咆哮
「あーあ、捕虜の見張りなんてついてないなあ」
エディンは、あくびをしながら愚痴を言った。
ゼノの部下で少しお調子者のところがあるエディンだが、騎士団のムードメーカーのようなところがあった。
国境が攻められて退却する時も、エディンのおかげで重い空気が和らいだのだ。
捕虜がいなければ夜もぐっすり眠れるのは確かなので、エディンの愚痴もわからなくはない。
ただ、戦に勝ったからこそ捕虜を捕えることができたのだ。
ゼノは、そんなエディンに
「しっかり見張っておけよ」
と声をかけた。
「はいはい、夜の見張りはお任せください。ゼノ様は夜はちゃんと寝ておかないと、リディア様に寝不足の顔なんか見せられませんものね」
「うるさいバカ者」
「今からレディのところに行くような真似しちゃだめですよ」
「行くわけないだろ」
ゼノは少しむきになりながら、エディンとの会話を楽しんだ。
エディンといると明るい気持ちになれる。
騎士としては及第点と言ったところだが、重い雰囲気もエディンがいれば吹き飛ぶのだ。
「まあしっかりやってくれ」
そう言って、ゼノは背を向けた。
***
エルネスト将軍の副将は、主だった者と共に縄で縛られていた。
千8百人を縛ることはできないので、捕虜の多くは城外の柵の中に閉じ込められている。
縛られているのは副将の男を含めて3人で、そこから少し離れた建物の中に幽閉されていた。
彼は思い返していた。
城にいた兵は4千、将軍が3千を連れて出撃し、今いるのが千8百。
逃げてきた兵を回収した時3千5百の兵がいたから、千7百のラグリファル兵を城に入れてしまったのか。
数の上では互角だが、こちらはまったく気づいていなかった。
敵の本隊が到着した途端に城門を守る兵に襲い掛かって、城門を開けたのだろう。
自分が気づいた時には、退却路さえ押さえられていた。
「見事な負け戦だな……」
そして、今はこうして捕虜の憂き目に遭っている。
だが、この男はまだ諦めていなかった。
縛られる時に力を入れて、少し縄が緩むようにしていたのだ。
かなり長い時間はかかったが、やがて腕を拘束していた縄がほどけた。
捕虜のほとんどは、城の外に集められている。
見張りは30人ほどなのでその気になれば打ち倒すことはできるが、周りにも敵兵が無数にいる。
そもそも武装解除されているうえに指揮者がいないので、蜂起を考えるような者はいない。
指揮をする者、その主だった者たちはここにいる。
建物の外に見張りがいるが、縄で縛っていることに安心しているのか中の様子はたまに覗き込む程度だ。
その隙をついて、エルネスト将軍の副将の男は周りの者の縄もほどいた。
それから見張りのものに声をかける。
「なあ、水を飲ませてくれないか」
そう言われて見張りの者が建物の中に入った時、扉の横に隠れていた2人が一斉に襲い掛かって口をふさぐ。
それから、命と武装を奪う。
副将の男は、しばらく建物の外で見張りのふりをして立っていた。
そうして周りの様子を窺い、中にいる2人に「しばらくここで待っていてくれ」と声をかける。
それからこの男は、大胆に陣の中を歩き回った。
ラグリファルの武装をした者が当然のように歩いていても、誰も気には留めなかった。
それに辺りは暗くなっているので、外に出ている人自体が少ない。
「ここに武器が置いてあるのか……」
ラグリファル軍は大軍なので、武器も城内に入り切らない。
副将の男は、さらに捕虜の場所も把握した。
そして建物に戻ると、一緒につかまっていた2人を連れて武器置き場に向かう。
そこでラグリファルの武装をして、3人で堂々と陣内を歩いた。
それから捕虜が集められている場所に行き、見張りに声をかける。
「ゼノ様の知り合いが捕虜の中にいるらしい。探すように言われているので中に入るぞ」
そう言われて見張りの兵は道を開けた。
その横にいたエディンは、少し違和感を抱いた。
「こんな時間に?それに、その知り合いの顔をこの3人も知っているのか?そもそも知り合いがいるのなら、ゼノ様は自分で会いに来るのではないだろうか」
エディンは、3人に「待て、貴殿らの所属は?」と声をかける。
それに答える声はない。その代わりに、
「立ち上がれ!我に続け!」
という副将の男の咆哮が響いた。
ラグリファル軍にはこの男を知っている者はあまりいない。
だが、捕虜たちは副将の男の声を知っている。
城の守備兵は、寄せ集めの兵ではない。
虜囚の辱めに耐えていたのだ。
捕虜たちが立ち上がって鬨の声を上げた。
「貴様っ!」
エディンが腰の剣に手をかける。
だが、その剣が敵の剣と交わることはなかった。
副将の男の剣が翻ると、エディンの首が飛んだ。
お読みいただきありがとうございます!
エディンは40話と52話に登場しました。
私のキャラクター設定ファイルには「大した役ではない」と書いてありました。かわいそう。
副将の男、思ったより出てくるな……。




