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婚約破棄された伯爵令嬢ですが、追放先の辺境で聖獣に愛され過ぎて困っています  作者: 扇風機と思ったらサーキュレーター


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会議が終わった夜、ゼノの導きでエリザベートとリディアが顔を合わせた。

エリザベートは、そこで印鑑偽造の種明かしを聞く。

父が本物の印を捺したことを知っているエリザベートは、ようやく真実を知った。


「リディア様、なぜ私を……」

「王都を追放された時、私はエリザベート様を心からお恨み申し上げました」


エリザベートは、視線を落とす。


「でも、何かと気を配って下さっていたでしょう?」


ミルファーレ村のリディアの家の前に、お金や薬などが置かれていたことがあった。

それはエリザベートの差し金だったのだ。


「それに解散させた騎士団を集めることも大変だったでしょうに、詫び状まで書かれていました」


エリザベートは国のためを思って国境騎士団を減らしたが、それはグラウベルトの謀略に乗せられた結果であった。そのことを自分の責任として受け止めていた。


「そんなエリザベート様は、この国に必要な方だと思いました」


「リディア様……」


「私は伯爵の娘に過ぎません。「様」なんて付けられては恐縮してしまいます」


朗らかに笑ってリディアは付け加える。


「国境近くの村に追放してくださったから、素敵な人たちとたくさん出会うことが出来ました。ここにいるより幸せかもしれませんわ」


そう言って、リディアは屈託ない笑顔を見せる。

「ゼノお兄さまはこんな素敵な人を好きになったのね……」

エリザベートは、王太子の婚約者としての自分を思い返す。

「こんな人が相手じゃ、勝ち目ないなあ……」


そしてエリザベートは、公爵家の娘としての自分を取り戻す。


「リディアさん、今回のことでは大変助かりました。また、過去の過ちについてもお詫びいたします」


そう言って、エリザベートは深々と頭を下げる。


「私はあなたに償いがしたい。ご恩返しがしたい。でも、何をすればいいのかわからない。あなたが気の済むようなことがあれば、おっしゃってちょうだい」


リディアは、困ったような顔でゼノの目を見る。

そして、


「エリザベート様、償いに関しては貸しにしておきますわ。ただ恩返しとして、お父様はきっちり締め上げておいて下さいまし」


元はといえばエリザベートの父ハロルドが、大金に目がくらんで公爵家の印を軽々しく捺したことが原因なのだ。


「ええ、しばらくパパとは口をきいてあげませんわ!」


娘を溺愛しているハロルドには一番効きそうな、ただパパを愛しているエリザベート自身も辛そうなことを宣言した。

なお、後にエリザベートはこの騒ぎを長引かせたことの責任を取って(本心では父の不始末の責任である)、セルヴァ家の所領の一部を王国に返上することを発表した。


***


この後の会議でヴァルハルゼン侵攻の許可を得たリディアとゼノは、国境に帰ることとなり、その際、聖獣ルナのお披露目をすることとなった。


「これが聖獣の成獣姿……」

「立派なものですなあ」

「小さい聖獣は見たことあるのですが……」


などという言葉が行き交う。

4mほどあるルナに、エリザベートは少し怯えていた。

リディアはそんなエリザベートの手を引いて、


「エリザベート様、ルナを撫でてやってくださいませ」


と声をかける。

エリザベートはおずおずとルナに触れ、


「ル、ルナと申すのですね……よく働いてくれたと聞いてい……」


と言ったところで「フルルゥ!」というルナの声に腰を抜かしそうになる。


涙目でリディアを見つめるエリザベートに、「大丈夫ですよ」と目くばせをして手を取る。

その手をルナに触れさせ、「目を閉じてください」と告げる。

エリザベートが言うとおりにすると、その頬を湿った物体が舐め回す。


「ヒャア!?」と声を上げて目を開けると、ルナが優しい目で自分を見つめながら頬を舐めている。

恐る恐る手を出すと、大きな舌を一生懸命縮めてその手を舐めようとしてくる。


「かわいいですわ」とリディアを見ると、「一緒に乗りましょう」と笑顔で怖いことを言ってくる。

腰を引いて首を横に振っていると「じゃあこれが償いの分ですわ」と笑顔で言われてしまった。

エリザベートがリディアと一緒にしぶしぶルナに乗ると、ゆっくり安全運転でルナが飛び立つ。

空を飛ぶ感覚は本来お転婆のエリザベートにはとても気持ち良く、すぐにご機嫌になった。


「エリザベート様、大丈夫ですか?」

「リディア、2人の時は呼び捨てでいいわ!……こんなことを言う資格は私にはないかもしれないけれど、お友達になって欲しい!」


グラウベルトがいなければ、この人ともっと早く良い関係になれたかもしれないのに。

そう思いながら、リディアも大きい声を出す。


「エリザベート!なんて本当に呼んでもいいの!?」

「もちろんよ!あなたは私の恩人だもの!」


そして、2人は地上に降り立った。

そこには、毅然としたエリザベートの姿があった。


「ヴァルハルゼンへの侵攻、これを我が国最優先事項とします。兵力、武具、兵糧、必要なものは叶う限り届けましょう」


「有難き幸せ」


ゼノとリディアは、目的を果たして帰路についた。

ルナに乗って国境を目指す2人を見送る人並みが去り、一人になった時、エリザベートは「リディアも幸せになってね」と呟く。

その時、エリザベートの瞳からそれまで我慢していた涙がとめどなく溢れた。


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