蜂起
エディンが斬られた直後、他の見張りの者が異変を知らせる鐘を打った。
その後、見張りは全力で逃げ出した。
30人の見張りのうち、エディンを含めた11人は討ち取られたが、他はうまく逃げおおせた。
ここにいても多勢に無勢であるし、周りにいる兵士たちに詳細を伝えなくてはいけない。
だから、こういう時は逃げるのが正解だ。
「それ以上追うな!」
副将の男はそう言って皆を静め、千八百の味方を武器置き場に連れて行った。
「同士討ちを避けるために右の籠手は外しておけ」
みんながラグリファルの甲冑をつけるのだから、乱戦になると見分けがつかなくなるかもしれない。
それを見越した指示だった。
それから、捕虜たちは整然と並んで移動を始めた。
これも副将の男の指示だ。
周りで騒ぎが大きくなってきた。
叫ぶ声も聞こえる。
それでも粛々と移動を続ける。
ラグリファル軍の将が声をかけてきた。
「おい、一体どうなってるんだ?」
副将の男は答える。
「捕虜が蜂起したらしい。俺たちは退路を断つよう命じられてこっちに向かっている。お前たちはあっちに行って加勢してくれ」
そうすると、その男は兵を率いてその方向へ進み始めた。
「案外うまくいくもんだな」
副将の男は、そうほくそ笑んだ。
しかし陣の外れまで来たところで
「あれが捕虜です!」
と指をさされた。さっき逃がした見張りがそこにいた。
「さすがにこのまま逃げられるわけはないか」と呟くと、副将の男は部下に指示を出す。
「出来るだけ散らばって戦え!」
捕虜たちはその指示に従い、散開してラグリファル軍に襲い掛かる。
似たような甲冑をつけているので、ラグリファル軍は同士討ちを避けるために及び腰になってしまう。
捕虜の側は右の籠手を着けていないからすぐにわかるが、ラグリファル軍はそれを知らない。
捕虜たちは、優勢に戦いを進めていった。
だが、城外にラグリファル軍はおよそ1万いる。
戦っているのを見て、どんどん加勢が増えていく。
***
「城外が騒がしいな」
ゼノが城門の上に立って呟く。
リディアやガロ、ヴォルドも集まってきた。
そこに伝令が走ってくる。
「捕虜が蜂起しました!現在も交戦中です!」
それを聞いた時、リディアは顔を覆ってうめいた。
「私が……生かしてあげて欲しいなどと言ったから……」
「リディア、それは違う。俺たちも捕虜を殺すつもりなどなかった。リディアが何も言っていなくても同じだったんだ」
「そうだ、マクレイン様は何も悪くない」
「嬢ちゃん、みんなが同じ意見だったんだ。自分一人で背負い込むんじゃねえよ」
それでも、リディアは震えが止まらなかった。
「私は鎮圧に向かう。ガロ、ヴォルド、リディアを頼む」
そう言って、ゼノは出て行った。
ガロとヴォルドは、優しくリディアの背中をさすってやった。
***
「もう一息だ」
味方の数もずいぶん減ってしまった。
それでも、副将の男は脱出を諦めなかった。
確実に陣の外に近づいている。
脱出が目的なのだから、進む道は一つだ。
立ちふさがる敵を倒し、後ろからすがってくる者を蹴飛ばす。
かなり長い間戦っていて、息が上がりつつある。
それでも、敵の壁は薄くなっている。
もう少し進めば、壁を突き抜けることができる。
そうすれば、あとは逃げるだけだ。
城は落とされてしまったが、敵にもそれなりの損害を与えて脱出する。
この先のノルデン城にでも逃げ込んで、援軍を待ってロートバルク城を取り戻そう。
敵もやったことだ、こちらもそれをやり返すのだ。
そんなことが頭をよぎった時、絶望が横から襲ってきた。
ゼノの率いる騎士団が到着したのだ。
「……!!」
副将の男は、失敗を悟った。
馬が相手では、逃げ切れるわけがない。
ましてこちらは疲れ切っているのに、向こうは今来たところだ。
「いいところまで行ったんだけどなあ」
そう言って部下と顔を見合わせ、少し微笑み合う。
そして、捕虜たちは玉砕した。
***
ゼノは、捕虜を収容していたところに足を運んだ。
そこには、エディンの変わり果てた姿があった。
明るい男だった。
その明るさに、何度も助けられた。
不器用な自分ではできないムードメーカーという役割を、この男は果たしてくれていた。
「……すまん」
そうゼノが語り掛けた時、雨が降り始めた。
ゼノの頬を、雨粒が流れていった。




