決意
リディアは、ミルファーレ村に来て良かったと思った。
ガルドとマリィが想いを交わし合った仲になった。
結婚に関してはまだ決まっていないけれど、その時はぜひ来てほしいと言ってもらえた。
出席できるといいな。あ、でも軍について行かなかったらずっと村に居れるのか。
……私は戦に向いていない。そりゃあそうだ。
ただの伯爵家の娘である私は、教養としてある程度の軍事知識は習ったけれど、戦いに向いているはずがない。
——だけど。
ヴァルハルゼンを倒して平和にしたい、その願いを他人任せにしていいのだろうか。
そんなことを考えながら、リディアは前線のロートバルク城の上空に着いた。
とても天気の良い日だ。風も心地良くて、気分がいい。
ルナが、着地態勢に入ろうとする。
「……?」
降りようとするところに、今日はなんだか兵がたくさんいる。
「ルナ、踏まないように気を付けてね」
そんなへまをするルナではないが、一応確認しておくと「フルルゥ!」と鼻を鳴らすように鳴いた。
兵が待ち構える真ん中に降りると、口々に
「お帰りなさい、リディア様」
「ルナ様もお帰りなさい」
と熱烈な言葉をかけてくる。
どうしたのだろう、と思っていると、ゼノが現れた。
「俺たちが思っている以上に、リディアとルナは兵の士気を高めていたようだ」
兵の歓声は続く。
「お二方がいてくれたら、力が湧いてくるんです」
「リディア様がルナ様に乗って敵を一喝してくれた時、勝てるって確信しました」
あたたかい声が胸に響く。
けれどそれは、少しこそばゆくもあった。
ガロも降りてきて、自嘲気味に言う。
「嬢ちゃんとルナがいない間、兵が少し不安そうでなあ。見捨てられたんじゃないかってな」
ロートバルク城の戦闘の時は、リディアもルナもいなかった。
そのうえまたどちらも揃っていなくなったものだから、兵の間に少し動揺が走ったのだ。
それほどまでに、聖獣が味方しているという事実は兵たちにとって大きかった。。
それを使役しているリディアも、まるで聖女のような存在になりつつあるそうだ。
それでいてリディアは一般兵にも気さくに接しているので、非常に人気が高い。
「……私は、ここにいてもいいのですか?」
震える声で、リディアが尋ねる。
「当たり前じゃないですか」
「やっぱり見捨てるつもりだったんですか?」
「いてもらわないと困ります」
兵が口々にリディアの存在を肯定する。
兵たちは、リディアの葛藤もガロの気遣いもゼノの心配も知らない。
いてくれるのが当然だと思い、いないと不安になる。
だから、「ここにいてもいいのですか」という問いが不穏に聞こえた。
それはいなくなる可能性を持つ者が口にする言葉だ。
だから、兵たちは必死になってリディアに居て欲しいと叫ぶ。
その熱い声を背に、ゼノが言った。
「リディア。絶対に無理はしないで欲しい。だが、良ければ一緒に来てくれないか」
「嬢ちゃんが戦に向いているとは今も思わねえ。でも、必要とされているのに背を向けることが出来ないのも知ってる。……くれぐれも自分の心を大切にな」
ガロも、渋々ではあるが一緒に行くことを肯定してくれた。
ヴォルドは、ただ嬉しそうな笑顔でこっちを見ている。
リディアが村に行っている時、ヴォルドが言ったことがある。
「マクレイン様が行かないんなら俺も山賊に戻ろうかね」
ヴォルドはリディアを気に入り、リディアといると面白そうだからついてきているだけである。
ここまでの戦っぷりを見ているとヴォルドに抜けられるのは痛いが、部下ではないヴォルドを引き止めることもできない。
「ヴォルド……殿。もしここを出て行くなら、これまでの働きに見合った恩賞を授けたい。そうして、できれば山賊から足を洗ってもらいたい」
年の離れた2人だが、普段はリディアを巡って(最近は冗談ぽくなってきたが)いがみ合っているので、少しやりにくそうにかしこまった。
「山賊砦の連中全員がお天道様の下を歩けるくらいの恩賞ですかい?」
「ああ、それくらいの働きはしてくれた」
「ふうん、お国ってのは随分お金持ちでござるんだねえ」
一応王族への敬意を下手な敬語で表しながら、ヴォルドははっきり答えなかった。
そして、答える必要もなくなった。リディアは、軍について行くのである。
「兵の皆さんを幸せにするためにも、私にできることをやりたい」
リディアは、ヴァルハルゼンとの戦に向かう決意を固めた。
ルナに乗れば数時間でミルファーレ村に戻れるから、戦の合間を縫ってガルドとマリィの結婚式に行く決意も固めている。
お読みいただきありがとうございます!
昨日上げられなかった分、今日二本目です。
明日からまた戦になるでしょう。




