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【完結】婚約破棄された伯爵令嬢ですが、追放先の辺境で聖獣に愛され過ぎて困っています  作者: 扇風機と思ったらサーキュレーター


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リディアは、ルナに乗って空から地形を俯瞰した。

敵国の地形が詳しくわかるというのは、大きな優位になる。

ラグリファル軍の快進撃は、ルナのおかげと言っても良かった。


グレイヴェル城に戻ったリディアは、地形図を書き表した。

2万の兵がこちらに迫っている以上、準備はしっかりしておきたい。

リディアは、谷の存在に目をつけていた。


ダリオ男爵とも相談し、作戦を立てていく。

その作戦も、ダリオ男爵の心胆を寒からしめるものだった。

それからリディアは、再びルナに乗って出かけて行った。


ダリオ男爵は、天候の予測を聞くために付近の農民を呼んだ。

リディアの作戦には、天候が大きく影響してくる。

場合によっては、戦の日にちをずらす方策も考えなくてはいけない。


しばらくすると、ルナとリディアが戻ってきた。

ルナには、少し疲れた様子が見える。

甘えるようにリディアに頬を擦り付け、リディアもそれを撫でてやっている。


それから二日が過ぎた。

敵軍は、明日にはここに到着する見込みだ。

ルナに乗ると敵軍の動きもよく見えるので、そういった予測もしやすい。


ダリオ男爵が農民に聞いたところ、明日は晴れだと言う。

それを聞いたリディアは兵を集め、たくさんの布に油をしみこませた。

そして、兵を率いて出かけて行った。


3時間ほどで帰ってくると、城の外に陣を張り始めた。

グレイヴェル城は、大軍が籠るのに向いている城ではない。

そのうえ、城の前には大きな平野が広がっている。

城に籠る利点があまりないので、野戦を仕掛けようと言うのだ。


こうして、万全の態勢で翌日を迎えた。

日が昇ってしばらくすると、ハーゲン・ドルファール将軍の率いるヴァルハルゼン軍が現れた。


ダリオ男爵が、リディアに話しかける。


「晴れて良かったですね」


「天気が悪かったら守りを固めるだけですわ。その際は男爵に頼ることになりますが」


ダリオ男爵は、その言葉の裏に「当然守り切ってくれるでしょうね」という信頼と威圧を感じた。

初めてリディアに会った時は、守ってあげなくてはいけない繊細な人だと思った。

だが、今は少しずつ恐怖を感じるようになっている。


敵は、ほとんど隙のない隊列のまま進んでくる。

その時、リディアが狼煙を上げた。


「何だ!?」


ハーゲン将軍は、辺りを警戒した。

しかし、何も起こる気配はない。


「何を企んでいるかわからんぞ。警戒を怠るな」


その言葉が終わるか終わらぬかという時、ダリオ男爵が叫んだ。


「行け!!」


その言葉を合図に、ラグリファル軍の先陣三千がヴァルハルゼン軍に突っ込んだ。


「機先を制したつもりか?若いのう」


そう言ってハーゲン将軍が号令をかけると、見事な動きでその攻撃を受け止め始めた。

その時、ヴァルハルゼン軍の後ろに騎兵が攻めかかる。

後方の森に潜んでいた部隊だ。


「さっきの狼煙はこれか。たかが一千程度の騎馬隊が後ろに回ったとて何ができるものでもない。儂を甘く見るなよ」


ハーゲン将軍はてきぱきと後ろの陣に指令を下し、騎兵隊をさばき始めた。

ほとんど損害を与えることもなく、騎兵隊は離脱する。

ダリオ男爵の兵も攻めあぐねていて、何の成果も出せていない。


やがて、ダリオ男爵の兵が崩れ始めた。

リディアは、焦った様子で後続部隊を繰り出す。

ここで崩れてしまっては、数に劣るこちらは大損害を被りかねない。


しかし、ハーゲン将軍の指揮は老練だった。

敵が突っ込んでくる場所に巧みに兵を動かし、まったく侵入を許さない。

陣形が崩れないことを優先しつつ、弱っているところに攻め込む。


ダリオ男爵がいくら躍起になって攻めかかっても、敵は頑として揺るぎない。

リディアは全軍を突っ込ませ、自身も剣を振るって斬り込んだ。


「愚かな。所詮騎士団長のゼノやその他の者の力で勝ってきただけであろう。軍を分けたことが失敗だったな。聖獣とやらも空を飛んでいるだけで何も手出しできまい」


ここでハーゲン将軍は攻撃命令を出した。

それまでは慎重に守りを固めつつ相手に損害を与える戦いを続けていたが、敵をせん滅できる好機を逃すわけにはいかない。


ヴァルハルゼン軍が攻勢に出た途端、ラグリファル軍は後退を始めた。


「逃げるくらいなら最初から出てくるな!」


ハーゲン将軍は、勢いに乗って追撃を始めた。

ラグリファル軍は、城を素通りして逃げた。


「むう?」


ハーゲン将軍は、一旦兵を止めた。城に兵が隠れていて、追撃する自軍の後方から攻めてくる可能性を考えたのだ。

そこで、歩兵は城を落とし、騎兵で追撃をすることにした。


騎兵は、勢いよく駆け出した。

崩れて逃げる敵を討つのはとてもたやすい。

これは手柄を上げる好機なのだ。

歩兵に足並みを合わせる必要もない。


騎兵隊が左手に林を見ながら駆け抜けようとした時、反対側にいた三人の兵が綱を引っ張る。

明日の富貴を夢見る騎兵隊の足元を引っ掛けるように、綱がピンと張った。

三人の兵はそれを木に結び付け、素早く逃げ去った。


騎兵隊の先頭の馬が足を取られてもんどりうつ。

その次の馬も、さらにその次の馬も、そして今度は倒れている馬に接触して……。


勢いがあっただけに、酷い有様であった。

何とか全軍が止まってみると、三千の騎馬兵のうち半数近くの馬が再起不能になった。

馬や人に踏み潰されてしまった兵も少なくない。


この数で追撃しても大した戦果は上げられないどころか、敵が態勢を立て直したら全滅しかねない。

騎馬兵には連絡や斥候などの重要な役割もあるため、これ以上数を減らすわけにはいかなかった。

騎兵隊長は、追撃中止の命令を出す他なかった。


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