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婚約破棄された伯爵令嬢ですが、追放先の辺境で聖獣に愛され過ぎて困っています  作者: 扇風機と思ったらサーキュレーター


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策略

自分の副官であるラミーユ討ち死にの報を聞くと、ゼノは状況を客観的に判断するよう努めた。

個人的な感情に走っていると、大局を見失う。


そうして、ゼノは答えを出した。


「ヴォルド殿、手を貸してもらえないか」


震える声で助力を願うゼノに、ヴォルドは当たり前のように頷いた。

やることはわかっている。


獲物を前に暴れている獣から、騎士団員を救うのだ。

山賊が集合した後、ゼノが何も言わずに先導する。


統率のとれた21名の集団は、一方的な戦場になだれ込んで味方を救っていった。

たやすく討たれていた雑兵は、主を取り戻して再び牙の生えた騎士に変貌する。

ゼノと山賊に次々と騎士の生き残りが付き従い、どんどん膨れ上がっていった。


そうして敵が手を出せなくなった時、ゼノは引き上げを命じた。

無事に砦に引き上げることができた騎士は、半分に満たなかった。

ラミーユの暴走の結果は、あまりにも酷いものだった。


***


ゼノは、自分の副官であるラミーユを高く評価していた。

ある一点さえ克服できれば、自分を凌駕する将軍になれると思ったからだ。


家柄にも優れたラミーユは、子供の頃から優秀だったのだろう。

自分に対する自信がとても強かった。

ほんの少しの謙虚さがあれば、この子はとても強くなる。


プライドの高いラミーユにそれを教えるのは大変なことだったが、上には上がいることを教えるためにゼノも自分を高めることに力を注いだ。

そうやって鍛えたラミーユは、信頼できる副官に……なったはずだった。


余程の自信があったのか、ラミーユは自分の許可も取らずに出撃していった。

そして……自分だけでなく多くの命を散らした。


国境で逃げ、侯爵領で空き巣のような真似を働き、エルバーン伯爵領で守備に徹する。

これは、いざという時に騎士団の戦力を確保するための行動だった。

だが、それらの行動は誇り高きラミーユにとって受け入れられないものだったのかもしれない。


そこでゼノは思考を打ち切った。

ラミーユや多くの騎士の死に思いをはせる暇はない。

ラミーユの浅慮によって、騎士団は半分に減ってしまった。


エルバーン伯爵はそんなゼノにかける言葉もなく、砦の守備の強化を命じるのだった。


***


グラウベルトの思惑は、ある程度叶った。

本当ならゼノを討ちたかったが、騎士団を半分減らせたのだからかなりうまくいったと言って良いだろう。


「総攻撃の頃合いだな……」


ヴァルハルゼン全軍が、陣を前に移動した。


***


エルバーン伯爵率いる砦側の空気は、かなり悲壮なものだった。

バルツ将軍が率いていた4千のうち、千は減らすことができただろう。

しかし、ラミーユの暴走によって騎士団が千減ってしまった。


かなりの戦力差があるところで同じ数が減ったら、少ない方が圧倒的に不利になる。

……戦局はかなり厳しいものになってしまった。


だからといってこの砦を明け渡すとなると、敵の利が大き過ぎる。

せっかくグリモー侯爵の領地を利用できなくしたのに、この砦はそれ以上の防衛拠点となるだろう。


「命にかけてもこの砦を守らないとラグリファル王国の存亡に関わる」


皆がそのような悲壮な決意を固めていた。

リディアも例外ではなかった。


***


男たちが戦略について話し合っている時、リディアはルナを連れて砦の外に出た。

そうして、西の森の抜け道に辿り着く。


「ルナ、ここに穴を掘れる?」


リディアが聞くと、ルナは「フルルゥ」と小さく笑うように鳴いた後、1mほどの深さの穴を掘った。


「もっと深く、5mくらいの穴を掘れる?」


ルナは、いともたやすくそれをやってのけた。

それを見て、リディアは考える。


「人の動きに干渉しようとすると、ルナは深刻なダメージを負うのかしら……?」


雹を降らしたり、地形を少し変えたりということにはそれほどの代償がないのではないか、とリディアは思った。

人の動きを止めたり失神させたりといった内面に干渉することが、やはり大変なのだろう。


とにかくルナが無事なら手を貸してもらいたい、とリディアは思った。

そう思うくらい、砦の雰囲気は暗かったのだ。


リディアは作戦室に戻って言った。


「なぜ敵は西の森の抜け道を使わないのでしょう?」


確かにあそこを使って裏に回られたら、昨日よりも兵力差がある今ではすぐに砦を落とされてしまう。


「自分が手柄を立てたい、という気持ちの強いグリモー侯爵は抜け道の存在をグラウベルトに伝えていなかったのかもしれない」


確かにグラウベルトに抜け道を教えると、グリモー侯爵以外の将にそこを使わせるかもしれない。

だから、グリモー侯爵の利己心の強さは今となってはありがたくも思える。


しかし、リディアは

「あの抜け道を敵に教えましょう」

と言った。


「何を言うのですか、リディア様!」


エルバーン伯爵は、その真意を見抜けずに叫んだ。

だが、ゼノとガロとヴォルドの3人はリディアが滅多なことを言うわけがないと思っている。


「それでどうするんだ、嬢ちゃん?」


3人を率先するようにガロが言うと、リディアは


「出口にルナが深い落とし穴を掘ってくれます。勝利を確信した相手は、簡単にはまってくれるでしょう。その横に500ほどの弓兵を置いておけば敵にかなりの損害を与えられます」


勝利を確信した者は功に逸って暴走する、それは人の気持ちがわかるリディアだから考えられる策だった。

そして、それと同じ理屈で暴走して命を落とした副官を持つゼノは、勝手な行動を止められなかった自分を責めた。


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