八話:右目
「あらあら!!ココちゃんは本当に器用なのね!動物のお手手だと難しいんじゃないかって思ってたの!こんなに綺麗にできるなんて!」
「アナタ凄いわっ・・・!!凄すぎるわ!!」
イッセイの家の台所で、二人と一匹が楽しそうに料理をしている。
ココの目の前にあるお皿には、綺麗に巻かれた卵焼きが湯気を上げている。
「おいひいっ!!私と同じくらいねっ・・・!アナタやるわね!!・・・こんだけ出来るならペンも持てたんだしきっと字も絵も描けるわね・・・ココ!!こっちにいらっしゃい!お勉強しましょう!!」
「するデスーー!」
卵焼きを作り終えたココをリリが呼んで、テーブルでリリの文房具を取り出し遊び始めた。
「本当に美味しい卵焼きね!キキちゃんがとっても喜んでくれるに違いないわぁー!」
リリとココが楽しそうにしてる奥には窓。窓の上半分の奥に見えるは春の景色。
桜も咲き、気候はとても過ごしやすい。とは言っても、窓を開ける事など出来ないため、年中空調機の風にしか当たれない。季節感を感じるのは窓から見た光景のみである。しかし、場所にもよるが、窓の下は水しか見えない。
おばあちゃんこと、『ハナヨ』は思い出す。自分がこの世界に来る前の・・・生まれた世界。外で楽しく遊び、季節・・・四季を楽しんだ若かりし頃。元の世界も少しは恋しいが、ココには夫も子供も孫もいる。この世界でどうにか前の世界のように外で、風に当たりながら桜の花を見ることは出来ないだろうか。
叶わぬだろう夢を想像していたら思いの外時間が経っていたようで、家族が帰ってきた。
「ぷわぁぁあああーーー!!参った参った!!」
「ばあちゃん、ただいま」
「疲れたぁーー!!ココー!おばあちゃーん!ただいまぁー!!」
「あら!お帰りなさい!美味しい卵焼きが出来てますよー」
「キキ様!おかえりなさいデス!ココが卵焼き作ったデス!」
「キャァーーーーー!これがっ・・!頂きまー」
「ダメよ、まずは手を洗いなさい!」
「・・・こわぁー!アナタ今日も来てたのね・・・」
リリがキキに手厳しく言った。
「絵デスか?」
「そうよ!クレヨンとか、色鉛筆とか!今日はないけど絵の具っていうのもあるのよ。筆で描くんだけど・・・まぁ絵の具は準備も片付けも大変だし水が溢れると大惨事だから別にやらなくても良いわね。クレヨンか色鉛筆で描きましょう?こう描くのよ・・・」
「可愛いデスーーー!!」
「アナタの方が可愛いのよっ!!くぅっ!!!」
「ココはキキ様に描くですー!」
「好きなだけ描いて頂戴」
リリとココが絵描きをしており、おばあちゃんは食事の片付けをしている。
イッセイとおじいちゃんとキキは、見てきた巨大機械について討論を始める。
「まず、異世界から来た機械だって言う事は確定。あとは、なぜこのタイミングだったかと言う事」
「私・・・が原因の可能性は絶対的に捨てきれないわぁー本当ごめんなさいね。でも、来ないわけにはいかなかったし・・・まぁまだ実害がないからあれが敵になるか、もしかしたら味方に・・・はならないわよね。だって先方だって核が欲しいんでしょうから。核目的以外にこの世界に来る理由なんて無いに等しいわ」
「分解しちまえば動きたくても動けねぇんでねぇか?もちろん、娘と違う魔法を使える可能性はいくらでもあるが、とりあえず分解しちまえば動かしづらいんじゃねぇか?」
「え、おじいちゃん巨大機会に近づけるの?!取り込まれたらどうするの?!」
「全部くっちばっておいて、分解すりゃなんとかなるんじゃねぇか?あのまま置いておく方が恐ろしかんべ?!」
いつ動くかわからないものなら、動けない状態にしてしまえば良い。それが、拘束だけではなくて物理的分解をすれば本来の力の最大値を格段に発揮できなくさせることができるだろうと踏んでの言葉だった。
「・・・近寄っても安全な状態かぁ・・・。キキが遠くから魔法で巨大機械を拘束しておくことは?」
「そうね・・・できなくはないと思うけど・・・相手が遠隔で操作し始めたり、あの機械が自分で動き出したりしたら、先方の物理的な力の最大値がわからないからなんとも言えないわ。世界が違えば発展の度合いも違う。あんな形して力は全然無い可能性だってあるし。逆に想像以上の力を持ってる可能性だって捨てきれないわ。どれほどの力が出るかまではわからなかったから・・・」
「でも、試す価値はあるじゃろ。あのまま完成形を放置しておいても良いことは一個もないじゃろ。よし、分解するぞ。あとで最上に連絡する」
