表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された伯爵令嬢ですが、追放先の辺境で聖獣に愛され過ぎて困っています  作者: 扇風機と思ったらサーキュレーター


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/86

パパ

ユリウス・グレイは、ガロから「エリザベートの命令で援軍が足止めされた」という手紙を受け取り、その真相を調べ始めた。

最初はリディアを追い落としたエリザベートに反感を抱いていたユリウスだったが、その実直な仕事ぶりを見て評価を改めていたのだ。

身分の低いユリウスからするとやはりリディアの方が親しみやすいが、自分の主のレオン王太子よりはずっと好感が持てると思っていた。


だからこそ、なぜエリザベートがそんな命令を出したのかが分からなかったのだ。

「王都に不穏な動きあり」という理由で援軍を足止めしたそうだが、不穏な動きなど見られない。

援軍の遅延は、敵を利するだけだ。


そうして公爵家を調べていて浮かび上がったのが、エリザベートの父ハロルド・エドモン・セルヴァ公爵だった。

エリザベートの父とは思えない凡庸な人物で、以前はヴァルハルゼンから小銭をもらったりしていたようだ。

怪しいとすればこちらだ、と思ってさらに詳しく調べようとしていた時、王都に噂が広まった。


「王太子の婚約者エリザベート・ド・セルヴァがヴァルハルゼンと通じている」


その噂の信ぴょう性を深めているのが、件の命令書の写しの存在だった。

もちろんその写しは、グラウベルトが流したものだ。

本物の命令書は、援軍を率いていった武官が持っている。

そしてその武官はまだ国境にいるので、真偽のほどは確かめようがない。


だが、国境を取られて急を要するはずの援軍が5日間動かずにいたことは事実だ。

そして、その写しの筆跡はエリザベートのものに思えた。


「なぜ写しが……?」


と、ユリウスは訝しんだ。

後で問題にならないよう命令書の写しを作成する場合もあるにはある。

だが、本当にヴァルハルゼンに利するような命令を下したとしたら、その写しをわざわざ作るはずがない。

「これもヴァルハルゼンが仕組んだものでは……」

とユリウスは思った。


しかし、この噂は広まった。

真実かどうかはどうでも良かった。

この噂が真実であった方が都合が良い者が存在するのだ。


エリザベートの働きによって、セルヴァ公爵家は勢いを得ている。

その公爵家が失脚すれば、ラグリファル王国における勢力争いが一変するだろう。

エリザベートが失脚することで、自分の家から未来の王妃を出すことができる可能性も出てくる。

敵国の謀略であっても自分に利があれば利用する、というのが勢力争いに必死な貴族の考え方なのだ。


ガラハルト王が国の采配を握っている時なら、こんな混乱は起こらなかっただろう。

勢力争いのために味方の足を引っ張ろうとすれば、反対に自分が処分されてしまう。

だが凡庸なレオン王太子では、このような事態に対処できない。


エリザベートに、そしてセルヴァ家に対する批判の声が大きくなった。


エリザベートも、その写しを見た。

自分はこんなことを書いた覚えはないが、確かに自分の字に似ている。

しかしこの命令書が効力を生むには、公爵家の印が必要だ。

その印がなければ、こんな紙切れ一枚で軍を動かすことはできない。


もちろん自分はこんな命令書に印を捺したことはない。

しかし——。


「お父様」


エリザベートは、父の部屋を訪れた。


「お父様、噂はお耳に入っておられるでしょう。お心当たりは?」


ハロルド・エドモン・セルヴァは無言で目を逸らす。

その仕草が、肯定の意を表していた。


「パパ、なぜそんなことを……」


「すまない」


最近の家族への大盤振る舞いは、ヴァルハルゼンから得たお金によるものだったのだろう。

それが反逆になるなどと思いもせずに、ただ家族にいい顔がしたくて。

自分の親でなければ、すぐにでも断罪してやりたいところだ。


でも……子供の頃からずっと自分を可愛がってくれたパパ。

私が褒められると、自分のことのように喜んでくれたパパ。

私が木から落ちてけがをした時、お転婆を叱った後涙ぐみながら「無事でよかった」と抱き締めてくれたパパ。


命令書の写しを見た時から、エリザベートは自分の父親がやったのではないかと思っていた。

そして、これを切り抜ける方法がないかと考え抜いていた。


だが、この命令書の原本が出てきたら言い逃れは難しいだろう。

もう既に政敵は国境にいる武官に命令書を送るように言いつけているかもしれない。

エリザベートは、考えに考え抜いた。そして……


「心配しないで、パパ」


「……エリザベート?」


私がパパを……セルヴァ家を守る。

全て私の一存で、私一人がやったことで、パパにも家にも関係ない。

そう言って私一人に罪をかぶせてもらおう。


この頃には、ゼノから「ヴァルハルゼンに攻め込みたい」という文も届いていた。

グラウベルトの思惑通り、この騒ぎの中でそれを許可できる者などいなかった。

国境を取り返したという安堵は、貴族たちが国内の勢力争いに精を出す余裕に繋がったとも言える。


「どんな罪になるのかしら」

敵国に通じるというのは、とても重い罪だ。

打ち首にされてもおかしくはない。

軽くても追放は免れないだろう。


「リディアを追放した報いかもしれないわね」


そう呟いて、エリザベートは小さく笑った。


お読みいただきありがとうございます!

とうとう80話になりました。

あと何話あるかわかりませんが、きちんと完結させますのでよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