第01話 涙のリセマラ
「だから、何度説明すれば理解してくれるんだ!」
今オレの目の前には、古代ギリシャ人が着ていた純白のトーガ(?)みたいな防御力ナッシングな服を纏った中年男性が、何故か半ギレ状態で激オコナウである。
「この転生システムにはランダム要素など実装されていないと、先ほどから何度も言っておろうがぁ!!」
このように何でも知ってるように言ってはいるが、彼が言う『転生システム』とやらは彼自身が構築したものではなく、先代の転生神が創造神の助けを借りて創り上げたシステムらしく目の前に居るオッサンにはシスアド権限すら無く一般的な使用と運用、それと定期メンテ程度のパーミッション(権限)しか持たされていない事を、これまでの会話で既に把握している。
(要するにコイツはただのザコだ)
「お前も元は日本人だろう? お前がそうやって何度もリセットを宣言するお陰で、順番を待つ次の魂が何処へも行けず後ろで渋滞を引き起こして困っているんだ。そう聞けば胸が痛むだろう?
だから頼む、早くボーナスポイントを各ステータスに振り分けてからスキルを選び、そして一刻も早く異世界へと旅立ってくれ!」
曲がりなりにも神と名乗ってるくせに、いよいよサポセンの窓際中間管理職っぽくなってきたな。
それに日本人だからとか、後ろで待ってる人が居るからなんて感情論を持ち出してきた段階でコイツにはオレを説得するしか手が、もう残されていない事を吐露してしまっている。
ひと昔前までの日本人ならそれで何とかなったのだろうが、今や『NO』と言える若者世代が育ってきた令和時代の日本で考えるなら、オレは自分に許された権利と権限においてオレ自身が納得するまでリセマラを続けるだけだ。
「おい、もう既に100回以上になるぞ。何度やっても同じだと何故判らんのだ。これ以上続けたって────おい、聞いてるのか?!」
ハゲの中間管理職がちょっと煩いが、この程度の雑音であればどうと言う事は無い。なのでこのまま無視してパネルのタップを続ける。
あと、ここでちょっとだけ説明をさせて頂くなら、先ほどからオレが操作してるのはファミコンなどの物理ボタンではなく、目の前に透過率30パーセントでAR(拡張現実)表示されたキーボードパネルだったりする。
そこにはAからZまでのボタンの他にも、シフトやリターンそしてカーソルキーなどを備えた一般的な英語配列のPCキーボードで、Ctr+Alt+Delキーを同時に押してみるとタスクマネージャーが表示されたので、そこで再起動を選択してからファンクションキーを順番に押して色々と試していたのだが────。
「おい! なに勝手にリセットなんかしてんだよ! てか、そもそも何故その方法を知ってるんだ? おかしいだろー!!」
(ん? 今リセットと言わなかったかコイツ?)
オレの表情が目だけ笑わない笑顔へと変わる。
そうかリセットか……再起動ではなくリセットと言ったな? それなら更に色々と試さなくてはゲーマーの血が収まらない。
ちなみに最初の再起動によってシステム設定画面までたどり着き、目の前に居るハゲデブ中間管理職の上位権限もリセットしておいたので、そこからはずっとオレのターンとなっている。
「君さぁ、いや貴方様。どうかこの可哀そうな神様を助けると思って、そろそろ異世界に旅立ってくれないかな? もしお願いを聞いてくれるなら、私の権限が及ぶ範囲で最大限の支援をさせて貰うからさぁ……」
オレはとうとう半泣きとなったハゲを無視したまま、更なるシステムの検証作業を続ける。
これまでのトライ&エラーで判ったのは、ゼビ○スの無敵コマンドのようなチート系は無効化されているが 、グラディ○ス等の強化系コマンドは有効だと言う結果だった。
その他にもスト○のスピードアップやマ○オのフィールド選択コマンドも有効だと判ったけど、これらのチートは異世界でどんな効果があるのだろうか? 疑惑は更に深まった。
「あのさぁ、君さぁ。もう十分遊んだだろ? そろそろ異世界に────」
オレは目の前で今もブツブツ言ってるハゲデブを居ないモノとしてスルーしてレジストリの数値をイジリ続ける。
そしてヤツが数えるリセマラ回数が4桁を突破した所で、とうとうBIOSの再設定画面へとたどり着いた。やっぱりここにあったか。
「お前! いや貴様! いえ貴方様! 知識無くそこを触ると後悔する事になるぞ!?」
目の前には見た事が無い文字で表示された各種項目ばかりだったが、今のオレには既に異世界言語が理解可能となっており、これこそが異世界転生システムの根幹部分だとオレの直感が告げる。
そして転生ポイントみたいな数値が『10』で固定されていたが、最大値の『255』に書き換えて最初から全ての職業とスキルも『有効』にしておいた。
隠しコマンドは最初から『有効』となっていたので、そのまま残して管理者権限は選択可能な中で一番上のランクに設定しておいたから、これでオレ以外がこのシステムを改変出来なくなったのでひと安心だ。
「おい! 貴様! いや貴方様! もう止めてくれさい! これ以上は────」
そろそろハゲデブの精神が限界突破しようとしていたので、オレはこれまでのBIOS画面から『保存して再起動』を選択して異世界へと旅立つ事にした。
ステータスは最初から最強だと面白く無いと考えたので、最大値の制限のみを廃止して、異世界人の平均値に設定しておいた。
以前にどこかのアホが『異世界の生物の平均値』を望んだ為に、その後の人生が平穏とは程遠いものになった事を知るオレに死角はない。
あとボーナスポイントは向こうへ行ってから、ゆっくり考えて振り割る事にしたのは、目の前のハゲデブを見ながら次の人生について考えるのがイヤだったからだ。
せめてボンキュッボンの美女神が相手なら考えが変わったかもしれないのに、非常に残念だ……。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
やっと、やっとだ。時間の流れが止まってるこの世界の狭間で、気が遠くなるほどのリセマラを繰り返しやがった小僧の魂が異世界へと旅立ってくれた。
ヤツは元の世界ではわりとマトモな魂を多く排出している極東島国の出身にも関わらず、この私が泣き喚くほどの回数をリセマラして挨拶もせず勝手に去って行った。
従来であれば、あれほどフリーダムな行いをすればシステムからアラートが鳴り響き警備システムが起動するはずなのに、何も障害が発生しなかったのは何故だろうか?
ヤツが去った後でシステムの改変部分を探して見たが、一般的な部分において特に問題は見つからなかった。
しかしヤツのプライベート設定については詳細を見る事は出来なかったが、共通設定では間違い無く中世魔法世界へ旅立ったと記録されていた。
ヤツはきっと『ぼくがかんがえたさいきょうのてんせいびと』として異世界へ転生したと思っているのだろうが、そうは問屋が下ろさない。もし問屋が許しても、この私が許さない。
何せ、この私をあれほどコケにしてくれたのだ。通常であれば別の世界へ行く場合において、本人が気づかないバグを見過ごしたとしても、こちらで問題にならないよう万全のサポートを行うのだが、アヤツだけは全て自分で設定して行ったのだから、全部自己責任という扱いで良いだろう……クックッック。
そのバグが、例えば魔法文明の異世界へ行った人間が【格闘ゲームのステータスのまま】転生したとしても、この私がわざわざサポートしてやる謂れなど無いからな。
いくらステータスが高くとも、本人に魔法に関する才能が無ければどうする事も出来ない……確かこのような状況を、ヤツが居た世界ではこう言うのだったな。『ザマァ』と──。




