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婚約破棄された伯爵令嬢ですが、追放先の辺境で聖獣に愛され過ぎて困っています  作者: 扇風機と思ったらサーキュレーター


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戦のあと

敵兵は完全に撤退し、山には静けさが戻った。

山賊たちは息を整えつつ、砦の周囲を見回す。

落石や倒木、火によって燃えた跡など昨夜の戦闘でできた小さな爪痕が残り、足元には小さな枝や土砂が散乱している。


その修復をルナは手伝っていた。

力の強いルナの助力に、山賊たちは大喜びだ。

人の言うことを素直に聞いて働くルナは、アイドルのような扱いだった。


リディアは、怪我人の介抱に忙しく動き回っている。

ガロの見立てによると、今回攻めてきた人数はおよそこちらの5倍以上、200人は超えているということだった。

その割にこちらの被害は小さかったが、ゼロというわけにはいかない。

命を落としてしまった者もいる。

今リディアが介抱している者も、親しい友人を亡くしていた。


「ちくしょう、俺がもっとしっかりしていれば……」


そう言いながら泣いているその男を見ると、リディアも胸が潰れそうになった。

伯爵令嬢だった頃のリディアは、自分が戦場に立つことなど考えてもいなかった。

謀略や陰謀の影はあったが、直接的な暴力に触れる機会はなかったのだ。


いつ自分も親しい人を亡くすか、いや自分が親しい人を泣かせる側になるかもしれない。

そんな場所に自分が立っていることを、リディアは実感として噛み締めた。


だが、怖がっている場合ではない。

ヴァルハルゼンの謀略がこの国を狙っているのであれば、ゼノが前線に立つことになるだろう。

その時は、安全な場所でただ無事を祈っているだけの自分ではいたくない。


「ゼノの力になりたい」


リディアはそう思っていた。

そんなリディアに、休憩中(山賊たちはルナにもちゃんと休憩を与えている)のルナが体をなすりつける。

それから、慰めるように泣いている男の顔を舐めた



———その頃、ガロとヴォルドは2人きりで話していた。

ヴォルドがひとしきり思案した後に言う。


「今回の襲撃、やっぱりあの砦を見ちまったこと以外に原因が思いつかねえ」


「ああ、ここの領主でもないグリモー・ハルデン侯爵が兵を出す理由が他に思い当たらねえな」


「ここの領主には話は通してあるんだろうか」


「ここら一帯の領主はグリモーの手下みたいなもんだからな」


「だとすると、俺たちが下手打っちまったってことか」


「俺たちが見つからなければ、攻められることはなかったかもしれんな」


「……ふう、頭領失格だな、俺は」


ヴォルドが自嘲気味に言う。


「いや、俺がお前に協力を頼んじまったからだ。国の危機に山賊のお前を頼ったのが悪い」


「ふ、俺たちがお天道様の下を歩けるようにしてくれようとしたんだろ?手柄を立てりゃ、山賊なんかせずとも暮らせるようになるかもしれねえ。俺はそれに乗っかっただけさ」


「……まあいい、それでこれからどうする?」


「また襲撃があるのかどうか、だな」


その後もこっちから砦に攻め寄せてやろうか、いや人数が足りないだろうなどと言い合っていたが、結論が出ないので一息つくことにした。

そうして頭領の小屋から出てみると、広場で歓声が沸き起こっている。


その中心では、リディアと山賊の男が棒をもって戦っているではないか。


「マクレイン様!何をしているんです!お前もやめんか!」


ヴォルドがおかしな呼び方で2人を止めると、


「いや、昨日の戦いで姐さんがやたら強かったんで手合わせを頼んだんす」


周りの男たちも口々に口を挟む。


「あれだけ強いならちょっと実力を見てみたいと思うのは当然でしょうよ」


「いつも頭領が独り占めしてるから、姐さんも自分の力量がわからなくなってるんですよ」


最初リディアは足手まといにならないように体を鍛えようとしていたが、やがて少しでもゼノの力になりたいと思うようになった。

そして、ここに来てから「剣術を教わりたい」とヴォルドに頼んだのだ。


配下の誰かを指南役につけて欲しいというつもりだったが、リディアのことがお気に入りのヴォルドは自らリディアの稽古をつけた。

ここで一番強い男と立ち合っているのだから、いつも軽くあしらわれているように見えた。

それは微笑ましい様子でもあったのだが、昨日の戦いで見せたリディアの剣技はかなりのものだったのだ。


「だから立ち合ってもらってるんす」


リディアと山賊の男は、普段使っている得物と似たような長さの棒を持って向き合っていた。

リディアは40㎝程度の短剣を、山賊の男は70㎝程の剣を使っている。

非力なリディアは、短剣の方が扱いやすいのだ。


山賊の男が構えた棒を振り下ろすと、リディアはそれを短い棒で受け流して懐に入り胴を打つ。

その動きは、見ていて惚れ惚れするものだった。


「嬢ちゃん、やるもんだねえ」


ガロが感嘆の声を上げる。


「迷わず懐に入る度胸の良さがすごいっす」


と山賊の男も褒めちぎる。


「お前ら、マクレイン様に負けるようだったら今日から毎日剣術の特訓だぞ!」


ヴォルドがそう叫ぶとみな目の色が変わったが、リディアが立会った四人のうち勝てたのは一人だけだった。


「本当に特訓しないといけねえな」


情なさそうなヴォルドの言葉に山賊たちは顔を青くしたが、


「山賊には山賊の戦い方があるだろう。一対一の立ち合いになることなんざほとんどねえ。それに軍勢同士の戦い方でもあれは通用しねえ。まあ嬢ちゃんが強くなってるのは確かだが」


というガロの言葉に力いっぱい頷いた。


「それでも情ねえことには変わりはねえ。よし、今負けた四人はマクレイン様の剣の稽古に一緒に付き合え!」


特訓には青ざめていた山賊たちだが、これには羨望の声が上がった。

リディアに勝った一人も


「それなら負けておけばよかった」


と言い出す始末だ。

それくらい、リディアは山賊から慕われていた。だが


「私ももっと剣術の稽古をしたいのですが……」


というリディアの声で静まり返る。


「ルナも目覚めましたので、一度ミルファーレ村に戻ろうと思います。その、国境のことも気になりますので」


「ゼノのことが、だろ」


とガロがからかうが、それをかき消すように山賊たちが大声を上げる。


「もう行っちまうんですかい?」

「もうちょっといてくだせえよ」

「次はいつ来てくれるんです?」


などとリディアを取り囲む。

それをヴォルドが制止した。


「マクレイン様はルナが大きくなって運べないからここに滞在されてただけだ!未練がましいことを言うんじゃねえ!」


そう叫ぶヴォルドが一番行って欲しくないと思っていることは、うっすらと涙で滲む瞳を見れば明らかだった。


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