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婚約破棄された伯爵令嬢ですが、追放先の辺境で聖獣に愛され過ぎて困っています  作者: 扇風機と思ったらサーキュレーター


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覚醒と昏睡

リディアの家は静寂に包まれていた。だが、その静けさは嵐の前触れのように不自然だった。夜風がカーテンを揺らし、ロウソクの火がかすかに揺れる。ガロとゼノはリディアの話を聞いたあと、異様な緊張感を覚えて立ち上がる。


「外に、気配がある」


ゼノの目が鋭くなる。ガロも腰に差していた狩猟用ナイフに手を添え、すぐに窓辺に身を寄せた。次の瞬間、扉を蹴破って黒装束の男が飛び込んでくる。


「リディア、下がれ!」


ゼノが剣を抜き、ガロも男に飛びかかる。すぐに二人目、三人目の刺客が現れ、室内は混乱に包まれた。リディアは部屋の隅に身を寄せながらも、懸命に状況を見守る。


刺客たちは明らかにただの賊ではなかった。動きに無駄がなく、鍛え上げられた戦士のそれだった。

ゼノが一人を剣で押し返すが、もう一人が背後から迫る。ガロがその動きを見逃さず、間に入って受け止めたが苦しそうに息を吐いた。


「くそ、こいつら……かなり腕が立つ」


息を殺しながら、ガロはナイフを構え直す。ゼノもリディアを気遣いながら、冷静に状況を見極めようとしていた。


騎士団長であるゼノはもちろん剣術には優れているが、刺客とは戦い方が違う。

狭い場所で相手を確実に殺す刺客と、正々堂々と剣をぶつけ合う戦とでは勝手が違うのだ。


ガロも若い頃は荒事にも慣れていたが、最近は本気で戦うこともなくなっていた。そのうえ、年齢も重ねている。


だから、三人の刺客に対してゼノとガロは時折押され気味になった。二人ともリディアを守らなければという強い気持ちで戦っていたが、どうしても気持ちだけでは限界がある。


そうしてできたわずかなスキをついて、三人目の刺客がリディアの方へと向かっていく。リディアの目が恐怖で見開かれる。


その時だった。それまでじっとしていたルナが目を開いた。



狙った相手を確実に殺さなくてはいけない刺客は、気配に敏感なものが多い。だから部屋に乱入してすぐに、リディア以外に二人の男がいることに気づいた。


それは、刺客からすれば想定外だった。実際、リディアの家に二人がいたのは偶然に過ぎない。

ガロがリディアに密使の件を話すタイミングがずれていたら、リディアは1人で刺客を迎えることになっていただろう。


いや、一人ではない。リディアの家には、聖獣ルナがいる。だからこれから起こることを考えると、刺客の運命はゼナとガロがいようといまいと同じだったのだ。


気配に敏感な刺客にさえ気づかれないほど、ルナはじっとしていた。そしてリディアに刺客が迫った時、立ち上がって目を光らせる。


「リディア!」


ゼノが焦って叫ぶが、その時瞬間空気が凍りついた。

部屋中に広がるまぶしい光。


――刺客たちの動きが止まる。まるで時間が凍結したかのように三人とも体を固まらせ、その場に倒れる。


ゼノとガロは、呆然とその光景を見つめている。


「何が起こったんだ?」


「とにかく刺客を拘束しよう」


ガロとゼノが手際よく三人を縛り、それからゼノが外を見に行った。こういう時は、暗殺対象が外に逃げないよう見張りを置いておくのが常道なのだ。


果たして、外にも刺客はいた。だが、その者も白目をむいて倒れている。ゼノは外にいた刺客も縛り上げて運んできた。


「これが……聖獣の力?」


ゼノとガロがそうつぶやいた時、リディアの叫びが聞こえた。


「ルナ!しっかりして!」


ルナはその場に倒れていた。扉を通るのに窮屈なくらい大きくなっていた体が、随分と縮んでいる。息はあるが、意識を失っていた。


リディアの声は震えていた。そこには、純粋にルナの身を案じる心だけがあった。


「聖獣について、しっかり調べてみないといけないな」


ガロがそう言った。聖獣という存在自体は知られているが、そう簡単に人には懐かない。見たという人は多いが、リディアのように一緒に暮らしている例は少ないのだ。

まったくないというわけではないが、細かい情報までは伝わっていない。このような時の対処法も。


「ルナは私を守るために力を使って、それで……」


「力を使えばどうなるのか、どうすれば治るのか、それも調べなくては」


「でも、この村にはそんな本はねえよ」


こんな辺境の村ではそんな本は見つからない。また、北の砦もいつ戦で焼かれてしまうかわからないので貴重な本は置いていないのだ。いくつかの戦術書が置いてあるに過ぎない。


「……王都なら」


リディアがそう口にした時、重い空気が流れた。リディアは追放された身だし、騎士団長のゼノはここを離れるわけにいかない。そして、貴族の位を失ったガロも王都の図書館に気軽に入れる身分ではない。


「それについては明日考えよう」


ゼノはリディアに目を向けた。


「無事でよかった。……リディア、怖かっただろう」


その言葉を聞いた時、リディアは崩れ落ちそうになった。ルナのことが心配で気を張っていたが、自分も刺客に狙われていたのだ。その緊張が、ゼノの言葉でふっと解けた。


そんなリディアを、ゼノが抱き締めて支える。


「うん……でも、ゼノとガロが守ってくれて、ルナまで……ありがとう」


リディアは、ルナの小さな額にそっと口づけた。


それを見ながらガロは「そこはゼノに口づけるところじゃねえか」と思ったが、口には出さず窓の外に目を向けた。



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