奪取
ガルドの身体から血が噴き出す。
「ガルド!」
ローデンが叫ぶ。
その横をゼノが、騎士団が通り過ぎて敵を討つ。
「後ろに下がれ!」
ゼノが村の男たちに指示をする。
騎士団が城門で敵を迎え撃ち、味方の到着を待つ。
そうはさせじと敵も城門に降りてきて騎士団に襲い掛かる。
しばらくもみ合っていると、援軍の1万5千の兵がようやく城門に到着した。
門からも城壁からも攻められて、国境の城はどんどん押され出す。
「このまま攻め続けろ!」
そう指示を出し、ゼノは村人たちの元へ向かう。
ローデンがガルドを抱きかかえている。
「ガルド、死ぬな!」
「へっ、自分の身体のことは自分が一番わからあ。……この城には、騎士団にいてもらわなくちゃ困るんだ……ああ、ゼノ様……今度はちゃんと村を守ってくだせえよ……俺も本当は、あんたみたいに……」
そう言って、ガルドは目を閉じた。
「ガルド!!」
ローデンが叫ぶ。
リディアとルナも、そこにやってきた。
ゼノが、ガルドの顔を覗き込む。
「ガルド、よくやってくれた。この城は二度と手放したりはしない」
そう言って、ガルドの身体に触れる。
「……。」
何かを感じ取ったように、ゼノが眉をひそめた。
次の瞬間、ゼノがガルドの頬に平手打ちをかました。
パシーン!
「ゼノ様!?」
ローデンが驚いて声を上げる。
「こんな浅い傷で死ぬわけないだろうが、とっとと目を覚ませガルド!」
そう言われてガルドはきょとんと眼を開ける。
「あ、あれ?かなり深手だったはず……?」
「そんなわけあるか、血がたくさん出たからびっくりしただけだろう。浅く切られただけだ」
そこでルナが「フルルゥ」と鳴きながらガルドの傷をなめる。
みるみる傷が治っていき、やがて血が止まった。
「いくらルナでも重い傷や骨折は簡単には治せません。でも軽い傷ならすぐに治せます」
「あ、もう痛みもない」
そんなガルドの頭をローデンがはたく。
「何が『自分の身体のことは自分が一番わからあ』だ。何にもわかってねえじゃねえか!」
村人がガルドとローデンを囲んで笑い合う。
その様子を見ながら、ゼノが聞く。
「みんな無事か?」
「へい、みんなピンピンしてます」
「良かった。戦が終わったらまた顔を出す」
そう言って、ゼノは城に戻って行った。
既にかなりの数が城門の中になだれ込んでいる。
城壁を攻めている部隊も優勢だ。
リディアは、胸をなでおろしていた。
自分には何もできなかった、という無力感も抱いている。
それでもみんな無事だった。自力で脱出してくれるなんて。
リディアが少し涙ぐんでいると、ガルドが言った。
「格好いい死に様だと思ったんだがなあ」
「格好良く死ぬより、格好悪くても人を笑顔にする方が素敵だと思います」
リディアはそう言って笑った。
***
グラウベルトは、決して凡庸な王ではない。
特に高所から大局を見るという、指導者に必要な能力を備えている。
だが、もう少し人としての視点を持つべきだった。
ミルファーレ村の人々と騎士団の絆。
そんなものが存在することは、グラウベルトには予想できなかった。
騎士団が城の周りをうろちょろしていると聞いた時も、グラウベルトは余裕の笑みを浮かべていた。
「この城がそう簡単に落とせるものか」
自分の謀略で援軍の到着を5日遅らせた。
その間に、かなりの備えができたのだ。
敵より兵力が少ないとはいえ、城を守るには十分である。
相手の様子次第では夜襲をし返してやってもいい、などと考えていた。
だから、グラウベルトは「城門が開きました!」という報告が理解できなかった。
敵の兵を城に入れたのであれば、警戒もしただろう。
だが、城に入れたのは自分の味方の領主の兵と近隣の村人だけだ。
グラウベルトは、村人に何の警戒心も持っていなかった。
税を取り立て過ぎなければ支配する側の言いなりになるもの、と思い込んでいた。
だから、グラウベルトにはなぜ城門が破られたのかわからない。
敵は門を壊すような武器は持っていなかったはずだ。
理解はできなくとも、現実は襲ってくる。
城の内部に、敵兵がどんどんなだれ込んでくるのが見える。
それと同時に、城壁も押され始めた。
「……退却だ」
こうなっては城を守ることなどできない。
城の構造を熟知しているゼノの騎士団が要所を抑え、どんどん制圧していく。
「まさか……聖獣の怒りが……?いや、そんな馬鹿なことが……」
グラウベルトは、一目散に逃げた。
振り返ると、城にはラグリファル王国の旗が翻っていた。
お読みいただきありがとうございます!
ガルドとローデンが今後も登場するかどうかは神のみぞ知るなのです。




