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深まる迷い

諜報部に勤めるユリウス・グレイは、迷っていた。


諜報という汚れ仕事はあまり貴族に似つかわしくないが、彼は子爵家の次男坊だ。

とは言っても古い家柄ではない。現在の王であるガラハルト・エルネスト・ラグリファル王が彼の父親の働きを評価して子爵の地位を与えたのだ。


ガラハルト王は、現在は老いてしまっているが、若い頃はとても優秀だった。

ここラグリファル王国の隆盛は、この王が作り上げたと言っていいだろう。


特に諜報に力を入れることで、この国は大きく強くなった。

ただガラハルト王は決して野心家ではなく、ひたすら平和を望んでいる王だった。

平和に怠けていたいから、それを叶えるために一生懸命働いた、という人だ。


この王のおかげでラグリファル王国は平和を保っていられる。


そして、この分け隔てをしない王はユリウスの父親を気に入り、ユリウスを自分の息子の遊び相手にした。


諜報員の息子として鍛えられていたユリウスは、子供の頃の王太子レオンの興味を引いた。

それから10年以上の時を経て、ユリウスはレオンの腹心のような存在になっていたのである。


だが、王太子レオンはガラハルト王のような聡明さを持っていなかった。

諜報の大切さを解しないレオンは、少しずつユリウスを疎ましく思うようになっていく。


そんな時に、リディア追放事件が起こった。このことについて、ユリウスはレオンに疑問を呈した。

そのことが、二人の決定的な亀裂になった。エリザベートに心酔していたレオンは、ユリウスを遠ざけたのである。


ユリウスは、リディアを高く評価していた。その冷静さや上品な顔立ちから「冷たい」と評されることもあったが、リディアが目立たないように王太子を支えていたことをユリウスは知っていたのだ。リディアの政策提案書は、とても見事な物だった。

レオンが間抜けさを晒さずにいられたのも、リディアのおかげと言っていいであろう。


事実、エリザベートという自分が目立つタイプの女が横に来た途端、レオンは軽んじられるようになっている。



そこでユリウスは、エリザベートについて調べることにした。

追放時に糾弾されたエリザベートに対する幼稚な嫌がらせを、リディアがやるとは思えなかったのだ。


ユリウスは、レオンに対する忠誠心は持っていた。だが、決してレオンが優秀だとは思っていない。幼馴染に対する情と王家の血筋に忠誠心を抱いているのだ。


そんなユリウスにとって、レオンの横にはリディアがいた方がいいと思える。レオンが軽んじられている現状を、ユリウスは憂慮していた。


だからユリウスは、エリザベートが王太子妃の座を射止めるために行った幼稚な企みを暴こうと思った。

所詮は女の権力争いに過ぎないのだから、真実を明らかにすれば収まるだろうと思っていたのだ。


だが、調べれば調べるほどきな臭いものが見えてくる。

これは、女の権力争いなどではない。……隣国が仕掛けた陰謀だ。



ガラハルト王によって国が強くなった今、ラグリファル王国は気が緩んでいる。今の平和が当たり前に続く、と皆が思っているだろう。


だが、隣国ヴァルハルゼンのグラウベルト王は野心家である。今は表面上友好を保っているが、ラグリファルの弱体化を狙っていてもおかしくはない。


その狙いのために、リディアが邪魔だったのであろう。凡庸なレオン王太子に老王ガラハルトの代わりが務まっていたのは、リディアが良く補佐をしていたからだ。


そのリディアを追放し、自分の息のかかった者を王太子妃にしてレオンを操る。これが隣国ヴァルハルゼンの目的なのだろう。


ユリウスは、ここまでの陰謀を想像していなかった。ユリウスもある意味平和ボケをしていたのだろう。そして、彼は恐怖もしていた。


この陰謀を突き止めたことを知られたら、隣国の刺客に狙われかねない。

レオンに対する忠誠心はあるが、向こうから遠ざけられた以上命をかけてまで尽くす義理はないとも思う。


「いっそヴァルハルゼンに寝返るか」


という選択肢もユリウスの中に生まれている。



リディアは、もちろんそんなことはまったく知らない。伯爵令嬢として、王太子の婚約者として気を張っていた時は感情をあまり表に出さなかったリディアだが、辺境のミルファーレ村に来てからはよく笑うようになった。


そんなリディアは、最近頻繁に騎士団を訪れている。

リディアは、騎士団でこの辺りの詳しい地理や生えている植物の見分け方、肉のさばき方などを教わっている。

そして、騎士団の方もリディアから詳細な帳簿の付け方や兵糧の管理方法、医療や治安に関する意見をもらっているのだ。


リディアの教養は、騎士団の役に立っていた。騎士団長のゼノは、そのことに感謝していた。ゼノも十分騎士団長として優秀なのだが、多少大雑把なところがある。だから、リディアの助言によってかなりの無駄を省くことができているのだ。


そして、ゼノはリディアが来るのを心待ちにもしていた。リディアがいる時といない時では、ゼノの態度は全く異なる。だから団員は団長を冷やかしたいのだが、「リディア嬢に失礼だろう」と本気で怒られてしまうのだ。


リディアも、ゼノに会えると嬉しい気持ちになる。だが、リディアはリディアがいない時のゼノを知らないので、その気持ちにも気づかない。出会った頃より愛想がよくなったとは思うが、それはゼノが普通に接してくれるようになっただけだろうと思っている。


リディアとゼノは、こんな不器用でもどかしい、そして平和な日々を送っていた。


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