第2章 黒い降下者
【第2章 黒い降下者】ーーーーーーーーーーーーー
黒い流星群は、夜空を裂くように降下してきた。
その速度は音速を遥かに超え、大気との摩擦で赤く輝きながら尾を引く。
神城海斗は玲奈の手を引き、慌てて研究棟の廊下を駆け抜けた。外から響くのは、明らかに自然災害とは異なる爆音と衝撃波。
「くそっ、これはただの隕石じゃない!」
海斗が叫ぶと同時に、ガラス越しに一つの物体が隣接ビルの屋上に突き刺さった。
金属質の殻が亀裂を走らせ、内部から銀色の液体があふれ出す。
玲奈は目を見開いた。
「……あれ、動いてる……」
液体は凝固し、節くれだった脚を形成しながら人型へと変形していく。頭部らしき部位がこちらを向くと、深紅の双眸が闇の中に浮かび上がった。
次の瞬間、研究棟の窓が粉砕された。
衝撃波とともに、鋼の獣のような異形が突入してきたのだ。
全長二メートルほど、四肢は刃物のように鋭く、背部には昆虫の羽のような構造がある。
「動くな!」
背後の廊下から、特殊装備を身に着けた防衛省の対外特殊事案部隊(通称TFA)が飛び込んできた。
電磁パルス銃が火を噴き、閃光と衝撃音が研究棟を震わせる。
海斗は玲奈を抱き寄せ、床に伏せた。
異形は閃光弾を浴びると一瞬ひるみ、背部の羽を震わせながら窓の外へ飛び出す。
しかし、その逃走の瞬間に海斗の視界に焼き付いたのは、肩部のエンブレムだった──円環に交差する三本の槍。
「神城海斗だな?」
戦闘が収束した直後、TFAの隊長と思しき男が声をかけてきた。
鋭い眼光と短く刈られた黒髪、全身は耐弾繊維の戦闘スーツに包まれている。
「お前が観測した電磁パルス信号は、我々も確認している。だがこれは“公には存在しない現象”だ」
「隠すつもりですか? 現実に、あれはここに来た!」
海斗の声に、隊長はわずかに口元を歪めた。
「……知るべきではない情報もある。だが、お前と彼女はもう見てしまった」
玲奈はまだ震えていた。
だが、彼女の耳にはまた“声”が響いていた。
〈接触開始──プレアデス前線部隊、地球防衛の意思を確認せよ〉
数時間後、二人は防衛省の地下施設へと連行された。
厚い扉の奥、円形の作戦室には日本語だけでなく、英語、ロシア語、さらに聞き慣れぬ言語の交じった通信が飛び交っている。
大型スクリーンには、東京上空に展開する無数の黒い降下者の映像。
TFA情報官が説明を始めた。
「彼らは“マルドゥーク”と呼ばれる異星種族の戦闘機械群。母星間戦争の延長として、地球圏に進出してきたと推測される。
対抗勢力は“プレアデス”と呼ばれる人型種族──女性だけの軍事文明だが、今回は男性も含む部隊が確認されている。恐らく、長期戦争での人口構造変化によるものだ」
スクリーンには、青白い装甲を纏った異星兵士たちがマルドゥーク艦隊と交戦する姿が映し出される。
彼らの動きはしなやかで、人類の兵士とは明らかに異なる反応速度と技術を持っていた。
突然、作戦室が赤く点滅し、緊急警報が鳴り響いた。
「東京湾上空にマルドゥーク強襲艦接近! プレアデス迎撃隊、都市上空で交戦開始!」
海斗と玲奈は半ば強引に防衛隊員に引き立てられ、地下施設の観測室へ移動させられる。
そこから見えたのは、夜空を舞う光と影の戦争だった。
プレアデスの艦載機が青白いプラズマ弾を放ち、マルドゥークの艦隊が黒い粒子砲で応戦する。
衝撃波が上空で炸裂し、都市のビル群に反射する光が、まるで星間戦争の断片を地上に再現していた。
「……夢じゃない、これが現実だ」
海斗の呟きに、玲奈は唇をかみしめた。
「でも、なんで私たちが巻き込まれてるの……?」
その時、作戦室の通信官が声を上げた。
「プレアデス艦隊旗艦より地球代表者への直接通信要請! 識別コード……玲奈・タチバナ!?」
玲奈は目を見開き、海斗と視線を交わす。
胸の奥で、あの声が再び響いた。
〈あなたが選ばれた。地球の未来は、あなたとその隣にいる者の手に委ねられる〉
そして──作戦室の中央スクリーンに、銀色の肌と紅い瞳を持つプレアデス司令官の姿が映し出された。
「地球人よ、時はない。我らの戦争は、この星をも巻き込む。選べ──共に戦うか、滅びを受け入れるか」
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