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婚約破棄された伯爵令嬢ですが、追放先の辺境で聖獣に愛され過ぎて困っています  作者: 扇風機と思ったらサーキュレーター


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暴走

グラウベルトは、国境騎士団を一つの脅威と考えていた。

だから、国境戦の折にグリモー侯爵たちの軍と挟み撃ちにして殲滅したかったのだ。


しかし、騎士団はあっさりと国境を捨てて退却した。

それはリディアの進言によるものだったが、


「そういうところが恐ろしいのだ」


とグラウベルトは、一人ごちた。

国境を奪ったが、いつ取り返されるかわからない。

騎士団が存在する以上、どうしてもその不安が頭から離れないのだ。


2万対4千。この砦を落とすことは難しくないはずだ。

ここで騎士団を壊滅させて憂いを払拭したい、とグラウベルトは思った。


——バルツ将軍。家柄と体格しか取り柄のない男。

それでもこの男を軽く扱うと周囲から反感を買う。

「使い道のない猪武者」とグラウベルトは思っていた。


だから今回の戦も、それほど重要ではないところを任せたのだ。

だが、そこに騎士団が食いついてきた。


ゼノが先頭に立って砦から出撃したと聞いた時、むしろグラウベルトが焦ってしまった。


「騎士団を討つ好機だ!」


グラウベルトは、慌てて5千の後続部隊を組織した。

それを出撃させながら、グラウベルトは「粘ってくれバルツ!」と念じた。


バルツが騎士団を引きつけてくれれば、5千の後続部隊で包囲して討つことができる。

バルツの兵4千も足すと、9千対2千なのだ。

壊滅までいかなくとも、ゼノだけは討ち取りたい、とグラウベルトは思った。


しかし、ゼノはバルツを討ち取るとあっさり砦内に引き上げてしまった。

周りにいくらでも簡単に討ち取れる兵がたくさんいるのに、それらに目もくれず。

もうあと20分そこに足止めしてくれていれば、騎士団を包囲してせん滅することができた。


「時間稼ぎすらできんのか、あの猪武者め!」


グラウベルトは、悔しさに顔を歪ませた。


***


ゼノの副官ラミーユ。

頭脳明晰で何をやってもそつなくこなす天才タイプだ。

ゼノはラミーユに期待をし、成長して欲しいと思っていた。


ラミーユは、それに応えるように成長していった。

兵の指揮についても、並の将軍よりずっとうまくなった。

模擬戦をしても、負けることはない。


そうして、ラミーユは自信をつけていった。

自分の能力に自信を持ち、誰にも負けないと自負するようになった。


ゼノがバルツと一騎討ちをしに行った時も、自分がいるからゼノがそんな行動に出られるのだと思った。

ラミーユは当然のようにゼノ不在の騎士団の指揮を執った。

その指揮はそつのないものだったが、ラミーユは危うく討たれるところだった。

ヴォルドがさり気なくそれを救ってくれたのだ。


ゼノはそれに気づいていたが、ラミーユは気づかなかった。

ゼノのいない騎士団の指揮を難なくこなし、ゼノの勝手な行動を自分がフォローしたような気にさえなっていた。


「もう自分はゼノ様と肩を並べたのではないか」


などと思いながら、ゼノがバルツを討ち取ったという報を聞いて騎士団たちと一緒に砦に引き上げた。。


***


その直後、ヴァルハルゼンの5千の兵が砦に押し寄せた。

バルツと戦っている騎士団、そしてゼノを包囲殲滅するための兵だ。


しかし、到着してみると砦の外に兵はおらず戦いは終わってしまっている。

そんな状況に、増援の5千の兵の気は抜けた。

その兵たちは、砦を攻めるかどうか迷っていた。

指揮官はグラウベルト王に指示を仰ぐ伝令を送った。


***


そんな士気の上がらない敵兵を見たラミーユは、自分もゼノと同じことが出来ると思った。

ここで撃って出れば大きな戦果を上げられる……!


輝かしい未来を瞼の奥に感じながら、ラミーユは引き揚げてきたばかりの騎士団に命じた。


「我に続け!」


団員たちは、少し迷った。

ゼノが一騎打ちに行った後、自分たちの指揮をとっていたのは確かにラミーユだ。

引き上げる時に合流したが、砦に戻るとすぐにゼノは作戦室に向かってしまった。


ヴォルドに救ってもらった命、それをゼノが心から感謝していた時、その命は何も理解しないまま飛び立っていった。

最初から目標がない兵の目と、目標が去ってしまった兵の目、その違いを見分けることはまだラミーユにはできなかった。


ラミーユが出撃した時、敵兵は探していた獲物を見つけた時の獰猛さを取り戻した。

たやすく撃破できると信じて撃って出たラミーユは、敵の強さに混乱した。

「こんなはずでは……!」予想外の敵の行動に恐怖を覚える。


自分に向けて繰り出される刃を、ラミーユは必死に剣でさばき続ける。

死にたくない、死にたくない……!

汗でかすんだ視界の中、ラミーユは自分の剣をすり抜ける殺意が心臓に達するのを感じた。


砦の防御には何の心配もなかった。

敵に痛撃を与えた以上、今日はただ砦を守っていれば良かった。

それで今夜は、ささやかな祝杯を上げられるはずだった。


……砦の防衛戦にしては遠くから声が聞こえる。

まるで、砦の外で誰かが戦っているような……。


4千の兵がいれば砦の防御に問題はない。

そう思いながら、ゼノは砦から外を見た。

——砦の外で戦いが行われている。しかも、ゼノの騎士団が。


ゼノが眼前の状況を把握できずにいた時、


「ラミーユ様、討ち死に!」


という報告が届いた。


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