歴史
第113話
リディアは、ルナと一緒にひっそりと暮らしていた。
周りの人ともあまり交流しないようにしているが、どうしても食料品の買い物などで顔を合わせなくてはいけない。
その時も言葉少なく、微笑を浮かべて対応するようにしていた。
だが、専門の諜報員がリディアを見つけるのは簡単なことだった。
ユリウスに上がってきた情報はすぐに王太子レオンの下へ、そしてゼノに伝わった。
ゼノは、緊張しながらリディアの家を訪ねた。
拒絶されたらどうしよう、と考えながら。
だが、それは非礼だと思ったのかリディアは出てきてくれた。
その横では、ルナが嬉しそうに飛んでいる。
「リディア、急に姿を消すなんてどういうことだ」
「ゼノ、ごめんなさい。でも、私はもう疲れてしまったの。そして居場所もないわ、ブラッディ・リディアには」
「そんなことあるものか、エリザベートも、ガロもヴォルドも、ミルファーレ村のみんなも、君の帰りを待ってるんだ」
リディアは、寂しそうに息を吐く。
「私には、そんな資格はありません。特に、村のみんなには合わせる顔がない」
「なぜリディア一人が責任を背負い込もうとするんだ!俺の方がずっとたくさん人を殺したし、今までにもたくさん戦をしてきた。俺の方が責任は重いはずだ」
「きっと分かってはいただけないでしょう。もういいのです。もうお帰り下さい」
そう言って、リディアは背を向けようとした。
そこに、ゼノが大きな声で縋り付く。
「リディア、俺と結婚してくれ!」
「!?」
あまりの言葉に、リディアは振り向いた。
そして、陰からこの様子を盗み見ている五つの影も。
エリザベート、レオン、ガロ、ヴォルドたちは、ちゃっかりユリウスと一緒にゼノの後をつけてきたのだ。
王都からここまで来るには何日もかかるが、ユリウスがしっかりゼノの乗り物を把握して尾行を行った。
王太子とその婚約者が王都を留守にすることに大臣たちは難色を示したが、「王子の一大事だ」と強弁して突っ切った。
その五人は、大きなため息をついている。
「……兄上」「ゼノ兄さま……」「あいつ、こんなに女の扱いが下手だったのか」「やっぱりあいつにマクレイン様は任せられねえ」「まあ、人には得手不得手がありますから……」
そんなことを知らないゼノは、必死でリディアに自分の想いを伝える。
初めて会った時から気になっていたこと、今までの思い出、戦の最中もリディアのことを考えていたこと、姿を消してから胸が張り裂けそうだったこと。
だが、リディアは頷かない。
「私には、幸せになる資格なんかありません」
「だったら、俺を幸せにしてくれ!」
ゼノはなりふり構っていられなかった。
「俺はリディアがいてくれないと幸せにはなれないんだ。俺から幸せを奪うのか!?」
ゼノの詐欺師のような言い分に、リディアは絶句した。
そして五人の我慢も限界に至り、立ち上がって顔を出した。
「ゼノ兄さま、口説き文句くらい用意してから来たらどうなんですの!?」
「兄上……とっても情けないです」
「ヒモになりてえのかお前は」
「マクレイン様の婿は俺が探す、王子様は引っ込みなされなさい」
ユリウスも幻滅した顔で言う。
「勇ましくて格好良い方だと思っていたのに……」
今のを見られたと気付いたゼノは、顔が真っ赤になった。
「な、な、な、何でここに……」
「そりゃあ、ユリウスが調べた情報なんだから当然レオンと私も知ってるに決まってるでしょ」
「元貴族のコネで、エリザベート様に聞いたんでさあ。もちろんヴォルドに教えたのも俺だ」
「すみません、どうしてもと言われたのでここまでの尾行もさせていただきました」
恥ずかしさで何も言えなくなったゼノに代わって、エリザベートが前に出た。
「リディア!ゼノ兄さまの言葉は情けないけれど、中身には同意するわ。みんなあなたがいないと心に穴が開いたようになるの。お願いだから……戻ってきて」
そう言って、エリザベートは頭を下げた。
本当はすぐにでも抱きつきたいのを我慢して。
次にガロが進み出た。
「嬢ちゃん、俺ぁちょっと村に戻ってみたんだが、みんなが嬢ちゃんの帰りを待ってるぜ。マリィとガルドも、子供を抱っこして欲しいってずっと言ってた。嬢ちゃんの居場所は、あそこにちゃんとあるんだぜ」
