七話:分析
「小娘は置いてきて正解じゃったが、なんかの時のために狐は連れてきた方が良かったんでねぇか?!」
「精従は、実態がないようでちゃんと存在してるの。つまり、体の構造が違ってもちゃんと生き物よ?私たちと一緒。汚染された空気は吸わせられないわ。ペットはそもそも外に出すことがないんでしょ?だったら、ココが付けられるマスクもないんじゃない?」
「まぁ、無いっちゃ無いが・・・・・作れないことも無い」
「でも、今日の今は無理だろうし、そんな時間がこの後取れるとも限らないじゃない?良いのよこれで」
「ワシは天才だから!すぐ作れますけどっ!」
「じゃぁ今晩にでも作っておいてくださいなっ!」
地下通路から階段を登り、何枚もの扉を通って、最後に外へ繋がる廊下を歩きながらおじいちゃんとキキが話しをしている。
外につながる扉の前には機関の人間が立っている。門番だ。イッセイが門番に話しかける。
「最上さんから呼ばれてます」
「あぁ、発明家のところの・・・どうぞ」
いわゆる顔パスである。そう言って門番は扉についている電子機器の文字盤にパスワードを打ち込んだ。
キュイーーーーーー
ヴヴヴヴンーーーー
見た目からも十分伝わる大きく、分厚く、重そうな扉が動き始めた。
「さぁ、キキ。マスクを着けて」
「はーい。で、どのボタンを押すの?」
キキが装着したゴーグルとマスクをイッセイが手直しして、耳の近くにあるいくつかのボタンの内の一つを押した。すると、モーターが回り始めて空気が循環し始める。布と思われるダボダボした部分は、中にあるプラスチックの方に合わせて空気が一度抜けて張り付く。マスク内は常に濾過された綺麗な空気が入り、そして、喋れるように口を動かすスペースも確保されている。
「これ、水の中でも使えそうね!」
「ボンベ繋げればな」
「でも、空気は生暖かいからちょっと気持ち悪いわね」
「空調機までつけたら結構重かったから辞めたんじゃ!欲しいなら次の時貸してやるわい!重いけどな!!」
おしゃべりをしている二人を置いて、イッセイが先に進む。目的の巨大機械の見える方へと進み、近くに最上を見つけて駆け寄っていく。
「最上さん。お待たせしました」
「・・・先日の彼女か」
「はい、多分何かしらお役に立てますので、・・・お願いしますね」
「約束が守れている内はな。・・・総員!!地下通路二番扉に集合。次に声を掛けるまで一度休憩だ!!」
キキを機関に売らない取引だ。
他の隊員を下げてキキの魔法を悟られないようにする。
「本当ね・・・超可愛くないっ!!・・・・・じゃぁ!!行くわよぉ!!」
ヴォオオンーーーーー
巨大機械に近寄ったキキの足元から魔法陣が光った。そして、機体に触れた。もちろん手袋を装着している。何の素材かわからないから念の為だ。
「・・・異世界からね。夜中に来たみたい・・・・・記録媒体はあるけど見るのには別の魔法を使うから少し待って。この機械・・・自分の意志が持てるみたい、でも、ここに来るまでは操縦されてたわ・・・。遠隔かしら、もっと深く・・・・」
どこを見ているのかわからないが、瞼は開いており、しっかりと分析を始める。キキの瞳も、魔法陣と同じ色に発光している。
「・・・じいちゃんこの年にして魔法を初めて見たわい。何も起きとらんけど娘メッチャ光っとる。意味わからん」
「そんなの俺もだよ」
二人が魔法を使う光景に圧倒されている。しかし、イッセイはメモを取り出しキキの言うことを書き出した。
「表面、ボディは素手で触っても問題なし。かなり硬化素材。虫みたいに関節が多くあるから多彩な動きができるわ・・・内部は配線だらけね・・・それで内部のコアの部分だけど空洞があって・・・
・・・人が居た?形跡がある・・!!」
「脱出したって事か?!」
イッセイが驚いた。
「待って!ちゃんと見るから!!」
言って、キキの瞳と魔法陣の発光度合いが増した。少しばかり風も起きている。
