表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
格ゲー無双! ~~RPG系異世界に格ゲー厨がやってきた!~~  作者: としょいいん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/4

第03話 HP5からの転生

「お願い、負けないで!!」


 その声を聞いた時、それまで無人だと思っていた円形闘技場(コロッセオ)の客席に居た、大勢の観衆から発せられる叫び声が耳に飛び込んで来る。


(──!!!)


 上半身を起こして周囲を見渡せば、そこにはオレ以外にもう一人の見知らぬ(?)男が立っていた。


「ふん、まだ生きていたのかクズね。貴様は次の魔法で必ず殺してやるから安心しろ!」


 そこには、まるで私立高校の制服のような仕立ての良いブレザーとスラックスに革のシューズを履き、白い手袋を嵌めた手にはロングソードとバックラーを構えてた一人の若い男子生徒がこちらを向いて立っており、地面に倒れたままのオレを見下している。


 そいつが蔑みで歪んだ笑顔を浮かべているのを見て、今の状況を一瞬で理解したオレは、ゆっくりと起き上がった。


 オレが立ち上がった場所から少し離れた所に一組の剣と盾が転がっているが、あれはつい先ほどまでこのオレが使っていたものだったのだろう。


 そして次に自分の身体を確認すると全身に隈無く血を滲ませた切り傷と打撲跡があり、胸からお腹にかけて高熱で燃やされた皮膚が爛れて火傷を負っているのは、目の前のアイツがオレを甚振りその様子をコロッセオの観客たちに見せびらかしていたからだろう。


 オレの視界にはAR(拡張現実)による透過表示で自分と相手のHPゲージが見えているが、これは最近になり元の現代世界でも実装されたVR(仮想現実)の格闘ゲーム画面とほぼ同じで、この画面構成を見ているだけで何故か心が落ち着いてくる。


 ちなみに相手のHPゲージはグリーンで満タン状態のままだが、オレの方は残り5パーセントほどしか残されておらず赤色点滅している。


(所謂『レッドゲージ』状態と言うヤツだな)


 普通に考えると、今のオレは正に『異世界転生した瞬間に2度めの人生が終わろうとしている』状況だと言える。

 しかし、このような絶体絶命状態から始まる【ヘルモード】での修練を重ねる方法は、格ゲー厨界隈では最もポピュラーな訓練方法だったので今更焦る必要など無い。


 オレは切れた唇の端から垂れたままとなっていた血の跡を拭って相手を睨み返すが、その目は笑っていたのかも知れない。


「どうした、早く剣を拾え。そうしないと、この俺様が格下のザコに武器も持たせないまま殺したと陰口を叩かれるだろう?」


 オレの心臓に向けられたアイツのロングソードは目測で約80センチ。

 これは決闘用なので刃引きがされていないはずなのだが、オレの全身に残された傷痕を見れば、実戦用の剣に刃引きされた映像を投影させる幻影魔法がエンチャントされた物だと推測される。


 あの剣を見た感じでは『魂剣』の女闘士キャラが持っていたナンチャラカリバーとほぼ同じくらいの長さだろうか?

 目の前の男は女闘士キャラより10センチほど身長が高いので、腕を含む剣の攻撃リーチの長さも同程度広いと見越しておけば対応出来るだろう。


 オレは何も返答せず、これまで『道端闘士』で一番長く修行を重ねてきた『タカシ』と同じ構えを取る。

 心臓の高さに構えた左拳はジャブと防御の為、そして腰の辺りまで引いた右拳は必殺の一撃を与える為の予備動作へと繋がる。


「とうとう覚悟を決めたか。貴様なぞ剣を持ったところで結果は変わらないからな」


 そう、剣などあっても無くても結果は変わらない。


 無手で構えたオレを『死を覚悟した獲物』だと勝手に決めつけたヤツが、手に持った片手剣を大上段から振り下ろしながら駆け寄って来るのを見て、急に焦りを覚えた────その挙動の遅さに。


「死ぃねぇぇぇぇぇーーーー!!!」


 オレは軽いステップを踏んでヤツの懐左側へと一瞬で駆け寄り、剣を振り上げてガラ空きとなっている右脇腹にすれ違いざまの肘打ちをヒットさせる。

 このレベルの相手なら必殺技なんて使うまでも無い。通常攻撃のみで倒せるザコだ。


「グッフゥッ!!」


 ザコのクセに『グフ』とは違うとでも言いたったのか? ヤツにして見れば攻撃動作を取った瞬間にオレの姿が目の前から消えて、それと同時に右肋骨を折られて肺に刺さり激痛を感じて地面へ顔から突っ込んだ衝撃により、口の中に砂利と鉄が混ざった味が広がった事だろう。正にザマァだな。


