第02話 脳内プレイなう
こうしてオレは古今東西にある異世界転移または転生物語において、全ての並行世界初となる試みでこちらの世界へとやって来た。
今頃はオレが行ったシステムの改変ログを確認して、オレが取り返しのつかないミスをしたとあざ笑っている頃だろう。
それでも、このオレが2度目の人生となる貴重な異世界ライフをベットしてでも、ここで検証したい事があったのだ。
他の転生人たちと比べて特に抜き出た能力が無いこのオレだが、異世界をベースとした小説や漫画、それにアニメ等についてはほぼ網羅してると言えるくらいの作品数を目にしてきた経歴を持つ。
それら物語の中では勇者や魔王を中心とした正統派の物語以外に、裏切られた主人公による『ザマァ』な話も面白かったし、腐女子がプレイする乙女ゲームの世界へ生まれ変わり主人公として生きる話の他に、悪役令嬢やモブとなり独自の人生を歩む話も結構面白かった。
それでもいくつかの基本となる部分は共通しており、それは一部の例外を除けば中世ヨーロッパあたりの世界観に魔法技術が発展したアナザーワールドが多かった様な気がする。
そして、戦いと言えば必ず出てくるのが剣と魔法であり、ここでも一部の例外として銃や大砲などの近代兵器が登場するが、それでも異世界で一般的な戦力はやはり剣と魔法だった。
これらの異世界物語を取り憑かれたように読み漁ったオレだが、それでも剣と魔法のRPGにドハマリする事は無かった。
いや、最初の頃はハマっていたのだろう。それこそ寝食を忘れるくらいには熱中していたはずだ。
それなのにハマっていないと言うのは意味が判らないかも知れないが、RPGが全盛期と謳われたその頃、新たな概念がゲームの世界に齎された。
そう、みんな大好き格闘ゲームだ。
それは幼い頃から好きだった女の子が居て、大人になったら結婚したいと考えていたんだけど、ある時ふと知り合った女性に一目惚れをしてしまい、これまで想っていた恋が愛では無かったと気づいた瞬間に似ているかも知れない。
これまでのようにレベルを上げてスキルを取得し、『剣』や『魔法』を駆使して戦うのでは無く、自分が手にした武器又は無手の状態を元に攻撃が実際に届く距離と範囲を把握して、相手との駆け引きを考えながら次の最適解を予測しつつ行動を選び続けるゲームが登場した。
それは大雑把に攻撃範囲や射程距離と有利不利の相性を考えてさえいれば、そこそこ戦えていたRPGの世界とは根本から異なり、例えレベル100と1のプレイヤーが戦ったとしても、プレイヤー自身の技術と経験によっては勝敗が覆る可能性を秘めた、いくらレベル上げをしていたとしても1ミリも気が抜けない世界を知ってしまえば、もう以前のような温いRPGシステムでは脳がアドレナリンを分泌しなくなってしまったのだ。
最近ではRPGの戦闘シーンにアクションゲームの要素を取り入れたリアルファイト系アクションRPG(所謂『死にゲー』)と呼ばれるジャンルも定着しつつはあるが、大多数を占めるライトプレイヤーからの支持を集めるのは難しく、戦闘が高度化すればするほどユーザー数が減少して行く事実にゲームクリエイターどもは頭を悩ませた。
これはゲームメーカーからしてみれば、人手と予算を掛けて高度で難易度の高い戦闘システムを開発すればするほど、逆に売上が低迷するジレンマに陥るので、ある一時期を堺にRPGはRPGファンの支持が得られるそこそこの難易度で開発が継続されるようになり、それが主流派となってゆく。
それらゲームの中で『格闘厨』(RPGゲーマーからは『格闘虫』とも呼んで侮蔑される格闘ゲーム中毒者)の者たちは常に、RPGの世界観を破壊しないように空気を読んで行動には細心の注意を払い、ある意味本当に『別の自分』をプレイしなければならなかった。
