王都へ
ユリウスからの手紙が届いた。
王都に不穏な動きなどなかったこと。
エリザベートの立場が悪くなっていること。
恐らく援軍の足止めにはエリザベートの父が関わっていること。
それを聞いて、ゼノは考え込んだ。
この件で国内の勢力争いが激化している。
それでは、外国への侵攻などに目を向けている余裕がなくなる。
「一度王都に行かねばならん」
ゼノは、そう決意した。
さらに、今回の戦いでのリディアの功績で、追放処分も取り消せるのではないかとも思った。
リディアの献策がなければ負けていたかもしれないのだ。
「リディア、王都に行かないか」
急な提案に、リディアの目が丸くなる。
「でも私は追放された身で……」
「その処分を取り消させよう。君のご両親のためにも、それはやっておいた方がいい」
リディアは、辺境での暮らしに満足していた。
もうずっとここにいてもいいとさえ思っていたのだ。
だからこそ、ミルファーレ村のみんなを傷つけたグラウベルトが許せなかった。
だが、両親は罪人の娘を持って肩身の狭い思いをしているだろう。
前回王都に行った時、私には何も言わなかったがきっと辛い日々を過ごしているに違いない。
「そううまくいくでしょうか……」
「元々冤罪だろう。そのうえ国を守ったんだ。きっとうまくいく」
当分の間、ヴァルハルゼンの方から攻めてくるような余裕はないだろう。
守りを固める前に攻め込みたいが、今の情勢では許可がいつ出るかわからない。
むしろ自分が直接行った方が早く許可を取り付けられる、とゼノは考えたのだ。
「ルナに二人乗れるかしら」
リディアはそう言ってゼノを連れてルナのところに行く。
試しに2人で乗ってみると、1人の時より多少スピードは落ちるが馬で行くよりはずっと早い、という結論が出た。
乗っている人を落とさないように飛ぶというのは、そんなに簡単ではないのだ。
こうしてゼノとリディアは王都に向かった。
***
エリザベートへの糾弾は激しくなっていった。
セルヴァ家を追い落とすことで勢力拡張を狙う貴族が少なくないのだ。
さすがに自分の婚約者のことなので、王太子のレオンはエリザベートを擁護した。
だが、国家反逆罪の疑いがあるエリザベートを擁護するのは簡単ではない。
そこでエリザベートが口を開いた。
「小臣会議を開きましょう」
——小臣会議。それはガラハルト王が信頼の置ける者だけを集めて開いた会議である。
普通の会議だと、家格の高い者が幅を利かせやすい。
それを避け、能力の高い者だけで自由に発言できる会議の場を設けたのが小臣会議である。
家格の高い者の反発を避けるために「小臣」などという名前を付けているが、実質国の方針はそこで決められていたと言っても良い。
今エリザベートがそれを口にしたのは、会議から父を排除するためである。
当然今も父ハロルドは会議に出席している。
この凡庸な男は娘が勢力争いを制してくれるのを祈ることしかできずにいるが、家族への愛情はとても深い。
娘が罪を被ろうとすれば、猛然とそれを否定して本当のことを言ってしまうだろう。
だから、父のいない場で事を収めたかった。
ガラハルト王の信任厚い優秀な者たちだけの会議——悲しいことだが自分の父は当然その場には呼ばれない。
だが、ガラハルト王のいない今、その構成員は誰が決めるのか。
ここでひと悶着が起きた。
勢力争いにうつつを抜かすような貴族には、小臣会議に呼ばれるような者は少ない。
だから、エリザベートが自分の立場を良くするためにこの提案をしたのだと邪推されたのだ。
結局、その日も会議は紛糾しただけで結論は出なかった。
小臣会議に賛成する者もいたが、なかなか譲らないものも多い。
エリザベートは疲れていた。
頭を悩ませながら自室でくつろいでいると、取次の者が声をかけてくる。
「ゼノ様がお越しです」
その名前を聞いた時、エリザベートの瞳には涙が滲んだ。