「俺も、完全分解はできなくても、二分割、三分割くらいにしておくだけでも意味はあると思う」
「わかったわ。とりあえず異世界のものであることは確定だし、それって私の敵だし、核はなんとしても・・・
何がったって私が絶対に頂くから協力するわ」
「よっしゃ、じゃぁそうと決まったら・・・!!」
おじいちゃんが勢いよく椅子から立ち上がった。それを見たキキも続いて立ち上がる。話が決まったら即行動なのか、このおじいちゃんは行動力があるとキキが関心した瞬間だった。
「ばーさーん!!餡蜜お願いするぞーー!!」
「はぁーい、もう出来ますよぅー!」
「そこはもう『出発』って言う所でしょ?!?!」
「随分躍起になってるのね。アナタのご主人様。選ばれし存在だかなんだか知らないけど、放っておいて自分の好きに生きれば良いのに。ママがしょっちゅう言ってるわ、『女の人はね、難しい事なんて考えないで、好きな人に大切にされて好きな事しながら生きれれば良いの』って」
卓に運ばれてくる餡蜜に大人たちが騒いでいる光景を見てリリが言った。キキが核を『私が絶対に頂くから』と言った時の顔を遠くから見ていた。あのような覚悟を決めた顔は、女性がするような顔ではないとリリは思った。
「・・・キキ様、ずっと大変だったデス。異世界にくることの出来る適性を持った人・・・『適性持ち』はずっと男の人だったみたいデス!キキ様、女の人だから、生まれた時からずっと残念がられて生きてきたデス!」
「・・・何それ。好きで女に生まれたわけでも、好きで『適性持ち』っていうのに生まれたわけでもないのに?そっちの世界は自分で性別選んで生まれてくるわけ?違うでしょ?何その周りの価値観」
「そういう世界なんデス」
「気に食わないわね。そもそもずっと男だったけど核を持って帰れた人はいないんでしょ?だから次は女にしたんじゃなくて?」
「リリさんは、話がわかる方デス!!」
「当然でしょっ!!」
・・・ーーー
「今度こそっ!ココもっ!!行くっ!!デスっ!!!」
「駄目よ!!!」
「じゃぁ取り込んでくださいデス!!」
「じゃあくる意味ないじゃない」
「キキ様がいじめるですぅー!!!」
ココが涙目で威嚇をするかのように”っシャーー!!”と見えるような体制でキキに頼み込んでいた。断られたココはリリの元へ行く。
「雑種の猫って言えば良いんじゃないの?私が連れて行って扉の近くで一緒に居るわ。それでも?」
「それは許可できません。最上さんはあの場に絶対にリリさんを近づけたくないでしょう。それなのにもし俺たちが近くまで連れて行こうものなら・・・」
「ワシら無条件でこれじゃよ、これ」
おじいちゃんが両手首を胸の前で合わせて”手錠された”ポーズを取った。
「私が勝手についてきたって言えば良いじゃない?今日もこの家に来てる事は知ってるんだし」
「リリさん。お願いです」
「嫌よ。行くわ」
「・・・はぁ・・・。では、事前に最上さんに確認をしますね。近くは無理でもどこまで大丈夫かも聞いておきますから」
「孫っ!!甘やかすな!危険に巻き込んだらまずいじゃろうに!小娘も狐と一緒がいいならこの家でもいいじゃろ?!」
「いいでしょ!?なんで駄目なのよ?!」
「あら!リリちゃんそういえばそのお洋服・・・!」
言い争いを止めるかの如く、おばあちゃんがのほほんと入ってきた。
「そうよ!前の世界の洋服よ!たまたま着てきたの!最近着てなかったから!」
「身長が伸びるとイメージが変わるわねぇ!長かったスカートが膝丈になって、これもまた可愛いわ!」
「そうでしょ?!」
最上に電話を掛けに行こうと歩き出したイッセイ。そして世界の洋服を久々に着て褒められて嬉しくてその場で一周回ったリリ。リリの広げた両手がイッセイにぶつかってイッセイがよろけてしまった。
「っつー!!」
「ごめんなさい!」
「あっ・・いえ、俺こそすみません」
そう言って再び歩きながら最上への電話を掛けた。
「変ね、あれだけ近いなら見えたはずなのに」
リリが疑問に思う。普段イッセイと一緒に居てあまりない出来事だった。
「・・・そういえばこの前イッセイについてなんかおじいちゃん言おうとしてたわよね?」
「あ!そうじゃ話が途中になっちまったもんじゃからな!そうなんじゃよ。ふとした時にワシらも思い出すんじゃ。あいついつも飄々としてて、問題ない風に見えるからな。でも時折こうなるんじゃ。まぁしゃーないわな。
右目がほとんど見えてないんじゃから」