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婚約破棄された伯爵令嬢ですが、追放先の辺境で聖獣に愛され過ぎて困っています  作者: 扇風機と思ったらサーキュレーター


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偽造

ゼノとリディアは、胸を張って扉を開けた。

そこには王太子レオンとその婚約者のエリザベート、そして重臣たちが居並んでいる。

少しのざわめきが起こった。


「兄上……」


レオンが小さく呟く。

その前にゼノが膝をつく。


「王太子殿下におかれましてはご機嫌麗しゅう」


「う、うむ。そちも此度の戦ではご苦労であった」


レオンは、精一杯威厳を取り繕った。


「そなたらの参内はエリザベートより聞いておったが、如何用か」


重臣たちの視線がゼノに集まる。


「この度はヴァルハルゼンの侵攻により国境周辺に騒乱を招きましたが、それを鎮圧し、国境を奪還することに成功いたしました。その際、こちらのリディア・グレイス・マクレインの働きが顕著でありました故、名誉の回復をお願いいたしたく」


レオンが、エリザベートの方に視線を送る。

エリザベートは、それに対して頷きを返す。


「ふむ、それは良いのだがおなごの身でどう戦に貢献したのじゃ?リディア、そちは槍使いにでも優れておったのか?」


「いえ、王太子殿下。この者は聖獣と契約を交わし、その力を我が軍にもたらしたのです。また、数々の献策によって勝利を手繰り寄せました」


レオンは目を丸くして聞き返す。


「聖獣じゃと?あれを使役する者が本当におるのか」


聖獣の存在は昔話のように知っている者もいれば知らない者もいる。

王家に近い者や長く仕えている者の間ではまことしやかに言い伝えられており、聖獣自体を見たという者は珍しくない。

だが、それが人と契りを交わすことに対しては懐疑的な者が多かった。

長い間、その実例がなかったのだ。


「聖獣については、後ほどご覧に入れましょう。どうか、リディアの名誉回復をお願いいたします」


レオンも一度は追放に加担した身であるため、少しばつの悪さを感じていたが、むしろ名誉を回復することができればその罪悪感を薄めることができる。


「よかろう。以前のリディアの罪については不問に付す」


その場には、リディアの父のギルベルト・フォン・マクレイン伯爵もいた。

突然娘の名誉が回復されたことで、涙を浮かべる。

さらにゼノが続けて言った。


「もう一つ、お話がございます」


気圧されたようにレオンが続きを促す。


「ヴァルハルゼンへの侵攻の許可を願い出ておりましたが、なかなかお答えいただけずにいます。そこで様子を窺いますと、どうやらそれどころではない騒ぎが起こっているご様子」


「う、うむ。少し国内の情勢がのう……」


とレオンが言葉を濁す。


「エリザベート様がヴァルハルゼンと通じ、援軍を遅らせたという話を漏れ聞きました」


あまりに真っすぐな物言いに、重臣たちがざわめく。

今まで微妙な駆け引きの中で、腫れ物に触れるような会議を続けてきたのだ。


そこでリディアが声を上げる。


「実地より、これに命令書の原本をお持ちしました」


その言葉を聞いた時、エリザベートは合点がいった。

自分を断罪するためにリディアはここに来たのだ。

無実の罪でリディアを追放した自分は、彼女にとって完全なる悪だ。


だがむしろ勢力争いに汲々としている貴族たちより、リディアに断罪される方が気が晴れる、とエリザベートは思った。

私が罪を負うことでセルヴァ家を、パパを救うことができる——そう思った時、


「この命令書はヴァルハルゼンの謀略に相違ありません」


予期せぬ言葉が響いた。


「エリザベート様の筆跡は、器用な者には真似をすることができます。ですが、公爵家の印は簡単に偽造できるものではありません。実際、ここに捺されている印はうまく真似た偽物です」


そう言ってリディアは命令書を重臣たちに回した。

エリザベートの父であり、まさに印を捺したハロルドは呆けた顔で「た、確かにこれは我が家の印ではない」と呟いている。


実は、これこそリディアの偽造した命令書だった。

エリザベートの命令書の写しを手に入れたリディアが、腕の良い印鑑屋に公爵家の印の模倣を大至急で依頼したのだ。

形はそっくりだが、公爵家の印は3つの材質が使われており、印肉にも仕掛けが施されているから違いが分かる。


写しが出回っていると聞いた時、リディアはこの策を思いついた。

本物の命令書を持っていておかしくない立場の者だからこそ、説得力が生まれるのだ。


「本来援軍の将は印が本物かどうかを確かめねばなりませんが、慌てていてそれを怠ったようです。それも重罪ではありますが、彼の者も国境戦にて大功を立てておりますゆえ何卒ご容赦のほどを」


確認不足によって軍の動きを違えることも重罪だが、敵と通じることと比べると格が違う。

この申し出も、難なく受け入れられた。


だがその時、大声を上げる者がいた。


「そんな馬鹿な!わしは確かにヴァルハルゼンと通じていると……」


それはセルヴァ公爵家の一番の政敵とも言えるアヒーム公爵だった。

グラウベルトは騒乱を大きくするべく、エリザベート失脚によって得をする貴族をけしかけていたのだ。


「誰からそれを聞いたのだ?」


ゼノが睨みつけると、アヒーム公爵は口をつぐんだ。

リディアは、追放された時の弱さなど微塵も感じさせない様子で胸を張っている。


そんなリディアを、エリザベートはただ茫然と見つめていた。


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