諜報
敵国と戦うに当たって、情報はとても大切なものだ。
相手の情報があるかないかで、勝率は大きく変わってくる。
それを受け持つことになったのが、ユリウス・グレイだった。
彼は王太子レオンへの諫言が原因で遠ざけられていた。
リディアの無実を確信していたユリウスは、その名誉を回復させようとリディアの父、ギルベルト・フォン・マクレイン伯爵と手を組んだこともあった。
だが、自分たちが何かする前にリディアは王都に舞い戻り、自力で名誉を回復した。
その際、エリザベートの内通疑惑まで解決してみせた。
自分を追放した者のために動くリディアに、ユリウスはさらに心酔した。
——本当はあの時、ユリウスはエリザベートの父ハロルドが利敵行為を行ったことを掴んでいた。
だがエリザベートの潔白もわかっていたので、黙って見逃したのだ。
その数日後、ユリウスはエリザベートから呼び出された。
そこにはレオン王太子の姿もあった。
エリザベートは言った。
「ユリウス・グレイ。リディアから聞いています。諜報員として非常に優秀な方だと」
予想だにしなかった言葉に、ユリウスは言葉を失った。
口を開けてエリザベートを見つめていると、今度はレオン王太子が口を開いた。
レオンは、エリザベートの薫陶を受けて政治に対する姿勢を改めていた。
「ユリウス、済まなかった。ヴァルハルゼンに関する進言、お主が正しかったのだな。私の不明のために多くの者が犠牲になった」
そして、レオンはユリウスの元にまで降りてきてその手を取った。
「ユリウス、まだラグリファル王国に対する忠誠心を持ってくれているか?」
予想外の出来事の数々に、ユリウスはつい涙腺が緩んでしまう。
そして、呆けている自分に気づいて慌てて返事をする。
「もちろんでございます、王太子殿下」
その言葉を聞いたエリザベートは、少し厳しい顔でユリウスに言った。
「今、我が国はヴァルハルゼンと敵対しています。ヴァルハルゼンの情報はいくらあっても足りません。ユリウス、あなたをヴァルハルゼン方面諜報部隊の長に任じます」
今まで以上の衝撃に、ユリウスはさらにぽかんと口を開いた。
だが、すぐに我に返り
「謹んで拝命いたします」
と答える。すると、レオンが手を取っているユリウスの元にエリザベートまで降りてきて
「リディアを、助けてちょうだい。くれぐれも、お願いします」
と頭を下げた。レオンもそれに倣う。
「勿体なきお言葉、必ずリディア様の……ラグリファル王国のために働いてみせます」
こうして、ユリウスは重責を担うことになった。
***
ヴァルハルゼンを調査するには、王都にいたのでは遠すぎる。
ヴァルハルゼン側の国境の城、ロートバルク城が諜報の拠点として丁度良いのではないかという結論に至り、ユリウスはそこに常駐することになった。
ユリウスが出発する時、レオンもエリザベートも見送ってくれた。
ずっと冷遇されていたユリウスは、それだけで報われた気持ちになった。
ロートバルク城に着いたユリウスは、部下となった者たちに自分の持っている諜報の知識を全て叩き込んだ。
元々諜報に携わっている者たちは、飲みこみが早かった。
リディアにも連絡を取った。
ユリウスが重用されたことを自分のことのように喜ぶ手紙を、ルナを使って届けてくれた。
そんなユリウスの諜報網に、無視できない情報が入った。
ヴァルハルゼン王グラウベルトが、反攻のために兵を集めているという情報だった。




