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運命の出会い

まだ砦の戦が行われていた頃、西の森を抜けて砦の背後を突こうとする敵を食い止めるためにゼノは急いでいた。

ここを突破されると砦が落ちる。

さらに後ろから攻められるということは、退路を断たれるということだ。


国境ではグリモー侯爵に後ろを取られる前に退却して事なきを得たが、腹背から攻められていたら犠牲はかなり大きなものになっていただろう。

ここでもそれは同じことだ。

こうしてゼノは、森の出口で敵を捕捉した。


「げえっ、ゼノ!」


遊撃隊の指揮官は、そう叫んだ。

まさかゼノ本人が出てくるとは思わなかったのだ。


もし打って出てきても砦の守備を考えるとそれほどの戦力は避けないだろう、と思って気が緩んでいた。

そこに2千の兵を持ったゼノが現れたのだ。


この指揮官も決して戦下手ではない。

4千対2千なら突破して砦に取り掛かる自信はあった。

だが、相手がゼノだと話は別だ。

死に物狂いで突破しても、砦を攻める力が残らないかもしれない。


そうして、指揮官は逡巡した。

このままゼノと2千の兵を釘付けにした方が良いのではないか?とも思った。

実際にゼノと2千の兵が抜けた砦は陥落寸前にまで追い込まれたのだから、その判断は間違ってはいない。


ゼノの方も、早く砦の守備に戻りたいとは思っていた。

だが、今のゼノは砦を攻める軍に2千の増援が来たことを知らない。

3千対2千ならエルバーン伯爵がうまくやってくれるだろう、と思っている。


つまり、どちらも急いで決着をつけようと思わなかったのだ。

ゼノも敵軍も、相手の出方を窺っている。

どちらも下手に動いて兵を損じると自軍が危うくなる、という状況なのだ。


多少の小競り合いを続けながら、両軍ともにらみ合っている。

そんな時に、敵軍に伝令が派遣された。

それは、グリモー侯爵の戦死を知らせるものだった。


敵軍の指揮官は、絶句した後退却の指示を出した。

この報はやがて当然ゼノにも伝わるだろう。

そうなると、勢いづいて攻撃してくるに違いない。

もちろん侯爵の死も大声で喧伝してくるだろう。


そうなる前に早く退却しなければ。

決断すると、敵軍の指揮官は早かった。


粛々と隊列を乱さぬよう、それは見事な撤退ぶりだった。

退却の隙をついて戦果を上げる、もちろんゼノもそれを狙っていた。

だが、そんな隙はなかった。

敵ながらあっぱれ、という気持ちでゼノは見送った。


援軍と共に侯爵の死が伝わったのは、その直後だった。

エルバーン伯爵が援軍を組織せずに侯爵の死を伝える伝令だけを送っていたら、大声でそれを叫ぶことで敵を混乱させられただろう。

タイミングの入れ違いで、こちらの戦場は静かなままで終わった。

そして、ゼノも砦に戻っていった。


***


砦でゼノは、懐かしい顔を見つける。


「ガロ殿!どうしてここに!?」


「おお、久しぶりだな。国境を落とされたと聞いてちょっと手助けにな」


「ちょっとどころか、グリモー侯爵を討ったのがガロ様なんですよ」


リディアが、ガロを称賛する。


「敵に増援が来てましたから、本当にガロ殿の働きがなければ危なかった」


とエルバーン伯爵も続く。


「いやあ、俺は最後に矢を射っただけだ。こいつらが敵から守ってくれたのが大きい。それに、ここまで来れたのもこいつらのおかげだ」


そう言ってガロはヴォルドとその配下を持ち上げる。


「そうだったのか、それを知らずに私は敵と睨み合って時間を無駄にしてしまった。深くお礼を申し上げる。リディア、無事でよかった」


ガロと山賊たちに頭を下げた後、ゼノはリディアに向き直る。


「ガロ様もご無事で何よりです」


頬を染めてそう言うリディアに、ヴォルドがリディアの肩に手を置いて話しかける。

親が娘にするような気安さだ。


「マクレイン様、随分親しげだがこいつはどなただい?」


リディアを呼ぶ時はかしこまっているが、基本的に敬語は苦手である。

リディアがゼノを紹介しようとすると、それを制してゼノが


「私はゼノ。国境騎士団の団長を務めている。それで、貴殿は?」


と鋭い眼光を放ちながら問いかける。

並のものならたじろいでしまうところだが、ヴォルドはそれを堂々と受け止めて


「俺はヴォルド。山賊だ」


と短く答える。その言葉を聞いて、ゼノはぎょろりと目を光らせてガロを睨んだ。


「ガロ殿、なぜこの者たちと一緒にいる?」


あっちゃあ、という顔でガロは答える。


「い、いやあ昔馴染みでな。——お、お前さんが山賊を討伐する立場だってのはわかる!

でもこいつぁ嬢ちゃんが危ないと聞いて、大急ぎで駆けつけてきたんだぜ」


「おお、そうだ!俺たちはマクレイン様の親衛隊になりゃあいいんじゃねえか?」


ヴォルドが名案を思いついたとばかりに口にする。

だが、ゼノは冷たい目でそんなヴォルドを睨んだ。

リディアに対する気安い態度が気に入らないのだ。


「山賊風情が勝手なことを言うな!」


断じて嫉妬ではない。そう自分に言い聞かせながらゼノは言った。


「俺たちゃああんたの部下でも何でもねえんだよ」


ヴォルドも言い返す。


「俺たちが来なきゃ、あんたが吞気に敵と睨み合いしてる間に砦が落ちてたかもしれねえぜ。そうなってたら、マクレイン様もどうなっていたかわからねえ」


そう言われると、ゼノにも返す言葉がない。


「そ、それについては感謝する。だが、リディアにベタベタするな!」


「怒鳴ったあと、自分の言葉に赤面するゼノ。

それにすかさず、ヴォルドも怒鳴り返した。


「お前こそ、マクレイン様を馴れ馴れしく呼び捨てにするんじゃねえ!」


その様子をおろおろしながら見ていたリディアが、ガロに仲裁を依頼する。


「ガロ様、ニヤニヤしていないで2人を止めてください」


「心配いらねえよ、嬢ちゃん。ゼノは嫉妬してるだけだし、ヴォルドはまさに『お前に娘はやらん!』になってるだけだ。2人とも嬢ちゃんが大事なんだ、すぐにわかり合えるさ」


孫までいるヴォルドは、もちろんリディアを恋愛対象として見ているわけではない。

ガロの言う通り、娘や孫のように愛おしく思っているだけだ。

それでもゼノとヴォルドの罵り合いは、リディアの取り合いにしか聞こえなかった。


サブタイトルの「運命の出会い」はもちろんゼノとヴォルドのことです。

でも本当に運命の出会いになるかどうかはわかりません。

サブタイはいつも適当です。

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