き付けていた。決して彼らの姿を絶対に忘れないようにと……。


 最初は親しい者たちが一人また一人と姿を消していくのが怖かったのだが、もしかして次は自分の順番が来るのではないかと考えたら、足が震えて動く事が出来なかった。


 魔力を持っていなかったオレは、そのおかげで魔族に敵だと認知される事も無く最後まで生き延びたが、最後の戦いで傭兵団の子供だとバレて殺されそうになったところを、負傷していた父が魔族と相打ちとなり守ってくれた。


「──だから当時5歳の子供が、何も出来なかったと言っても生き残ってる事が凄いのよ。それに冒険者ランクは本人の強さとはそれほど関係が無くて、ギルドへの貢献度が目安でしょ? それならこの街はおろか王国を救った英雄の血を受け継ぐ『暁の傭兵団』の正当な後継者たる彼なら資格は十分。それでもう一度聞くわ、何か問題でも?」


 一気に捲し立てたゾフィーさんの鼻息と圧が強い。


 みんなそれぞれ文句はあるのだろうが、全身にもの凄い量の魔力を循環させながら背後にいくつもの魔法陣から稲光を走らせているゾフィーさんを相手に、敢えて逆らうような命知らずは居ない。


 今はまだ午前中の早い時間なので、これから迷宮や街の外へ向かってひと仕事しようという時に、自分から龍の顎に手を突っ込んで重傷になりたい物好きなど一人も居ないだろう。


「ゾフィーお姉ちゃんは、オレが修行して強くなるのに反対なのですか?」


「え、オレ? タツヤきゅん、そんな似合わない言葉を使ってはいけません。それとタツヤきゅんが強くなるのは当たり前の事なのですから、そんな修行みたいな汗臭い事はそこらへんに居るオッサンどもにでも任せておけばいいのです!」


 それでも冒険者の皆様とは今後ともヨロシクしたかったので、オレはゾフィーお姉ちゃんにもうひと押しする事にした。


「ゾフィーお姉ちゃんの言う事はきっと正しい事だと思います。でも、僕はまだ若輩者ですから、ここに居る冒険者の先輩方と一緒にクエストを受ける事もあるかと思います。そんな時に僕だけミスリル製の冒険者カードを持っていたら遠慮されてしまい、誰ともパーティを組めなくなるのは困るのです。なので、どうか他の方々と同じように、僕も最初はアイアンクラスから始めさせて下さい。どうかお願いします」


 オレがゾフィーお姉ちゃんに頭を下げると、何故かギルドの中に居た冒険者の方たちや受付嬢のお姉様方まで全ての人々がオレと一緒に頭を下げてくれていた。


 この仲間的な一体感があるから冒険者ギルドって大好きなんだ。


「し、仕方無いわね。そこまで言うのなら、アイアンのカードも確かこのへんに……」


 ゾフィーお姉ちゃんがパンパンに張ったスーツの胸の内側と言うか、ワイシャツのそれもブラジャーの谷間の奥底をゴソゴソと弄ると──。


「あったあった。はい。これでいいでしょ?」


 彼女の手にはホッカホカに温められた、ちょっとだけ湿っぽい鈍色のカードが握られていた。恐らくだけど詳細に目を細めて見れば、仄かに湯気が立ってるんじゃないかとさえ思えてくる状況で、そのまま素手で触るのは色々な意味で憚られるが受け取らない訳には……。


 そんな伸ばしかけた手が途中で止まったオレの気持ちを察してくれたのか、先ほどの美人受付嬢さんがゾフィーお姉ちゃんの持つカードを横からサッと掠め取って、それをハンカチでササッと丁寧に拭き取ってからオレに手渡してくれた。


「あ、ありがとうございます」


 ゾフィーお姉ちゃんが美人受付嬢の後頭部を、まるでメガネからレーザーでも出て来るんじゃないかと危惧するくらい睨んでいるけど、それでも15歳の若者らしい笑顔を作って勇気ある行動をしてくれた受付嬢に感謝の意を伝えておく。


「それでは今日はお屋敷に帰るので、これで失礼します」


「はい、またのご来場をお待ちしています!」


 イライラしてるゾフィーお姉ちゃんの事は気懸かりだったけど、これ以上ここにオレが留まる方が周りの皆様にご迷惑が掛かりそうだったので、今日は大人しく帰る事にした。


 そしてギルドの扉を出て少し歩いていると、やっぱりゾフィーお姉ちゃんが追いかけて来たので二人で歩きながらお話をする事にした。


 それで判ったんだけど、ゾフィーお姉ちゃんはこれまでずっとオレの事を見守ってくれていたみたいで、オレが昨日の決闘で死にかけた事も知ってた。

 そして何とか最後には辛勝した事も褒めてくれたんだけど、でもこれからは余り危険な事はしないで欲しいとお願いされた。


 本当は、昨日の決闘でゾフィーお姉ちゃんが知ってるタツヤ(2P)は亡くなってしまったんだけど、彼の生命を代償にして異世界から召喚されたオレは彼の記憶を完全に引き継いでいるから、もう一人のタツヤとオレは、今ではどちらも自分だと思えるようになったのでそれ以上は深く考えない事にした。


 それと昨日の決闘を見てオレが以前よりかなり強くなってる事を喜ばれて、これからはクエストを受けても良いと言われた。


 あのミスリル製の冒険者カードは、まだ経験の少ないオレが悪意ある先輩たちのエジキにされないようにと彼女なりに考えてくれた結果だったんだね。お姉ちゃんいつもありがとう。これからもよろしくね。

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