騒乱の予感
グリモー侯爵と共にヴァルハルゼンに寝返った領主たちは、窮地に陥っていた。
謀反に失敗し、兵力の大半を失っている。
グラウベルトが国境で頑張っている間に態勢を整えるつもりだったが、あっさりと国境を取り返されてしまった。
グラウベルトがヴァルハルゼン領に退却してしまった今、領主たちはただ自分の領地で震えているだけだった。
グリモー侯爵のような強い意志も戦略も持たずに参加した者たち。
それでも、ラグリファル王国を揺るがす謀反だった。
当然、彼らをこのままにしておくことはできない。
エルバーン伯爵は彼らを説得してこちらに復帰させたいと思っていたが、そう簡単なことではない。
謀反人をそのまま許したら、今後も同じことをする者が出てこないとも限らないのだ。
しかし、だからといって厳しくし過ぎると遺恨が残る。
エルバーン伯爵から見れば、グリモー侯爵はともかくその他の領主はただ引きずられただけの小物に過ぎない。
王都に謝罪に出向けば、家名の存続くらいは許されるだろうと思った。
だから、エルバーン伯爵の説得にみなが従った。
ただ、今回の首謀者であるグリモー侯爵の一族は許されないだろうと思った。
侯爵の一族もそれは覚悟していたようだ。
それでも、無駄な抵抗をせず王都に出頭していった。
その結果、グリモー侯爵領の半分はエルバーン伯爵領に、残りは国王の直轄地となった。
他の領主たちも領地を大きく削られ、そこも国王の直轄地とされた。
グリモー侯爵家は取り潰しとなり、一族は平民に落とされた。
他の領主は謀反を起こした当主が王都に留まり、一族の者が残った領地を引き継ぐこととなった。
要は、人質のような形で王都に軟禁されるのである。
こうして、領主たちの謀反については平定された。
***
国境の城を取り返した2日後、王都からさらに1千の兵が到着した。
それは以前国境騎士団にいた者たちで、エリザベートの命によって国境守備から外された者たちだった。
ヴァルハルゼンが国境の兵を減らしたことで、エリザベートが経費削減のためにこちらも兵を減らしたのだ。
国境守備から外された騎士たちは、解雇されたわけではない。
その1千の兵は、王都で様々な仕事に就いていた。
それを再び集結させて、こちらに送ってきたのだ。
その代表の者は、エリザベートからの命令書を持っていた。
そこには、国境騎士団を減らした自分の判断ミスを詫びる言葉も書いてあった。
様々な部署に分かれている千人を見つけ出し、集めるのは大変だっただろう。
そのうえ自分のミスを素直に詫びてくるというのも、なかなかできることではない。
貴族社会ではそういう態度は舐められる場合も多いので、特に珍しいのだ。
ずっと共に国境を守ってきた騎士たちと再会できたことは、ゼノにとって非常に嬉しいことだった。
だが、以前は3千人だった騎士団が今戻ってきた者を合わせてもおよそ2千。
復帰した千人は、仲間やラミーユの死を悲しんだ。
しかし、兵の士気は上がっている。
——このままグラウベルトを追撃したい
それがゼノやリディアの本音だった。
国境の奪還と追撃の許可を求める手紙は、まだ王都には届いていない。
ゼノとリディアは、その返事を待ち焦がれている。
だが、王都にはそれどころではない騒ぎが起こっていた。
ゼノの副官で将来を嘱望されていたラミーユが千の兵を失い自らも戦死したのが64話。結構前のことだったんですね。




