二人の夜
ゼノとガロは、戦線を維持するのに最低限の兵だけを残し、援軍として駆けつけた。
敵の反攻兵力を減らす方が、戦略的に有効だと判断したからだ。
そして、ルナのいる方角を目指して進んできた。
ルナが空を飛んでいたのは、ゼノとガロの目印のためだった。
そして、ゼノとガロの軍はハーゲン将軍率いるヴァルハルゼン軍の後ろに正確に辿り着いた。
行き止まりの壁に阻まれて谷で火攻めに遭ったヴァルハルゼン軍は、混乱しながら谷から逃げ出そうとする。
ルナが風を生み出すことで、火勢はどんどん強まっていく。
そこにゼノとガロの率いる軍(合わせて一万三千)が待ち受けているのだから、ヴァルハルゼン軍にとっては悪夢としか言いようがなかった。
ヴァルハルゼン軍は、面白いように討ち取られていく。
完全に戦意を喪失しているヴァルハルゼン軍は、降伏も許されなかった。
特にゼノは、降伏した捕虜の蜂起によってエディンを失った過去がある。
やがて
「ハーゲン将軍討ち取ったり!」
誇らしげに高らかな声が上がった。
敵の将を討ち取り、勝利を得た。
だが、リディアの心は晴れなかった。
自分の策が、またたくさんの人を死に追いやった。
「敵兵はほぼ全滅です!」
高揚した声の報告がリディアの耳に入る。
……「兵」なんかじゃない。「人」なんだ。
ガルドが討ち死にしていたらマリィは…
ガロが、ヴォルドが、ゼノが討ち死にしていたら私は……
今日亡くなった人たちにも、それぞれの人生があったんだ。
私は追放された。でもその時、追放ではなく「首をはねよ」と言われていたら。
薄氷の上で、私たちは生きている。
私が、その氷を割ってしまった。
リディアは、涙をこらえるので精一杯だった。
勇ましい戦勝報告にも、リディアは感情のない目で頷くだけだった。
***
ハーゲン将軍の率いる二万の兵は、ほぼ全滅と言ってよかった。
リディアは、自分の責務だと言わんばかりに戦地となった谷を歩いた。
そこには、惨たらしいほどの死体が転がっていた。
感情のない目でそれを見つめるリディアに、随行した兵士たちは恐怖を感じた。
その日の夜、ゼノとガロは久しぶりにリディアと顔を合わせた。
常に優しい微笑をたたえていたその顔は、別人のように冷たくなっていた。
「リディア……」
ゼノがリディアに近づこうとする。
だが、リディアはそれを拒んだ。
「ご助力、感謝いたします。これで敵の戦力もかなり削られたでしょう。引き続き、侵攻をお願いいたします」
ガロも近づくことはできなかった。
以前のような軽口も叩く隙はなかった。
二人は、それぞれの持ち場に帰って行った。
リディアは、強くあらねばならないと思った。
そして……その夜もルナにすがって泣いた。