「こ、殺してやる。貴様だけは絶対に殺してやるからな!!」


 先ほどとは立場が逆になり、今度はオレが立っていてヤツが地面に這いつくばっているが、無様に這いつくばったヤツの姿を眺めているのは非常に気分が良い。


 ヤツのHPがたったの一撃で半分以下にまで減ってしまったのは、肺を突き破った肋骨により追加ダメージが発生したのが原因だと思う。

 更に言えば、今のオレはHPゲージが赤色点滅しているから攻撃力が1.5倍にアップしてるはずだから、通常攻撃でもそれなりに痛い。


 最初の一撃を小手調べもせず、もし連続技でも打ち込んでいれば確実に殺していたな。危ない危ない。


 だが、このオレを殺そうとしていた相手なので別に殺しても良かったのだが待てよ……今思い浮かんだのだが、この身体の元の持ち主はどうなったんだ?


 もしかして、この身体の持ち主が亡くなったから、オレの魂がこっちへ転生したのだとすると……これは憶測だが、この身体の本来の持ち主が持っていた能力に『根性』系のスキルがあって、そのお陰でギリギリ生き残ったけど彼の精神は耐えられなかったのではないかと思い至る。


 前言撤回。ヤツは殺す。今ここで絶対に殺しておこう。何しろ、この異世界のオレを殺したんだから、それくらいは許されるはずだ。


 すると、両手で肺を押さえたまま起き上がれないヘタレを救うべく、控室から担架を持った救護員たちが駆けつけて来る。


「おい、まだ決闘は終わっていないだろ!」


 そんなオレの言葉を無視するように、救護員たちの直ぐ後ろから金属製のフルアーマーを纏った騎士どもと、濃い緑色のメイド服を来た侍女たちの一団が闘技場の内部まで乗り込んで来て、今も呻き声を吐き続けているヘタレ男を守るように囲んで隊列の壁を作る。


『この度の決闘は両者戦闘不能による引き分けとします!』


 このアナウンスは何を言ってるんだ。オレはまだ戦えるぞ? それにここで戦闘終了だと言うのなら、ちゃんと自分の足で立ってるオレと、あのような姿で無様に退場させられて行くヤツが引き分けなんてありえないだろう。


 周りを見ればコロッセオの観客どもが『もっとやれ!』とか『死ぬまでやらせろ!』なんてブーイングが嵐のように吹き荒れている。


 担架に載せられて退場して行く見知らぬ対戦者だが、相手の名前ならHPゲージの上に『リアン』と表示されてたから、後で必ず探し出して罪を償わせてやるから覚えておけよな。


 オレとしては担架で運ばれて行く騎士と侍女たちの一団に突っ込んで、無双モードで全員を薙ぎ払ってやっても良かったのだが、オレの傷だらけとなった左腕を掴んで離さないやつが居たので、今は騒ぎを大きくしない方が良いと考えた。


「タツヤ、お疲れさま。貴方が殺されなくて本当によかった……」


 振り向けば金髪碧眼の美少女の両手にオレの左腕が絡められており、まだ発育中のはずなのに大きくたわわに実った二つのメロンが押し付けられているのを感じた。


 別に左腕に柔らかな圧力を感じたせいで 、沸点まで高まっていた『殺意の波動』とも呼ぶべき激情が別の何かに上書きされてしまった訳ではない。断じてそれはない。ないったらないのだ。


 彼女の名はアリーシャ。この国内有数の商会を傘下に持つエストラーデ辺境伯爵家のご令嬢様だ。


 そしてオレはその辺境伯爵家に雇われていた傭兵の子供で、父が亡くなってから今まで育てて貰った恩があったのを、彼女のホッとした顔を見て思い出した。いや、今記憶が読み込まれたと言うべきか?


