余燼
結局捕虜は全員討ち死に。こちらにも二千に近い犠牲者が出た。
何よりラグリファル軍の甲冑を奪われたことが大きかった。
そのため、同士討ちで犠牲になった者も少なくない。
「武具の管理を怠った俺の責任だ」
そう思いながら、ゼノは城に戻る。
少し息を整えてから、ゼノはリディアやガロ、ヴォルドのいる部屋に入った。
「ゼノ……」
すがるような目で見上げてくるリディアを安心させるように、ゼノは穏やかに言った。
「大丈夫だ。もう終わった」
「……犠牲は?」
「約2千。俺が武具の管理に気を配らなかったせいで、同士討ちが起こった。敵もなかなかの知恵者だったようだ」
ここで損害を誤魔化しても仕方がない、と思ってゼノは本当のことを言った。
もし今後もリディアが作戦を考えるのなら、どうせ兵の実数は把握される。
「申し訳ありません、私が……」
リディアは、蒼白な顔でその言葉を口にした。
今にも崩れ落ちそうなリディアに、ガロが厳しく言い放つ。
「お嬢ちゃん、こんなことで心を痛めるくらいなら戦になんざ関わらない方がいい。戦をしていたら、こんなことは日常茶飯事だ」
「……」
ゼノは、深いため息をついた。
リディアに優しい言葉をかけたいが、ガロの言うことはあまりにも正しかった。
リディアが近くに居てくれることが嬉しくて、つい目を背けていた。
こうして向き合ってみた時、ゼノも「リディアに戦をさせたくない」と思った。
「嬢ちゃんは優しい子だ。戦になんざ向いちゃいねえ。……俺は嬢ちゃんに穏やかで温かい人生を送って欲しいんだ」
「リディア、俺もそう思う。戦は俺たちに任せて、ミルファーレ村で待っていてくれ」
リディアは、目線を下げて考える。
自分がどうしてここにいるのか。
ゼノは優秀な指揮官だ。自分がいなくても戦える。
大国のラグリファルには他にも優秀な将軍もいる。
ゼノがこのところの勝利をリディアの作戦のおかげだと喧伝してくれているが、リディアの存在を煙たく思う者もいるだろう。
「……少し、考えさせてください」
そう言って、リディアは部屋を出て行った。
***
それからしばらくは、次の戦の準備に明け暮れた。
ロートバルク城の修理や整備を行い、周辺住民を鎮撫し、軍需物資の到着を待つ。
リディアは、様々な雑事を手伝った。
まだ答えは出ていないが、とにかく忙しい。
そんな中、自分だけ城を離れるのは心苦しかった。
リディアには事務処理能力もあるため、居てくれると力にもなる。
それに、リディアとルナの存在は兵の癒しにもなった。
ヴァルハルゼンとの戦いの前に、ルナに乗って敵に聖獣の怒りを喧伝するリディアの姿は、味方の士気を高めていた。
そのうえ4mの巨体のルナが結構人懐っこいので、マスコットのようになっていたのだ。
さらにルナは力もあって、運搬などの仕事を手伝ってくれる。
ゼノもガロも、この点においてリディアとルナがいてくれて良かったと思わざるを得ない。
また、作戦を立てる上でもリディアとルナの存在が非常に役立っている。
リディアと一緒ならルナはゼノを背中に乗せてくれるのだが、そうやって空から敵国の地形を見ることができるのは、作戦を立てる上で非常に有用だ。
そして、リディアの作戦もゼノに刺激を与える。
必要か必要でないかと聞かれれば、リディアは必要だと言えるだろう。
それでも。リディアを巻き込んでいいのだろうかとゼノも悩むのだ。
そうして、二か月の日々が過ぎた。
リディアの心はまだ揺れている。
捕虜の蜂起がどうしても忘れられない。
自分の軽はずみな言葉によって2千の犠牲が出てしまった。
自分だけのせいではない。みんなもそう言ってくれる。
でも、自分がそれに加担したのは間違いない。
これを日常茶飯事と言えるようにならないといけない。
戦いを終わらせるために戦い続けること。それは何とか受け入れられる。
それでも、何かが足りない。
リディアは、原点に戻ってみようと思った。
「一度村に戻ってもよろしいでしょうか」
おずおずとリディアは切り出した。
「もちろんだ、ゆっくり羽を伸ばしておいで」
「村のみんなによろしく伝えてくれ、嬢ちゃん」
ゼノとガロは、快く送り出した。
ヴォルドは孫のように思っているリディアと一緒にいたいが、怖くてルナに乗れないのでしぶしぶ送り出した。
そうして、リディアはルナに乗る。
何日もかけて落としたロートバルク城は、ルナに乗ればミルファーレ村から1時間ほどの距離でしかない。
ルナから降りたリディアは、およそ三か月ぶりに訪れるミルファーレ村に温かさを感じた。