しかし、格闘ゲームも一時期のピークとは比べ物にはならないが、それでも常に一定数のユーザーが存在する事から開発は細々と続けられており、ゲームのタイトルによってライト層とヘビー層に向けて、それぞれ別のアプローチで発展してきた。
要するにライトユーザーには優しく取っ付き易い方向へと進化し、ヘビーユーザーにはよりリアルで素早く正確な操作が必要な方向へと正当進化したのである。
尚、これらの進化の途中でミドル層が求めるライトとヘビーの中間的なタイトルは自然消滅してしまったので、このどっち付かずの調整をされたゲームタイトルを最近は余り見かけなくなった。
魔力が存在しない地球から『善良で人が良い』と言われる多くの日本人たちが異世界へと転生又は転移させられるのは、現代世界においてRPGの概念を無意識にインプリントされた国民性が大いに一役買っている事実も理由の一つだろう。
(もしゲームをした事が無い人を、いきなり異世界へ転移させても理解が追いつかないだろうからな)
それに今では異世界を舞台にした作品が多く発表されており、全国民の理解度が進んでいる事も大きなアドバンテージとなってるはずだ。要するに転生させる側から見て、これほど異世界へ斡旋し易い人種など日本人以外に居ないと言うことだ。
そして、このオレが魔法文明の異世界で試したかった事。
それは魔力やMPといった魔法関連のステータスを持たないこのオレが、格闘ゲームのスキルだけでどこまで異世界に通用するのか知りたかった。それだけだ。
ただそれだけの為に、この貴重な2回目の人生を全て捧げてでも、まだ誰も挑んだ事の無い検証実験に取り組む決断をしたのだった。
こうしてオレは異世界の地へと降り立った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
目を開けばそこには知らない天井……ではなく、丸く切り抜かれた青い空に白い雲が浮かんでいた。良く見てみれば視界の端には二つの月が浮かんでおり、薄紫色をした月は蒼翠色の月の3倍ほどの大きさがある。
(本当に異世界へ来たんだな。それともどこか知らない惑星と言った方が良いのだろうか?)
周りを見渡すと、そこには古代石造建築の代表作とも言える円形闘技場となっており、オレはフィールド中央で空を見上げ仰向けの姿勢で地面に倒れていた。
格ゲー厨のオレにはピッタリなスタート地点だ。
だが、オレはまだRPGのようなこの魔法世界において、格ゲースタイルに全フリしたオレの力を、どのように振る舞えば良いのか理解が追い付いていない。
なので早速だが、最初の検証を行うべく行動を開始する。
「ステータス」
異世界モノの約90パーセント以上の物語によれば、こう唱えると情報ウィンドウが現れて、自分の筋力や敏捷性などが数値化されたものが、目に見える状態になるはずだ。そこには────。
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名前:タツヤ・シラヌイ
年齢:17
LV:1
種族:普人族
筋力:25
敏捷:30
耐久:99
物防:20
信仰:0
魔力:0
魔防:0
職種:道端闘士
技能:覇道拳、翔龍拳、台風旋風脚
INCOME:255
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なんだこれ? 剣と魔法の異世界なのでオレの種族が『普人族』なのは判る。
そしてその下にあるステータス欄についても、RPGの中に格闘ゲームのパラメーターを無理やり押し込んだような数値も理解出来る。その証拠に魔法関連のステータスが軒並み『0』になってるのは、その影響だろう。
だけど本来ならそこに『剣士』とか『魔術師』なんかのジョブが示されるはずの部分に、何故か格闘ゲームのタイトルである『道端闘士』の文字が表示されている。
『道端闘士』とは職業ではなくて格闘ゲームのタイトルだったはず。何故『拳闘士』ではないのだろうか? と考える諸兄も多い事だろう。
