兵糧攻め
リディアが戦への決意を固めると、すぐに次の作戦について話し合うことになった。
次に狙うはノルデン城。
ロートバルク城を素通りすると見せかけた時に偽装標的にした城である。
この地の領主はハルトヴィン・クラウゼ侯爵。
目立ったところはないが、忠誠心のとても強い男だ。
ゼノもこの辺りの領主に調略を仕掛けているが、その成果は芳しくない。
それはこのハルトヴィン将軍の影響によるものだと考えている。
寝返ったことが分かったらすぐにでも真っすぐ攻め込んできそうな、実直さと恐ろしさがあるのだ。
地図を見ながらゼノが言う。
「何とも言い難い城だな」
「本当に特徴がない」
「だからこそ弱点も見つかりませんわ」
先の戦と同じことをしても、敵は引っかからないだろう。
誰にも妙案は浮かばず、時間だけが過ぎていく。
「もう正攻法しかねえんじゃねえか」
ガロが投げやりに言う。
ヴォルドもそれに頷く。
「いつもいつも鮮やかな作戦で勝つなんて無理でしょうよ」
「まあ、一度攻めてみないと敵の力量もわからんしな」
ということで、次の日に攻撃を仕掛けてみることにした。
ノルデン城には三千の兵が籠っている。
中規模の城なので、それで十分全ての場所を守ることができる。
敵の守備はとても堅く、崩れる素振りもない。
さすがのゼノも攻めあぐね、犠牲が増える一方だった。
「引き上げ!」
ゼノが号令をかける。
これ以上続けても無駄だと思い、日の高いうちに攻撃をやめた。
ゼノ、ガロ、ヴォルドが言葉を交わす。
「こんなに攻めにくい城だったとは」
「いや、城と言うよりも守っている将がうまいんだ」
「ハルトヴィン・クラウゼ将軍だったな。忠誠心の強さ以外の話を聞いたことがなかったが、基本に忠実な堅い守りだ」
ここでゼノが決断を下した。
「兵糧攻めだ」
「兵糧……攻め」
城を完全に取り囲み、敵の兵糧が尽きるまで待つ。
消極的ではあるが、兵糧の運び込みを阻み続けていたらほとんど犠牲なく勝てる。
それほど規模の大きくないこの城に三千の兵が籠っているのだから、それほど長くは持たないだろう。
戦の経験の少ないリディアだが、その作戦は効果的だと思った。
「この城を囲んでいる間に、周辺領主の調略も並行して行おう。忠義に厚いハルトヴィン将軍を降せば、話を聞いてくれる領主も増えるに違いない」
「でもこの辺りの領主はハルトヴィン将軍を誇りに思っていますからね、何としてでも兵糧を城に運び込もうとしてくるんじゃねえですか」
「そうか、窮地になればなるほどハルトヴィン将軍を助けようという気持ちが強まるか」
「まあ敵さんも一枚岩じゃねえでしょう。どこか崩せるところがないか探ってみまさあ」
それから、城を取り囲んでの持久戦が始まった。
王都からロートバルク城に兵糧が運び込まれているので、こちらは十分に食糧はある。
だが、ノルデン城の兵糧はどんどん減っていった。
それを知った周辺領主は、協力して兵を送り込んできた。
何とか包囲を破ろうと、かなりの猛攻を仕掛けてきた。
けれど、ゼノの騎士団とラグリファル軍を破ることはできない。
敵は何度も攻めてきたが、その度に兵糧を奪われるだけだった。
「敵にルナがいたら兵糧を運ぶのも簡単なのにね」
リディアが巨体を香箱座りのように折りたたんでいるルナを撫でながら言った。
実際、国境が兵糧攻めに遭った時はルナに兵糧を運んでもらったのだ。
「聖獣様が味方をしてくれてるってのは心強いもんですなあ」
ヴォルドがしみじみと言う。
山賊ヴォルドの砦にグリモー侯爵が攻め込んできた時からルナと一緒に戦っているヴォルドには、感慨深いものがあるのだろう。
みなが感謝の視線を向けると、ルナはすましたように「フルルゥ」と鳴いた。