 この国には遥か昔に魔王を倒した勇者たちの伝説があって、嘗て勇者を支えた聖女様と同じ【聖女」のクラスを授かったアリーシャお嬢様に、上位貴族家からの求婚状がひっきりなしに届くようになったのだが、いつまで経っても誰とも婚約しないお嬢様に対して一部の子息どもが反感を抱き、実力で既成事実を作ってしまおうと画策したのが今回の事件の切っ掛けだった。


 あのヘタレの実家であるフォルテス公爵家は、国境を守るための兵力と商会の力で成り上がったエストラーデ辺境伯爵家とは違って、王都の近くに領地を持つ大貴族様で、自前の騎士団を持つバリバリの武闘派であり、同じような軍属の貴族たちをまとめる領袖であり、尚且つ王家の親戚筋でもある。


 そんな大貴族の子息が一方的に婚姻を持ち掛けて来た挙げ句、アリーシャお嬢様から良い返事が貰えなかった腹いせに、お得意の武力にモノを言わせて白昼堂々と拉致しに来たまではいいが、そこで返り討ちに遭い、その意趣返しに学園内で罠を仕掛けてきたと言う訳だった。


 こんな横暴が罷り通るのは、フォルティス公爵家が王太子派閥の長であり、アリーシャお嬢様のご実家であるエストラーデ辺境伯爵家がどの派閥にも属していない中立派だった事が、この問題を少し大きくしてしまっていた。


 王太子派は近衛騎士団を筆頭に軍事に強い軍閥貴族たちを中心に構成されており、その発言力は王国随一の勢力と言って差し支えないが、彼ら脳筋揃いの軍閥貴族たちの多くは領地経営に少なからずの問題を抱えており、いつも資金難に陥っては王国から支援を受けている家も多く存在する。


 そして中立派の貴族たちだが、金食い虫である自前の騎士団を持っていないか規模が小さな家が多く、兵力的には大した事が無い家が中立を名乗ってる印象が強い。


 これは内政を担う王宮の法衣貴族や、商人から成り上がって身分を金で買ったと揶揄されている家が多かったからだけど、保有する戦力の規模に対して潤沢な資金力があり、先ほどの軍閥貴族たちと比べて明らかに弱い勢力と言う訳では無かった。


 オレが転生したこの国では、数百年前に魔王が討伐されたが魔族領にはまだ多くの魔族たちが残っており、今も反攻の機会を伺っている状況らしいのだが、人族の王国列強は先の魔王対戦を既に過去の物語として捉えており、今は人族の王国同士が争う世の中となっていた。


 本来であれば魔王無き後の世界について、共に手を取り合って助け合うべきだと誰もが考えている中で、それでも文化の違いなどによりお互いを信頼するまでには至らなかった世界。


 そんな世界だが人々は親しみを込めて『エルシャティア』と呼んでいる。


 ここで話は戻るが今回の決闘騒ぎとなった事の発端は、お嬢様の拉致に失敗したヘタレ貴族の息子が、今度は自分の妹がアリーシャお嬢様に侮辱されたと難癖を付けて当家に決闘を申し込んで来たのだが、決闘する者が女性の場合に限って代理者による決闘が王国法では定められている。


 そして決闘を申し渡された場所が王都学園内であった事から、その代理は同じ学園の生徒と言う決まりが学園規則には記載されていた。


 そんな理由から、学園内でアリーシャお嬢様の代理をこのオレが務める事になったのだが、いまいち記憶がおぼろげで良く覚えていない。


 ただ、日頃からアリーシャお嬢様に求婚していた男子生徒どもには絶好のアピールの機会だったのに、相手が軍閥貴族で公爵の子息だったので誰もが躊躇っていた。


「私より弱いタツヤが戦うくらいなら、この私が──」


 こんな事を言い出すアリーシャお嬢様だが、子供の頃からお世話になっているエストラーデ辺境伯爵家の為に、ひ弱なこっちの異世界のタツヤくんが立ち上がったのだろう。


 そしてよせばいいのに何度もその身に相手の攻撃を受けて、それでも諦めなかった彼にアイツが放った止めのファイヤーボールが直撃して吹き飛ばされたという訳か。


(だから、あんな酷い火傷を負っていたんだな)


 これが、オレが異世界転生後に初めて記憶が戻った経緯だった。


 記憶が戻ったにしては元の人格と今のオレでは性格が全然違ったので、オレは前の人格が精神的にお亡くなりになり、中身が空っぽになった身体に憑依する形で異世界転生したのではないかと考えている。


 幸いな事に元人格の記憶はオレに受け継がれていたので、ゆっくりと時間を掛ければ異世界の自分がこれまで生きてきた人生を思い出せると思う。


 ……と言うか、今現在も徐々に時間を逆行する形で記憶がロードされ続けているんだけどな。


 なのでこれから知人と話をする際は、頭を強打した影響で記憶の一部を忘れてしまったり、話し方が変わってしまったと説明しておけば怪しまれる事もない。


 実際に元の記憶はあるんだ。ただ、自分の経験としての実感が湧かないだけだから……きっと何とかなるはず。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