「もし人が乗っておったとして、脱出してたとしても外から通路には入れんだろう?厳重警備じゃからな?」
「だからだよ、マスクもつけずにうろうろなんて出来るわけない!」
「じゃぁ見つかってないとおかしくないけ?」
「キキとは違う魔法が使えたとしたら簡単にこの汚染された空間でも生きていけるだろう・・・」
「そんなヤツおったらじいちゃんもうこの話から降りるわい」
「そんな事はさせないぞ」
後ろに居た最上がおじいちゃんの離脱を止める。
「お前さん!居たんか?!娘が魔法使った時点でもっと驚けぇえい!!」
「十分驚いている」
「表情筋鍛えた方が良いぞ、禿げるぞ!!」
「既に禿げている方に言われても・・・」
「ワシは剃ってるんじゃ!!!」
「イッセイ!!!」
おじいちゃんと最上のいつものやりとりにキキが突然声を上げてイッセイの方を振り返った。
マスクをしてるので顔色は見えないが、何となく悪そうだと勘づいたイッセイがキキに近寄り始めた。
「近寄らない方が良い!みんなも離れて!!」
「キキ?!どうした?!」
「今はこの巨大機機械の電源的な起動反応や生命反応はないけど、いつ動くかわからない!!それに・・・!!
操縦席にいた”人間”が、機械に飲み込まれた形跡がある!!!」
・・・ーーー
「操縦席への取り込みは物理的に”乗り込む”形だけだろうから、転移みたいにいきなりされる可能性は極めて低いとは思う。だから、近づかなければとりあえずは大丈夫。でも、バッテリーみたいなのはあるし空ではなかったから、いつ動き出すかわからない。あとは遠隔の可能性が捨てきれなかった」
「異世界から遠隔できるもんなのか?」
「出来ない確証がないわ。流石の私も出来ないけど。でも、条件付きで発動するように設定してたりとかはするかも知れないし・・・」
一旦、地下通路に戻り、最上を目の前にしてキキが分析結果を話し始めた。
「条件付きで発動か・・・リリの時と同じだな。もしや、同じ世界の機械だろうか・・・?」
昨年、自分の娘のリリが異世界からこの世界に来た時につけていたイヤリング型の時限爆弾の事を思い出して最上が口にした。発動条件は、『リリが、自分の本当の生まれがこの世界、《無狐》の世界の生まれだと認識した際に時限爆弾が作動する条件付きの魔法だった。
「条件が整うだけがキッカケとは限らないわ。本来なら異世界からでも平気で遠隔や作動するとして、”たまたまこの世界の何かが妨害してくれているだけ”だったりするかも知れない。元々の設定してた時限式でその時間になってないだけかも知れないし・・・それに、操縦席の素材は何で出来てるのか一切わからなかったわ!とにかく、私のいる世界でも見た事ない感じだったし。でもそれが操縦席にいたであろう人間を飲み込んだのは間違いないわ!隊服みたいのだけが残ってたから!」
「人間を飲み込む機械なんてオッソロしいわ!!なんじゃ?!人間が最終的な緊急時用の燃料って事か?!」
「・・・あり得る」
「それまでしてもこの機械を残したい理由って何なのかしらね」
「もしくは、その人間の思考も頂きますしちゃってるんじゃないのけ?!」
「・・・それもあり得る。キキ、他にあるかい?」
「細かい所をもっと見ればあるんだろうけど・・・ここまでわかったらちょっと近づくのも怖いわ。だって魔法使ってる途中に起動されたら困るもの。逃げたり攻撃するにしても、相手があんなデカブツだと使う魔法の威力を大きくしなくちゃいけないから、発動までに時間がかかるし」
キキがお手上げと言った感じで両手を上げて首を左右に振った。
「遠くからで良いなら分析続けるけど、精度は落ちるわよ」
「最上さん。と、いうわけです。結果、俺たちが自分達で分析するよりも遥かに早く的確に重大な情報の結果が出ました。嘘を言う必要性がないのでこれが真実だと思ってもらえると助かります」
「わかった。では、一旦誰も近寄らせないようにする。で、次の段階の件だが・・・」
「まだワシらになんかしろとっ?!?!」