恋愛成就
リディアは、まだ自分の道を決めかねていた。
ヴァルハルゼンを、グラウベルトを倒したい。その気持ちに変わりはない。
ただ、それをゼノやガロに任せきりにしていいのか。
それとも、自分がいると足手まといになるのか。
軍に帯同するには、自分は心が弱すぎるのか。
そんなことを考えながら、リディアはミルファーレ村に降り立った。
暖かくやわらかな空気。
ここに来ると、懐かしい気持ちになる。
王都にいた時よりも、ずっとよく笑うようになった。
王都にいる時は、「冷たい女」とまで言われていたのだ。
屈辱に塗れながら王都を追放された日のことを思い出す。
——エリザベートとお友達になった今でも、少し胸が痛い。
でも、ここに来られて良かった。
そう言えば、前に来た時はガルドとマリィが不器用な恋をしていたっけ。
2人とも想い合ってるのになかなか素直になれなくて——
「何言ってんだ馬鹿野郎!」
「馬鹿はあんただよこの唐変木!」
飛び交う怒号。何かがぶつかって落ちるような大きな音。
リディアが目を丸くしていると、ステラが
「あら、リディアちゃんおかえりなさい」
と声をかけてくる。
ステラはミルファーレ村に住む気の良い中年女性だ。15になる子供がいてリディアのことも可愛がってくれている。
「おかえりなさい……か」
とリディアは胸が温かくなる。
いや、それどころではない。
「ステラさん、この物音や怒号は?」
と言いながらリディアは音の方に向かって歩いていく。
「別に気にすることはないよ。最近はずっとこうなんだから」
「何があったんですか?」
「ああ、リディアちゃんも知っといた方がいいねえ」
そう言いながら、ステラもリディアの横を歩く。
そうしていると、「あら、リディア」とリエラが話しかけてきた。
リエラは結婚しているが、まだ子供はいない。
言ってみれば若奥様で、ステラともリディアとも仲が良い。
そうして三人で音のする方に向かう。
リディアは少し心配そうだが、他の2人はニヤニヤしている。
やがて怒号のする家に着いた。そこは、ガルドの家だ。
リディアが恐る恐る「ごめんください」と声をかけるが、応答がない。
そこでステラとリエラが、無遠慮に扉を開ける。
そこでは、ガルドとマリィが言い争っていた。
ガルドの両親がたまたま留守の時に、マリィが遊びに来たようだ。
そこでもう我慢できないというように、リエラが口を開く。
「聞いてよ!ついこの間のことだけどね、ガルドとマリィが想いを交わし合ったらしいんだよ!」
「え、本当に!?」
「もう想いが通じ合ってるとわかった途端に2人とも遠慮も何もなくなっちゃってねえ、喧嘩ばっかりしてるのさ」
とステラがため息交じりに呟く。
が、その言葉が終わらないうちにリディアが駆け出し、2人を抱き締めた。
「マリィ!ガルド!おめでとう!!」
怒鳴り合いつつ物を投げ合い(きちんと手加減しているが)、そろそろ取っ組み合いに移行しようかという構えのマリィとガルドは、突然の出来事にポカーンとした顔になった。
「ほら、リディアちゃんの前でみっともない姿見せるんじゃないよ」
「どうせお菓子をどっちが多く食べたとかの下らない喧嘩でしょ。とっとと終わらせて、リディアをもてなしな」
今まで喧嘩をしていた2人は赤い顔をして離れ、
「やあ、リディア。いらっしゃい」
「あらリディア、お久しぶりね。オホホ」
などと体裁を繕おうとする。
「ねえ、2人は想いを交わし合ったって本当!?」
あまりにも無遠慮な物言いに、2人の顔はもっと赤くなる。
貴族であるリディアにとって、結婚も政略だった。
エリザベートのように幼い恋心を抱く公爵令嬢もいるが、厳格に育てられたリディアにはその経験がない。
だから、喜びと好奇心が抑えられないのだ。
「そうだ、2人のなれそめをリディアちゃんに聞かせてあげなよ」
「私たちも聞かせてもらってないしねえ」
ステラとリエラの2人は、からかうようにマリィとガルドに言った。
その隣では、リディアが「聞きたい聞きたい」という顔で目を輝かせている。
「せっかくリディアが久しぶりに帰って来てくれたんだからいいよね、ガルド?」
「で、でもよお」
「私は言いたくて仕方なかったのに、ずっとガルドに口止めされてたの!」
「だ、だって恥ずかしいじゃねえかよ」
そんなガルドを無視してマリィは3人の女性に飛びついた。
「聞いて聞いて、あのね、ガルドったら——」
マリィは話を大げさに、ガルドは控えめにしようとせめぎ合いながらのなれそめ話を、リディアは心から幸せな気持ちで聞いていた。
お読みいただきありがとうございます!
ガルドとマリィの恋模様、前回は85話でした。
よかったですね。




