第6章 星の記憶
【第6章 星の記憶】ーーーーーーーーーーーーーー
ビル群の影に沈む新宿の街。
夜空を裂く光線と爆音は、すでに二時間以上途絶えていなかった。
デヴォウラーの甲殻は損傷を受け、ところどころ焦げ付き、六本の脚のうち二本は破壊されている。
だが、残された触手が防御フィールドを展開し、容易には近づけない。
「海斗、いけるか?」
フェルシアの操縦席からミラが声を飛ばす。
「やるしかないだろ!」
接続ケーブルを通じて、二人の視覚と反応速度は完全に同期していた。
彼らは互いに言葉を交わすよりも早く動く。
海斗が脚部の装甲板を撃ち抜き、その瞬間にミラが内側の関節を破壊。
デヴォウラーの防御フィールドが一瞬揺らいだ。
「今だ、コアを狙え!」
上空から蒼白い光が降り注いだ。
シア司令官の旗艦から発射された重力収束砲──限界まで絞り込まれた重力波が、デヴォウラーの装甲を一気に押し潰す。
衝撃で内部の機関が爆発し、青白い球体──《星核》が宙に浮かび上がった。
だがその瞬間、残った触手が最後のあがきで球体を抱え込み、上空へと放り投げる。
「取られるな!」
玲奈は司令部を飛び出し、崩れた高架の上を駆ける。
球体はビルの屋上に転がり落ちた。
追いかけた玲奈は、触れた瞬間に視界が白く弾け、異星の景色を見た。
無数の恒星、崩れ落ちる惑星群、そして滅びゆくプレアデスの母星。
声が響く──
『この記憶を継ぐ者よ、我らの過ちを繰り返すな』
玲奈が息を呑む間に、背後からシアが歩み寄った。
「それが……我々が求めていたものだ」
玲奈は振り返る。
「星核……これは何なの?」
シアの表情は険しい。
「星核は、かつて我々プレアデスとマルドゥークが一つの種族だった頃の記憶と技術の結晶だ。
これを失えば文明は衰退し、やがて滅びる」
「じゃあ……あなたたちの戦争は、これを奪い合うための……?」
玲奈の問いに、シアは短く答える。
「そうだ。そして地球にも、同じものがあと二つ眠っている」
その言葉を聞いた瞬間、玲奈は理解した。
──この戦争は、まだ序章に過ぎない。
遠く、夜空の向こうに無数の光点が現れた。
マルドゥーク艦隊の増援が、地球軌道上に到達したのだ。
シアは旗艦に通信を入れる。
「全艦、上昇準備。次の戦場は宇宙だ」
海斗は玲奈の傍らで、星核を見つめながら呟いた。
「……結局、俺たちは何を守ればいいんだ?」
その答えは、まだ誰も持っていなかった。
#宇宙SF