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私は貴方に恋をし続けている  作者: 青木りよこ
7/7

恋の結末は続く

二十年前、学校に行く途中、公園の古紙回収の所に綺麗なものを見つけた。

それが何なのかはわからなかったけれど、とても価値のあるものに見えて、なんで捨てちゃうんだろうと思った。

その日の学校からの帰り道雑誌や新聞はなくなっていたけれど、それはまだあったので拾って帰った。

そうしたら世界一かっこいい黒髪の王子様が現れ、死神だと言った。

男は三度会うことを約束し去っていった。


一度目は変質者から助けてくれた。

二度目は同級生をいじめから救ってくれた。

三度目は一生好きでいるという言質を取られた。

本当になんて悪い男。


大学二年生の時に祖母が亡くなったので、就職は東京でした。

上京の際小田原の実家に顔を出すと、家の中はすっかり変わっていて、シャンと二人で向かい合った台所のテーブルも並んでテレビを見たソファも新しくなっていたが、私の部屋のクローゼットは妹が使っていてそのままだった。

母の違う妹と弟とはいとこのお姉さんくらいの距離感で上手くいっている。

父と母とはお正月とお盆にしか会わずいつもぎこちなかったが、私が大人になったことで上手く話せるようになり、今は年に何回か食事に行ったりするようになった。

実母は再婚し京都に住んでいてずっと没交渉だったが、一昨年父を通じて連絡があり、暑い七月の京都で十八年ぶりに再会した。

突然母がいなくなった時はとても悲しかったが、その後の人生は男のおかげでどんな時もずっと楽しかったから笑って話すことができた。

これから一年に一度くらいは会おうねと約束したので去年と今年は春に京都へ行き二人で桜を見て美味しいケーキを食べた。

税理士にも何とかなれた。

好きな男はずっと変わらない。

二十年間ずっと。


あれ以上の男を求めることなど現実では不可能なので、二次元に逃避した。

BL漫画は背の高い足の長い男の宝庫だった。

死んだ時の遺品整理で妹と弟に男の趣味がばれるのが嫌なので、紙では買わず、電子書籍にお世話になっている。

金曜日はお持ち帰り半額のピザを買い、家で一人映画を見ながら食べることが多い。

年に五、六回は神宮球場に行き野球を見ている。

そう、一人でもそれなりに楽しくやっているのだ。


男はずっと色褪せない。

漫画でどれだけかっこいい理想の男性を見たとしても、結局シャンの方がかっこいいなになってしまう。

まあこれはしょうがない。

付き合っていくしかない。

彼への尽きない恋心は私を私たらしめるもの、私そのものなのだから。


九月最後の金曜日仕事が早めに終わり、ピザって気分じゃないのでラーメンでも食べていこうかなと思っていると背後から楓ちゃんという声がした。

私を楓ちゃんと呼ぶ人などいない。


「楓ちゃん。お疲れさまやでぇ」


振り返ると男はいた。

十年前と同じ姿で。

私は声も出なかった。

周りの音もなくなった。

世界に二人きりだと思った。


「楓ちゃん、俺なぁ、失業してしもて。楓ちゃん俺のこと、養ってくれる?」


男が笑う。

その笑い方、声、連れてきたかのような夕闇。


「あれ、楓ちゃん、もうあかん?十年もほったらかしにしてしもたもんなぁ。もう遅い?」


私は真正面から男にしがみつく。

待っていた。

これだけを待っていた。

私はこれが欲しかった。

これだけが欲しかった。


「遅くない」


「ほうか、じゃあ、二人で美味いもんでも食いに行こか?」





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