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婚約破棄された伯爵令嬢ですが、追放先の辺境で聖獣に愛され過ぎて困っています  作者: 扇風機と思ったらサーキュレーター


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初恋

ゼノは、庶子ではあるが王の長子である。

子供の頃は、当然王都で過ごしていた。

3年後にレオン王子が生まれるが、それまでは王位継承の可能性もあった。

もちろん本人はまだ3歳だから何も考えてはいないが。


そんなゼノは、当然公爵家との付き合いもあった。

レオンよりさらに2年後に生まれたエリザベートは、ゼノによく懐いていたのだ。

子供の頃は、ゼノとレオンとエリザベートはとても仲が良かった。


しかし、その関係は少しずつ形を変えていく。

ゼノが10歳の時、5歳のエリザベートは子供でしかない。

だが、エリザベートはゼノに淡い恋心のようなものを持っている。

そして、7歳のレオンはそれに嫉妬をする。


こういう感情の齟齬は、普通の子どもたちなら成長するにつれて解消されていくだろう。

だが、王家ではそうはいかなかった。

正当な嫡出子であるレオンに取り入りたい連中は、レオンにゼノの悪口を吹き込むようになったのである。

王家の家族仲などより自分の家の栄達の方が大事なのだ。


こうして主にレオンの方がゼノに対する悪感情をこじらせ、エリザベートも周りの大人によって正当な嫡出子レオンの方に近づくよう仕向けられた。

だが、エリザベートは優しくて頼りになるゼノの方が好きだった。

何とか理由を見つけては、ゼノのところに遊びに行っていた。


そんなある日、ゼノは突然辺境に赴任することになった。

王都にいたのではゼノ派とレオン派ができて国内が分裂してしまう。

レオンがあまり政治に熱心でないため、ゼノを持ち上げようという勢力もでき始めていたのだ。


それは、ゼノが望んで父ガラハルトに申し出たことだった。

そのことを聞かされていなかった13歳のエリザベートは、急にゼノがいなくなったことで泣き腫らした。


それから10年が過ぎている。

それでも、現在の苦しい状況も相まってゼノの顔を見た時は涙をこぼしそうになった。

胸に飛び込んで抱きつきたかった。


「ゼノお兄さま……」


つい、昔の呼び方が口からでてしまった。


だが、エリザベートは自分を抑える。

断罪されようとしている自分がそんなに弱くてどうする。

ここで甘えてしまったら、決意が揺らいでしまうかもしれない。


エリザベートは顔を伏せ、事務的な声で言った。


「お久しぶりです、ゼノ様。どういった御用でしょうか」


その態度に一瞬面食らったゼノだが、あえて昔の呼び方で問いかける。


「エリザ、君はお父上の罪を背負おうとしているのか?」


ユリウスの手紙に書いてあったこと、エリザベートの父の行状、エリザベートの性格などを考えると、それは間違いないことだと思われた。


「君が援軍の足止めをする理由が考えられない。あれはお父上がやったのだろう?」


「そのようなことはございません。私の一存でやったことでございます」


「何のために?」


「……ヴァルハルゼンと通じているのです。命令書がその証拠です」


「君はそんなことをするような人じゃない!」


「……ゼノ様、ご存じでしょう?証拠があってその現実が都合が良い者がいる。その者たちは、私はそんなことをする人間だと言うでしょう。勢力争いにまで気が回らなかった私の負けですわ」


エリザベートは、一生懸命国を良くしようと働いた。

そうすることで父の、セルヴァ家の評価を高めたかった。

若いエリザベートは、貴族たちの勢力争いにまで気が回らなかった。

公爵という高い地位にいるうえに王太子の婚約者でもあるエリザベートは、そんなことに気を使う必要もなかった、はずだった。


敵と通じているという疑い。

今まで息を潜めていたセルヴァ家の政敵は、この絶好の機会に一斉に動き出した。

国家反逆罪は、いかなるものも追い落とせる大罪なのだ。


エリザベートの覚悟を知ったゼノは、もう一つの話を切り出した。


「……エリザベート様、リディア・グレイス・マクレインという者のことをご存じでしょうか」


突然の話の転換に驚きつつも、エリザベートは言葉を返す。


「ええ、私の前の王太子の婚約者。私が追放した方ですわね」


「この度の国境戦において、多大な功績を上げました。どうか名誉の回復をお願いできませんでしょうか」


やはりリディアの方が王太子妃に相応しかったのかもしれない、と思いながら、エリザベートはそれを受け入れる。


「わかりました。次の会議でそのことも動議いたしましょう」


「その際は、私とリディアも会議の末端にお加えくださいますよう」


「……私の方からお2人の参加を提言いたしますわ」


そう言ってから、エリザベートは昔の顔に戻った。


「ゼノお兄さまは、その方と深い関係なの?」


「……いや、今はそんな関係ではない」


「今は」ということは、いずれはそうなりたいと思っているのだろう。

それは、ゼノの誠実な言葉なのだ。

エリザベートの初恋は終わった。


「ゼノお兄さま、幸せになってね」


大人になったエリザベートの健気な微笑に、ゼノの胸は締め付けられた。


お読みいただきありがとうございます!

エリザベートが好きになってきました。

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