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【完結】婚約破棄された伯爵令嬢ですが、追放先の辺境で聖獣に愛され過ぎて困っています  作者: 扇風機と思ったらサーキュレーター


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囁き

エリザベートは、何かがおかしいと感じてはいた。

まだリディアが王太子の婚約者だった頃、突然マリアンヌがリディアを悪く言い始めた。

それと前後して、ヴァルハルゼンの使者がエリザベートの元を訪れるようになった。


「あなた様こそ王太子妃に相応しいお方」


などと言って持ち上げてくる。

わがままで高慢なところもあるエリザベートは、褒められることが嫌いではない。


「あなたの方が家柄も才覚も美貌も上なのに、なぜ王太子妃にならないのです」


などと言われると、良い気分にはなる。

ただ、王太子妃という立場には興味がなかった。


正確に言えば、王太子レオンその人に興味がなかったのだ。

王太子が別の人なら……という妄想を、エリザベートはしたことがある。

だから、王太子妃に絶対になりたくないということではない。


ただ、現状ではそんなことは望まない。

公爵令嬢のエリザベートは伯爵令嬢のリディアのことはそれほど深く知らない。

だが周りの話を聞いていると政治向きのこともよくやっているようだし、決して王太子妃として恥ずかしいような女性ではない。


ここで自分が王太子妃になることを望んだら、国が揺れてしまうだろう。

もちろん公爵と伯爵だから、自分の要望が通ることが予想される。

それでも不満を持つ者が生まれ、それはやがて禍根となる。


国への忠誠心の厚いエリザベートにとって、レオンの妃というものはそうまでして手に入れたい立場ではなかった。


***


そんな時だった。

エリザベートが外を歩いていると、一人の女性が近寄ってきた。

想像以上に近づいてきたので避けようとした時、その女性が持っていた瓶から液体がこぼれ、エリザベートのドレスにかかった。

さらには、ドレスの下の肌にも。


「熱っ!」


エリザベートは、思わず声を発した。

何かの薬品がかかったようだった。

エリザベートに付き従っていた者がその女性を捕え、話を聞いてみるとリディアの侍女だと言う。


幸い肌は何ともなかった。

だが、痛みよりも胸の奥に残ったのは、リディアへの小さな棘のような違和感だった。

それから、さらにリディアが自分の悪口を触れ回っているという噂まで耳に入ってきた。


マリアンヌは、それ見たことかとばかりにリディアの悪口を言い募る。

ヴァルハルゼンの使者は、エリザベートが王太子妃になるべきだと唆す。

エリザベートは心を決め、リディアを追放した。


こうして、エリザベートは王太子の婚約者になった。

なりたくてなったのではない、自分がなるしかなかったのだ。


マリアンヌの死によって、それが仕組まれたものではないかという疑念が湧いた。

ヴァルハルゼンの使者が王太子妃になれと勧めてきたのは、何かの思惑があったからか。

しかし、自分が王太子妃になることでヴァルハルゼンに何の得があるのか。

今のところ何か要求があるわけでもなく、自分の国に対する忠誠心にも変化はない。


マリアンヌの死を悲しみながらも、エリザベートは居心地の悪い日々を過ごしていた。


***


ユリウス・グレイも、同じような居心地の悪さを感じていた。

いや、仕えているレオンからの冷遇がより酷くなったため、エリザベート以上と言ってもいい。

それでもユリウスは、真実を知りたかった。


エリザベートのドレスに薬をかけた侍女のことも、当然調べてある。

リディアの侍女なのは確かだが、雇われたばかりだった。

リディアがエリザベートに悪意のある噂を流したという話は、一方的な証言のみによって認定された。

だから、ユリウスはリディア追放は早計であるとレオンに諫言したのだ。


ユリウスは、その侍女についてさらに調べてみた。

すると、エリザベートのドレスに薬品をかけた後、リディアの侍女です申し訳ありませんとひとしきり騒ぎ、「ご迷惑をかけた以上勤めてはいられません」と書置きを残して行方をくらましたらしい。


北の方に向かったという話もあるが、今となっては行方を明らかにするのは難しい。


そこで、今度は噂の証言者を調べることにした。

証言者の名を一つひとつ追っていくうちに、ある奇妙な一致が浮かび上がった。

お金に困っていたこと、リディア追放の後少し羽振りが良くなったこと、そしてヴァルハルゼンの人間と会っていたことだ。


それなり以上の地位にある貴族が他国の人間と会う際は、申し出るのが通例となっている。

そうしないと内通を疑われ、政敵に追い落とされてしまう恐れがあるからだ。


噂の証言者は、リディア追放劇の一月ほど前にヴァルハルゼンの者と一、二度会っているという記録があり、そしてそれっきりになっていた。

知られたくないことがあったために、申し出なかった可能性は考えられる。


そして何より、エリザベートが頻繁にヴァルハルゼンの人間と会っていたこともわかった。

エリザベートには何も後ろめたいことがなかったため、素直に全てを申し出ていた。

内容は単なる機嫌伺いとあるが、本当だろうか。


ユリウスの中に、ヴァルハルゼンに対する疑いの心が芽生えた。


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