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婚約破棄された伯爵令嬢ですが、追放先の辺境で聖獣に愛され過ぎて困っています  作者: 扇風機と思ったらサーキュレーター


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親愛なる友人

王都の中央庁舎の一角、薄暗い執務室にユリウス・グレイは一人腰を下ろしていた。

机の上には、商人の帳簿や兵站記録、そして各地の視察報告が広げられている。


少し前、彼は食料を北の国境の砦に送る荷駄隊に関する資料を見ていた。

国境までまだ数日というところで、荷駄隊の動きが不自然になったのだ。

宿を毎日変えることで移動しているように見せているが、明らかに進みが鈍っている。

同じ町に泊まることもあるし、ほんの少しだけ移動して宿泊することもある。


毎日宿を変えているから、宿の名前と場所を突き合せないと気づかない。

だから、荷駄隊の経費を管理するものも気づかなかったのだろう。


とにかくそれによって、荷駄隊が国境に食料を運んでいないのではないかという疑いが生まれた。

それについての続報が届いた。


「……これは」


荷駄隊の者たちは、進みが鈍くなってから散財が激しくなっている。

それは個人的な支出だから、経費などには表れない。

だが、荷駄隊の給料でそんな散財ができるはずはないのだ。


「何者かから金を受け取ったのか?」


荷駄隊の者に金を渡す理由は、兵糧以外考えられない。

北の国境の兵を削減し、さらに兵糧も尽きさせようという策。


ユリウスは小さく息を吐き、背筋を伸ばす。


「――見過ごすわけにはいかない」


ユリウスは、リディアとガロにこの件を伝えるべく外に出た。

リディアは、この時間なら自分の屋敷にいるだろう。

リディアの無実を晴らそうと話し合ったギルベルト・フォン・マクレイン伯爵にも挨拶をしておきたい。


そうして、ユリウスは屋敷の門をたたいた。

門番に名前を告げ、案内を待つ。

彼の目には疲労がにじんでいるが、その奥には鋭い光が宿っていた。


「ユリウス様? こんな時間にどうされましたか」


リディアが顔を出すと、ユリウスは低く告げた。


「怪しい動きがある。まだ証拠は不十分だが、国境に兵糧が届いていないかもしれない」


「何だって?」


リディアと共に出てきたガロが口を挟む。


「荷駄隊が大金を渡され兵糧を売り飛ばした疑いがあるんだ」


ユリウスは彼らを見据えた。


「王太子に告げても無駄だろう。エリザベート様もヴァルハルゼンを信用している。だから、自分で事実を探るしかない。北の国境の実情を調べること、誰が兵糧を買ったのかを調べること、もしこれが事実なら北の国境に兵糧を届けること、これらを考えなくては」


北の国境にはゼノがいる。

優しくて不器用なゼノ。

騎士団の誰もが頼りにする、北境の盾のような存在。


そんなゼノが危険にさらされている。

「ゼノがいれば北の国境は大丈夫」と言われるほどのあの人でも、兵糧がなくては戦えない。

リディアは、親愛なる友人を想った。


「わたしたちも協力します」


ユリウスは小さく頷いた。


「助かります。でもあなたたちは聖獣のことも調べなくてはいけないのでしょう?」


「確かにまだ欲しい情報はあります。ですが追放された私が長くここにいるのも危険です。だから、一度ミルファーレ村に戻ろうかと考えています」


「俺らは北の国境の村から来たんだよ。そこの騎士団長とこのお嬢ちゃんはねんごろな仲なのさ」


「ガロ様!下品なことを言うのはやめてください。私とゼノ様はそんな関係じゃありません」


そういって否定するリディアの顔が少し赤くなっているのを、ユリウスは見逃さなかった。



「小娘の姿が消えただと?」


ヴァルハルゼン王、グラウベルトが報告者に訊き返した。

少し前、グラウベルトはリディアに暗殺隊を差し向けた。

それが失敗に終わったことは、命令者から聞いている。


たかが小娘一人の暗殺に失敗するとは、グラウベルトには信じられないことだった。

だが暗殺隊は全滅してしまったらしく、細かいことは何もわからなかった。

だから、グラウベルトはまだ聖獣ルナのことは知らない。


「まさかわしの動きに感づいたのか……?」


ヴァルハルゼン王国は、表向きはラグリファル王国と有効な関係を保っている。

だが、その王グラウベルトの胸中には野望が燃え盛っているのだ。


ヴァルハルゼンは北の大国と呼ばれているが、土地は痩せ気候は厳しく裕福な国とは言い難い。

肥沃な土地に恵まれた温暖なラグリファルと比べると国力はかなり劣ると言わざるを得ない。

いや、現在のラグリファル王であるガラハルトがラグリファルを豊かにしたのだ。

そのガラハルト王が病に倒れたと聞いて、グラウベルトは小躍りして喜んだ。

そうして様々な謀略をラグリファルに仕掛けたのだが、それをリディアが潰していった。


ラグリファルでは、王妃も政治に口を出すことが少なくない。

ただガラハルト王の妃は既に亡くなっており、また王自身も病床にあるため、レオン・アシュレイ・ラグリファル王太子が政治を見ることになっている。

だがレオンはあまり政治に興味がなく、また能力もなかった。

だから、まだ王太子妃候補であったリディアがその任を担ったのだ。


リディアは、決して謀略に長けているわけではない。

ただ、心優しいリディアは人の気持ちがよくわかる。

謀略に携わっているような人間は、どうしても動きが不自然になるのだ。

それを指摘し、追及すれば自然とグラウベルトの策を邪魔することになる。


そんなリディアが邪魔になったのでエリザベートを使って追放させたのだ。

エリザベートを操ることには成功している。

だが、リディアの行方が知れないことは気になった。


「どうしても目障りだな」


何をしているのか、こちらのしていることに気づいているのか、そんなこともわからないリディアのために貴重な諜報部隊の駒を費やすべきだろうか。

ラグリファルへの謀略を巡らす中で、グラウベルトはのどに小骨が刺さったような不快感を抱いていた。


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