罠
リディアの次の作戦目標はグレイヴェル城、領主はレオポルト・ヴァインター伯爵。
平地の城であり、あまり守りやすくはない。
今までの戦いに比べれば、与しやすいという印象だ。
リディアは、とりあえず降伏勧告の使者を送る。
だが、相手は全く相手にしなかった。
「いつでも攻めてくれば良い」とずいぶん強気である。
敵が何を考えているかわからないが、一度攻めてみないとわからない。
城に向かって進んでいると、敵は城門を開いて出てきた。
見たところ、その数は三千。
城の規模からすると、留守の兵はほとんどいないだろう。
ダリオ男爵がリディアに言う。
「方陣ですな。守りに適した陣ですが、わざわざ城外でこれを敷くとは」
「城にそれほどの防御力がないのでしょうか。どちらにしても城に籠られるよりは戦いやすいと思います」
「ただ、リディア様はもう少し後ろにいた方がいいのでは?少し前に出過ぎだと思います」
「いいえ、私はここで戦いを見届けなくてはいけないのです。それが私の責任だと思っています」
——戦いを見届ける責任。ダリオ男爵は、そんなことを考えたこともない。
当然のように戦い、当然のように敵を倒す。
繊細な人なのだろう、とダリオ男爵は思った。
***
やがて、戦いが始まった。
こちらも相手に合わせて三千の兵が前に進む。
剣と剣が交わされ、怒号が飛び交う。
形勢は互角と言ったところか。
ダリオ男爵は前線に上がり、兵の指揮を行う。
その用兵は見事なものだったが、レオポルト伯爵も戦上手のようだ。
リディアは、自分の周りの兵も前線に上げさせた。
それと同時に、左陣と右陣の兵にも合図を送る。
それによって、左陣と右陣がするすると前に出る。
その時だった。リディアのすぐ後ろから喚声が上がった。
「敵将はあそこにいるぞ!あれを倒せば我々の勝利だ!」
そう叫んだのはグスタフ子爵だ。
リディアのすぐ後ろに位置していた子爵は、リディアを敵将と呼んだ。
——リディアの軍は大混乱を起こし、その隙をついてリディアは討ち取られヴァルハルゼンに攻め込んできたラグリファル軍の一軍は滅ぶ。
グスタフ子爵は、そう信じていた。
しかし、その声を聞いた瞬間グスタフ子爵が率いる一千の周りの兵が一斉に向きを変えた。
それを予想していたかのように、周りの兵は一気にグスタフ子爵の兵に襲い掛かる。
どこにも混乱などなく、決められた筋書きに従うように子爵の兵は討ち取られていった。
「こ、これは……!」
グスタフ子爵は狼狽えた。一気にリディアに接近して討ち取るはずが、近づく隙さえ見えない。
その間にある兵力は大したものではない。
自分が後ろから攻めるのだから、簡単に越えられるはずだった。
しかし、声を上げた途端に兵は振り向いてこちらに襲い掛かってきた。
自分の兵がどんどん減っていくのを見て、子爵の背には脂汗が伝った。
呆然としているうちに子爵の兵は全滅し、子爵は生け捕られた。
前方では、敵が一気にこちらに向かって攻めてきた。
恐らく子爵と打ち合わせがあったのだろう。
グスタフ子爵の寝返りで敵が混乱したところを攻撃する、というつもりだったのだ。
しかし、リディアの後ろで起こった騒乱はすぐに収まった。
後方で起こった喚声にダリオ男爵は狼狽えかけたが、周りの兵が何の混乱もなくその喚声を上げた連中を包み込んでいくのを見て「大丈夫だ」と判断した。
そうしてダリオ男爵が互角の押し合いを続けているうちに、するすると前に出た左陣と右陣の兵が敵の後ろに回り込む。
レオポルト伯爵もそれに気づいていたがどうしようもなかった。
敵兵が混乱している間にリディアを討ちとれば勝ちだ、という頭があったため、両翼の兵が自分たちの後ろに回り込むのを見てもすぐに退却できなかったのだ。
だが敵兵にはまったく混乱も見られず、自分たちは完全に包囲されてしまった。
「血路を開いて城に戻れ!」
そんな指示が実行できるはずもなく、レオポルト伯爵の兵もどんどん減っていき、こちらも生け捕られた。
城に残ったわずかな兵に抵抗する力はなく、グレイヴェル城はあっけなく陥落した。
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だからと言って何ということもありませんが、これからも頑張っていきます。