「マクレイン様は、戦争を終わらせた立役者じゃないですか!胸を張って凱旋する権利があると思いますですよ」
「リディア様、また行方をくらまして私の仕事を増やさないようにしてください。お願いします。」
そして、最後にレオンがリディアに頭を下げる。
「リディア、君の話を信じないで追放してしまったことを心から謝罪する。私が間違っていた」
それから、背筋を正し威厳のある声で告げる。
「だが、王太子として再び命じる。リディアは、ミルファーレ村に追放だ。兄上と一緒にあそこに住んで、みんなを幸せにするんだ」
「私は王都にいて欲しいのだけど」
とエリザベートが少し不機嫌に言う。
「私も遊びに行くし、リディアも遊びに来てね」
そう言って横にいる聖獣に視線を移す。
「あらルナ、小さくなったわねぇ。これじゃあ乗れないけれど、かわいくなったわ」
そう言って、ルナを抱き締める。
ルナも嬉しそうに「フルルゥ」と鳴く。
それを見たリディアは、楽しそうに言った。
「エリザベートは大きいルナを怖がっていたものね。ルナに乗りましょう、と誘った時の引きつった顔ったら……」
苦しいこともあったけど、楽しいことや嬉しいこともたくさんあった。
そして、この先も……。
リディアがここで見せた泣き出しそうな微笑みは、以前とは違う前向きなものだった。
「本当に……私は笑ってもいいのでしょうか」
レオンがゼノの背中を押す。
「もちろんだ!一生俺の横で笑っていてくれ!いや、俺があなたを笑顔にする!」
そこにルナが浮遊していく。
「あ、もちろんルナも一緒だぞ」
その言葉を聞くと、ルナは嬉しそうにゼノの頬を舐めた。
「ゼノ、ありがとう。私も……あなたが好きよ」
そう言って、リディアはゼノに寄り添う。
「ねえ、このままミルファーレ村に行ってお祝いしちゃいましょうよ!私も村の方々に会っておきたいわ」
「突然王太子とその婚約者が現れたら、村の連中ひっくり返るんじゃねえか?」
「どうせこれから何回も遊びに来るんだから、慣れてもらわないと!」
「エリザ、あまり僕を放ったらかしにしないでくれよ。仕事もあるんだし……」
「仕事なんかレオンがやればいいでしょ!何のためにあんたを覚醒させたと思ってるの!」
「……リディアのところに遊びに行くためだったのか……」
そんなやり取りを笑顔で見つめながら、リディアはつぶやいた。
「私、追放されてよかった!」
***
——リディア・グレイス・マクレイン。
冷酷な軍略家として歴史に名を残している彼女の本当の姿は、今も聖獣の記憶の中に存在している。
お読みいただきありがとうございます!
113話の追放物語、完結です。
書いているうちにどんどん愛着がわいてきました。特にエリザベートに。
非常に楽しく書くことができたのも、読んでくださった皆様のおかげです。
次回作「『領主に害をなす者』と呼ばれた僕は、テレパスで繋がる親友たちと異世界を生きる」も更新中です。今度は内政をする予定です。
作品ページはこちら↓
https://ncode.syosetu.com/n4707ln/
今は次回作に取り掛かっていますが、今作のキャラクターに思い入れもありますので、また気が向いたら外伝みたいなものも書いてみたいと思います。
毎日たくさんのPVをいただけたおかげで書き切ることが出来ました。
星やコメントなどで感想をお聞かせいただけるととても嬉しく思います。
最後までお読みいただき本当にありがとうございました。
(2025年12月25日追記)
みなさまのおかげで12月25日に日間ハイファンタジー完結済み部門で8位にさせていただきました。ありがとうございます。
新作「『領主に害をなす者』と呼ばれた僕は、テレパスで繋がる親友たちと異世界を生きる」もよろしくお願いします。
面倒でなければ感想も書いていただけると大変うれしいです。
今回初めて長編を書いたので、今後のために批判でも何でもいいので感想をいただけると励みになります。
お返事もさせていただきますので、よろしくお願いします。
ここまでお読みいただきありがとうございました。




