第7章 軌道の炎
【第7章 軌道の炎】ーーーーーーーーーーーーーー
成層圏を抜けた瞬間、漆黒の闇と群青の地球が視界いっぱいに広がる。
その美しさは、これから訪れる殺戮の光景をまるで予感させないほど静かだった。
海斗とミラの乗るフェルシア改は、プレアデス旗艦の船腹から射出される。
後方の輸送艇には玲奈と技術班が乗り、回収した星核を厳重に封印していた。
「敵艦隊、地球側L1ポイントに到達──数、二十七隻」
オペレーターの報告がブリッジに響く。
シア司令官は即座に命令を下す。
「迎撃艦隊、散開。フェルシア部隊は前衛突破後、敵旗艦へ」
だが、玲奈のタブレットに暗号通信が割り込む。
発信源は不明──ただし、内容は衝撃的だった。
『残る二つの星核の一つは、月面地下に眠っている』
玲奈は思わず息を呑み、周囲を見回す。誰が送ってきたのかは分からない。
だが、その情報が本当なら、この戦いの目的地はすでに次の段階へ進んでいる。
宇宙空間の戦闘は、地上とは別世界だった。
レーザーの閃光が真空を切り裂き、破壊された艦船の残骸が音もなく漂う。
海斗とミラのフェルシア改は、敵戦闘機群の間を縫うように加速し、連射砲で次々と撃墜していく。
「右三時方向、重巡クラス!」
ミラの警告と同時に、海斗は機体をロールさせ、艦腹に沿って突入する。
艦載砲の射線をすり抜け、ミラが装甲継ぎ目に粒子弾を叩き込む──重巡は静かに爆散し、光の花を咲かせた。
一方、玲奈の輸送艇も戦闘に巻き込まれていた。
護衛艦が一隻、敵の攻撃で沈黙。輸送艇は単独で軌道を離脱しようとするが、マルドゥークの高速艇が急接近する。
「くそっ、このままじゃ……!」
玲奈が拳を握りしめた時、フェルシア改が光の矢のように割り込んできた。
「お姫様、遅れてすまん!」
海斗の声が通信に飛び込む。
彼の援護射撃で高速艇は爆散し、輸送艇は再び安全圏へと移動した。
だが、その短いやり取りの中で、玲奈の胸には小さな棘のような感情が刺さっていた。
──なぜ海斗は、ミラとあんなに息が合うのか。
戦況は膠着していた。
マルドゥーク旗艦は依然として健在で、数隻の重艦を背後に控えさせたまま動かない。
その動きは、まるで何かを待っているかのようだった。
「……奴らの狙いは星核だけじゃない」
シアは低く呟き、次の命令を下した。
「全艦、敵旗艦の主砲発射準備を阻止せよ。時間を稼ぐ」
その間に、玲奈は密かに送られてきた暗号通信を解読し続ける。
送信者の名前が表示された瞬間、彼女は目を見開いた。
──それは、死んだはずの兄、怜司の名だった。
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