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婚約破棄された伯爵令嬢ですが、追放先の辺境で聖獣に愛され過ぎて困っています  作者: 扇風機と思ったらサーキュレーター


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山賊

時間は少しさかのぼる——場所は山賊たちの拠点。


「隠し砦がなくなった?」


「はい、今日様子を見に行ったら誰もおらず、もぬけの殻になっていました」


報告を聞いたヴォルドとガロは、顔を見合わせて思案した。

自分たちに見つかったことがかなりまずいことらしいのはわかる。

それはわざわざ作った砦を引き払うほどのことなのか。


確かに見た人間を消すためにここの山賊を根絶やしにしようとさえするのだから、引き払うのも不自然ではない。

だが、ガロには何かが引っかかった。


「ヴァルハルゼンの謀略を調べていたからか、近いうちに事が起こりそうな気がするんだ」


「王都の連中が国境の兵を減らし、さらに兵糧も届かねえんだったな。そのうえグリモーの野郎が裏切ってるんなら、もう頃合いかもしれんな」


「少し国境の様子を探ってくれねえか。嬢ちゃんが気になる」


嬢ちゃん、という単語にヴォルドが反応する。


「そう言えばマクレイン様が国境の村にいるんだったな。それなら放っちゃおけねえ」


そうして国境を探っていた者が、国境の陥落を伝えてきた。


「国境にヴァルハルゼンが攻め込み、初日は小競り合い程度だったのですが、次の日に騎士団が撤退していました。その後、グリモー侯爵の軍が現れ、ヴァルハルゼン軍と一緒に国境に入っていきました」


「とうとう始まったか」


とガロが言う。


「おい、マクレイン様の様子はどうした?」


「はい、リディア様も騎士団と行動を共にされていました」


「それを早く言わねえかい!」


ヴォルドは、その若い山賊を怒鳴りつける。

そんなヴォルドに、ガロが話しかけた。


「なあ、いつまで山賊家業を続けるつもりだ?」


「何が言いてえ?」


「手柄を立ててお天道様の下を堂々と歩ける身分になる気はねえかって聞いてんだ」


「自由ってのも気楽でいいもんだがね。まあ考えとくさ。それよりも、マクレイン様を助けに行きてえ」


ある程度予想していた答えを聞いて、「相変わらずだ」と思いながらガロは微笑んだ。


「俺は嬢ちゃんを助けに行く。若い衆を何人か貸してくれねえか」


「おいおい、俺も一緒に行くぜ」


「ここをどうするんだ。空っぽにするわけにはいかんだろう」


「倅に任せるさ。あいつにもそろそろ独り立ちしてもらわねえとな」


———こうして、ガロとヴォルドは20人ほどの山賊を率いてエルバーン伯爵の領地に向かった。

グリモー侯爵が寝返った以上、忠義に厚いエルバーン伯爵が防波堤になることは容易に予想できた。


「ところで、たった20人ほどで増援に行っても大した喜ばれねえだろう。それよりも敵の中に紛れ込んで混乱させた方が役に立つんじゃねえか?」


ガロのこの提案で、山賊たちはグリモー侯爵の軍に紛れ込むことになった。

戦はいつ砦が落ちるかわからない、胃がキリキリするようなものだった。

ルナの姿が見えたかと思うと、周りの兵の動きが止まったのには驚いた。


この奇跡は、ガロも知っている。

以前リディアを襲った刺客が、同じように金縛りになった時のことを思い出した


「敵と味方がわかるのか……すげえな」


そう思ったが周りの兵はすぐに動き出した。

人数が多過ぎてこれが限界なのか、何か他の理由があったのかはわからないが前のように敵が全員失神するようなことはなかった。


それでも混乱はしていたが、大声でグリモー侯爵が檄を飛ばすことでその混乱もすぐに収まった。

さすがは戦上手なグリモー侯爵というところだが、それによってガロは侯爵への狙いがつけやすくなった。


周りが砦を落とすために躍起になって前進している中で、ガロの目は侯爵に向かっていた。

山賊たちに周囲を取り囲ませて不審な動きに気づかれないようにする。

それから念のため前に向かって弓を引き絞る。


十分に引いたところで、狙いをグリモー侯爵に向ける。

二呼吸ほど置いてから、矢を放つ。

糸を引くように飛んだ矢は、見事に侯爵の首に命中した。


「俺がやったってマクレイン様に自慢したかったのによ」


ヴォルドが口をとがらせて抗議する。


「お前は剣は強いが弓は俺ほどじゃねえ」


「なんだと!今度勝負するか?マクレイン様の前で」


などと言いつつ、山賊たちは軍から離れるタイミングを見計らっていた。


***


グリモー・ハルデン侯爵は、自分を射た矢が飛んできた方向に目をやり、そのままもんどりうって馬から落ちた。

その突然の出来事を、すぐに理解できた者はいない。


圧倒的にこちらが優勢な状況の中、なぜか主将の侯爵が馬から落ちた。

バランスでも崩したのだろうか、と周りの者は思った。

侯爵のすぐ横にいたのは、山賊の砦を襲撃した指揮官だ。その男が


「侯爵?」


と呼びかける。

変な落ち方をして体を痛めたのか、と思い自分も手を貸すために馬を降りる。


——首に突き立った矢が目に入る。


「侯爵!?侯爵!!」


幾ら呼び掛けても、グリモー・ハルデンが応えることはなかった。

戦の形勢は、たった20人の山賊によって覆された。


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