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婚約破棄された伯爵令嬢ですが、追放先の辺境で聖獣に愛され過ぎて困っています  作者: 扇風機と思ったらサーキュレーター


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秘密の誓い

王都の外れ、小さな礼拝堂の裏庭にある粗末な小屋。灯りを囲んで、三つの影が並んでいる。フードを下ろしたユリウス・グレイの表情は、硬く引き締まっていた。対するリディアとガロもまた、緊張を隠さずに相対している。


ユリウス・グレイは少し困惑していた。

リディアの父ギルベルト・フォン・マクレイン伯爵とは、リディアを救うために協力をすることを話し合ったからだ。

そのリディアが目の前にいる。


「……改めてお会いできて光栄です。リディア様」


「私は罪人として追放された身です。そんな呼び方は不要ですよ」


リディアの声は静かだが、目は真っ直ぐにユリウスを見据えていた。

ユリウスはわずかに口元を引き結び、言葉を選ぶように続けた。


「では、率直に申し上げます。今、王都は危機に瀕しています。北方の守備兵が削減され、国境が手薄になっているのです」


「……ゼノもそんなことを言っていたわね」


リディアは、長く会っていない友人の顔を思い出す。

ユリウスはうなずき、持参した書簡を差し出した。


「王太子妃となったエリザベート様が、節約を名目に裁可しました。しかし、ヴァルハルゼンは同時に大量の兵糧を買い占めています。偶然とは考えにくい。――私は、彼らが意図的に我らを罠に誘い込んでいると見ています」


リディアは羊皮紙を受け取り、走り書きの数字や報告を目で追った。

やがてそっと紙を閉じ、長く息を吐く。


「……確かに、不自然ですね」


「問題は、これを王太子に進言しても、耳を貸していただけないことです」


ユリウスの声音には苦味があった。


「リディア様の件で私は異議を唱え、以来、王太子殿下からの信頼を失いました。諜報部の仲間も同じです。今の私には、これを食い止める術がない」

彼の言葉に、リディアの胸がわずかに疼いた。追放のとき、抗ってくれた者がいたのだ。知らずに背を向けてしまったことに、申し訳なさが広がる。


「私は王太子の下で諜報に携わる者。身分も低くこうしてリディア様とお話しさせていただくのは初めてです。ですが王太子妃候補としてのリディア様のお姿を拝見し、そのお働きには感銘を受けておりました。

あなた様が追放されたのも、ヴァルハルゼンが排除しなければいけない存在だと考えたからでしょう。あなた様には、それだけの力があると思うのです」


「ユリウス様、それは買い被り過ぎです」


リディアは声を落として言った。


「ですが、あなたの誠意は分かりました。ところで、どうして私にそれを話すのです? 私はもう宮廷の人間ではない」


「だからこそです」


ユリウスの瞳が、真剣に光を帯びた。


「今の宮廷に残っている者は誰も、真実を見ようとしない。……あなたなら、私と同じものを見てくださると信じたのです」


沈黙が落ちた。窓から入ってくる夜風が三人の外套を揺らす。先に口を開いたのは、ガロだった。


「言葉だけならいくらでも飾れる。だが、本気なら行動で示してもらわなきゃならねえ」


その声音には、長年の荒事をくぐり抜けてきた者の鋭さがあった。

ユリウスは小さく笑った。


「ごもっともです。だからこそ、私は証拠を集めています。兵糧の流れ、商人の帳簿、そして境界砦の配置図。まだ断片ですが、積み重ねれば必ず真実が形を取る」


リディアはその言葉に頷き、フードを外して顔を上げた。


「分かりました。では私も隠すべきではないでしょう。……私は今、聖獣ルナを目覚めさせるために隠れて王都へ来ています」


だからギルベルト伯爵からの連絡がなかったのか。ユリウスは納得した。

自分とギルベルト伯爵が繋がっていることは誰にも知られてはならない。

いずれ2人きりになれる時を見計らって告げようとしているのだろう。


「聖獣……!本当に存在していたんですか?」


「はい。もしかすると私を選んでくれたのかもしれません。そして、この国を守る力になってくれるのかも」


そして、リディアは声を落として続けた。


「本当は力など使わず、幸せに暮らさせてあげたいのですが」


そう言いながらリディアは、中央図書館で読んだ言葉を思い出す。

「かつて王国に降り立った光の聖獣。

その加護を得た者は国を守る盾となり、幾度もの戦乱から人々を救った。

聖獣は人と心を交わす存在であり、契約は血筋や地位を問わず、ただ“選ばれし者”にのみ許される。」


ルナは、戦いに巻き込まれるために生まれてきたのだろうか……。


沈んだ顔をしているリディアに、ユリウスは言葉を選んで話しかける。


「聖獣の噂は私も耳にしたことがあります。それがリディア様の下にあるなら、吉兆かもしれません。……どのような力を持っているのですか?」


「まだ子供ですから。それに、今はずっと眠っていて起きないのです」


「それは心配ですね。ですがこの国のため、私の方にも協力していただけませんか?」


「もちろんです。私もこの国の民ですから」


「リディア様の無実の証明もです。実はリディア様のお父上と、そのために協力し合うことを約束しております」


「それはヴァルハルゼンの陰謀を暴けば自然と果たせるんじゃねえか?」


ガロはそう言うと、2人は頷いた。


「ったく、聖獣を救いに来たら、国まで救わなきゃならなくなっちまった。面倒なこった」


そんなガロの言葉にリディアもユリウスも笑ったが、その肩にのしかかる重圧を感じてもいた。


ルナはずっと眠っているのでリディアを愛してくれません。

なかなかタイトル通りに行きませんね。

というか全然ルナが活躍してない!

私も時々タイトル「婚約破棄された伯爵令嬢ですが、追放先の辺境で聖獣に愛され過ぎて困っています」を忘れてしまいます。

あ、辺境ですらなくなってる!


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