もし、このオレがRPG以外のゲームをした経験が無い、純粋培養のRPG厨だとしたら、この場面で意味不明になってるところだが、これはオレが自分で望んで行った設定の一つだ。
そして『道端闘士』シリーズは、オレが前世でハマっていた格ゲーの始祖とも言えるゲームで、初めてアーケードでこれを目にした日からオレの格ゲー人生が始まったと言っても過言では無い有名タイトルだった。
それまでアーケードでは横スクロールアクションやシューティングが人気ではあったが、コンシューマーゲーム機の普及に押されて売上が伸びず、徐々にではあったが下火になりつつあった時代。
そんなゲームセンターの片隅にひっそりと設置されていたのが『道端闘士』で、最初の頃はほとんど誰にも知られる事無く消えて行く運命かに見えた。
だが横スクロールアクションから派生したこのゲームには、それまでのアクションゲームにはなかった大きな戦略的要素がギンギンに詰まっており、あの大きな筐体に設置されたパンチ用ボタンを叩く強さに比例して、繰り出される技が『強』『中』『弱』の三段階に変化し、そしてキャラクターの姿勢とレバー操作によって技が変化したのだ。
これは身長と体格に恵まれず、ケンカもした事が無かったリアル弱者だったオレにも、これで天下を取れる時代がやって来たのだと閃いた。
そして後の格ゲーに必ず実装されるようになった【必殺技】は、この『道端闘士』がその起源だと言っても良いだろう。
確かにこの『ファースト』タイトルこそ【必殺技】には必殺たりえる攻撃力が設定されていたのだが、後の『セカンド』以降ではその威力が強すぎてゲーム性を損なうとの判断から、ほぼ全ての【必殺技】が弱体化された経緯を辿る事になるが、その代わり技は出しやすく調整されたので数多くの『並みプ』(並の腕しか持たないプレイヤー)どもからは賞賛された。
しかし、この下方修正の判断は正しくて『セカンド』以降のタイトルにおいても、強すぎる技には必ず修正が入りゲーム性が改善され続けた結果、プレイヤー人口は増え続けたのだが、それはまた別の話としたい。
また【防御】には上段と下段があり、後に実装される中段防御によって更に戦略性が増す事になるが、【防御】にばかり頼っていては【投げ技】で大ダメージを喰らうと言った、相手に複数の選択肢を迫られるゲーム性には大いに湧いたものだ。
その後も【防御】を崩す【崩し技】も実装されるなど、電脳世界の格闘界はその後も限りなくアップデートが続き、別の意味でリアルなファイトに近づきつつあった。
そうそう、言い忘れていたが【防御】には【捲り判定】と言うのがあって、相手を飛び越えてその背中部分にマイキャラの攻撃判定を当てる事によって、相手キャラの防御方向を狂わせる技が普通に存在した。
例えば自キャラを防御させる場合には、ほとんどのゲームでは攻撃を受ける側から見て反対側に操作レバーを倒して防御姿勢と取らせる必要があり、もしその攻撃判定が正面からではなく上から飛び越して背中にヒットさせた場合は操作レバーを前側に倒して逆方向の防御しなければならず、初心者から嫌がられた攻撃手段なのだが、この程度の操作も脊髄反射で出来ないようでは【並プ】にすら成れなかった。
当然だがこれらの通常技に対して、攻撃姿勢が優位な技や【無敵時間】を持つ【必殺技】で迎撃する事も可能なので、こうして複雑な駆け引きや戦略要素は格ゲーに更なる奥の深さを齎すに至った。(ちなみに全ての必殺技に無敵時間が設定されていた訳ではない)
その後は3D方向へ進化し、より超人的アクションとリアルに忠実な攻撃判定を実装するタイトル以外にも、剣や槍と言った武器を使ったものだったり、魔物や魔法をテーマとしたタイトルなども増えて、そこにSF要素なんかも加われば、もう格ゲーで扱われていないジャンルなど無いのではないかと思える時期があった。
所謂、格ゲー黄金期というヤツだ。




