失踪
リディアは、戦が終わってから祝勝会に顔を出した。
ガロ、ヴォルド、騎士団のみんな、昔からの兵、その顔を見るだけで泣きそうになった。
でも、ダリオ男爵やずっと自分が率いていた兵が知っている「ブラッディ・リディア」としての自分は、たくさんの人を殺した自分は、どんな顔をすればいいのか……。
いや、ずっと前から決めていたことだ。
戦が終わったら、私は姿を消す。
私には、どこにも居場所はない。
「ブラッディ・リディア」は、化け物として消えるべきなんだ……。
ヴァルハルゼンが降伏をしてきた時、もう戦わなくていいという喜びが全身に染み渡った。
そして、自分の居場所がないことにも気づいた。
「ブラッディ・リディア」は、もう必要ない。
マリィの悲劇が二度と起こらないように、家族を失う人が二度と出ませんように……。
「ルナ、こんな私と、一緒に居てくれる?」
リディアは、心を通わせた聖獣に尋ねた。
契約は終わったはずの聖獣に。
ルナは、当たり前のように「フルルゥ」と鳴きながら頬を寄せた。
そして、何も心配は要らないと言うように頬を舐めた。
***
「どういうことですの、ゼノ兄さま?」
エリザベートが険しい顔で、戦後報告に来たゼノににじり寄る。
「この戦の一番の功労者のはずですよねえリディアは!それで!?姿を消したとはどういうことですの!?」
ゼノは、その勢いにたじたじになりつつ言った。
「『私の役目は終わりました。今までありがとうございました。』この手紙を残していなくなったんだ」
「『役目』って何ですの!?リディアは私の友人ですわよ!?戦だからと会えないのを我慢していたんですのよ!私の友達としての役目は!?」
「エリザ、リディアは随分傷ついていたんだよ……」
「それを癒してあげるのがゼノ兄さまの仕事でしょう!ゼノ兄さまはリディアが好きじゃないんですの!?」
「好きだけど!リディアはとても悲しい顔をしていたんだ」
「兄上、リディアが好きなんですか?」
ここで突然王太子のレオンが口を挟んだ。
幼馴染だったがエリザベートの気持ちを奪うためにずっとゼノのことを庶子と見下し、その結果三人の絆を壊してしまったレオン。
レオンも、それを後悔していた。
だから、本当はレオンもゼノを兄上と呼びたかったのだ。
しかし、タイミングが最悪だった。
ゼノは、真っ赤になって何も言えない。
「ゼノ兄さまは前に会った時『今は深い関係ではない』と仰ってたわ!今はどうなのです?」
エリザベートの言葉の嵐にも、ゼノは無言でいるしかない。
「ゼノ兄さま!それでリディアを諦めるつもりですの!?」
そう言われて、ゼノは顔を上げる。
「いやだ、俺はリディアを……」
レオンがからかうように言う。
「リディアを?」
エリザベートがレオンの頭をはたく。
「こら、せっかく不器用なゼノ兄さまが本心を言いそうだったのに。昔からレオンはこういうところが……」
王太子というこの場で一番立場が上のはずのレオンは、楽しそうに首をすくめて「ごめんってば」と謝った。
だが、エリザベートは笑いごとで済ますつもりはない。
エリザベートは、リディアと会いたいのだ。
「レオン!ユリウスに命令なさい!リディアの行方を捜すようにと!」
ヴァルハルゼンとの戦いにおいて、ユリウスの提供する情報はとても役に立った。
それがなかったら、こんなに早くヴァルハルゼンを平定することはできなかっただろう。
その功労者は、エリザベートの友人探しに駆り出されることになった。
しかし、ユリウスもリディアのことが大好きだ。
今まで以上に張り切って仕事に精を出した。
***
リディアは、ミルファーレ村から少し離れた場所で1人暮らしを始めた。
誰にも見つからないように、ひっそりと。
……専門の諜報員であるユリウスにそれが見つからないはずはなかった。
お読みいただきありがとうございます!
明日で完結です。本当に。




