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狐の嫁入り 三部〜波動ノ音〜  作者: 杉崎 朱


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二十八話:内緒 ー最終話ー




 キキは目を覚ました。


 数日だけ世話になった部屋のベッドに寝ている。体は割と重い。寝ぼけているような感じで、記憶が酷く曖昧であった。何があったか思い出す。

 この無狐の世界に来たこと、自分の居た異世界とはまた別の世界からの刺客を分析した事、みんなと協力して倒した事。でも、魔法や魔力が暴走してしまった事、そして・・・





 ココが自分の意識を取り戻すために、強制的に契約解除をして消えてしまった事。




 見慣れない天井で悲しい想いに飲み込まれそうになった。が、しかし。

 



「イッセイ!!マズイぞ!!あんの娘やりおったわい!!ぺぇええええーーー!!」

「あらあら!すごい事じゃないですか!」

「これが続けばだけど・・・また状況は変わるかも知れないし」

「もう一回やらなければ変わらんじゃろう!?」



 扉の向こうがなんとも騒がしい。感傷に浸るには些か邪魔な音量である。

 キキは気怠そうに起き上がり、扉までゆっくり歩いた。少々ふらつく。しかし、部屋にある日付時計を見る限り、あの騒動が起きてから丸一日は経っていない。


「あの女の暴走の結果がこれって事ね・・・」

「リリちゃん!もしかしたら近いうちにお花見とかピクニックができるかも知れないわね!」

「ピクニック?」

「天気の良い日にお外でお弁当食べるのよ!」

「何それ・・・!!楽しそうっ・・・?!」




 ーーーーガチャッ




 キィイ・・・



「キキっ?!起きたのか?体調は?」

「ちょっとふらつくけど・・・」

「一日近く寝てましたからね!どうぞ、飲み物しっかり飲んでくださいな」



 言って、準備をしていたのか、おばあちゃんが飲み物をキキに差し出した。

 ゆっくりと、少しずつ飲む。甘くて、でもちょっとだけ塩っぱくてバランスの取れた飲み物。キキの世界にもある夏場によく飲まれているものによく似ている。


「娘!!飲んだか?!お前さんやってくれたなぁーー!!!」

 おじいちゃんがモニターを指差しながら大声でキキに言った。


「え?私なんかした?」

「した?なんちゅーかわいいレベルの話じゃないわい!!見てみろい!!」



 言われた通りにモニターを見る。速報が流れている。



『東地区の空気汚染の数値です!この地区でもいよいよ数値が下がり、現在ではもうマスクが不要と言われる数値まで下がりました!念の為、また突然の変異の為に住民は混乱してマスクを外す事はしませんが、外、地下通路ともに信じられない事になりました!!』



 「マスクが不要な・・・数値?」



『こちらは、国の正反対の共和国です。見てください。この国では、もう12時間も大気汚染が確認されておりません。酸素は本当に綺麗で、数値は基準値を下回り、本当に塵一つない状態です。神のご加護だとこの共和国の国民は既にマスクを取り外して生活をしております。地下通路のみならず、シェルターから出て外を歩く人が時間を追うごとに増えております』



「何・・・これ・・・?どういうこと?」


「どういうことも?!お前さんの?!魔法だか魔力の暴走で?!”核”の設定?が変わったって事じゃよ?!設定が変わって空気が綺麗になっちまったぞ!マスク要らないぞどうしてくれんだ売上下がったりじゃこれでマスクなしで外出れるぞこんのぺぇぇえええ!!!」





「・・・えぇぇええええええ?!?!」




「完全に環境の回復とまでは行ってないね。水位とか今の所は変化無いから。でも、大気汚染は解消されたみたい。解消っていうか、大気汚染の設定が変わったって事だよね?まぁ、でも恐らくこれが本来のこの世界の自然に近い状況なんだろうね・・・」

「嘘・・・私・・・」

「嘘じゃないかんな!!変わったかんな!!別に怒っとらんからな!!」

「じゃぁ怒鳴らないで頂戴よ・・・」



 しかし、キキの膨大な魔力の暴走がこの世界の状態を変えた事に間違いはなく、良い方向に変わったのかどうかわからないことに責任感が募る。



「・・・マスク無しで暮らせることは凄く良いことだよ。ばあちゃんもあんなに喜んでるし」

「・・・だと、良いんだけど」

「マスクが売れんから商売上がったりだけどな!」


 とりあえず、暴走してしまい、ココに気を遣わせて存在を消し去ることになってしまった事には変わりなく、キキはこの世界の現状を大きく変えてしまった事と喪失感で心がまだ落ち着かずにフワフワと浮いた感覚だった。

 一旦、出てきた部屋の扉を閉めようして振り返った。



 そこには、なんとなくではあるが何が描かれているかわかる絵があった。



「・・・それ、あの子が描いたのよ」

 リリがキキに話しかけた。リリとは、ココが消滅した時にビンタを食らってそれ以来だった。それもそのはず、その後に力尽きて眠りについてしまい、さっき起きたばかりだったのだから。

 何かと口喧嘩みたいな事が多いリリとキキ。年もだいぶ離れているが、リリの精神年齢が部分的に大人なため、突然、面喰らう事を言われる時がある。

 自分の精従とは言え、リリの気に入っていたココを消滅させてしまい、住まう世界の環境も変えてしまった。イッセイは先ほどキキには「良い事だ」と言っていたが、他の人がどう思うかはわからない。何か言われると身構えた。



「大事にしなさい。あの子が描いたアナタの絵とメッセージよ。主人(あるじ)であるアナタに本来はあげるべきなんでしょうけど、あげないから。ずっとこの家で大事にされる絵になるんだから」

「勝手に決めるでない、この家は小娘の家じゃないぞ」

「こんだけ豪華な額縁用意しておいて茶化さないのっ!!」

「わしゃただのツンデレなだけじゃっ!!!」



 豪華な額縁に入れられた絵を見た。

 子供が描いたような絵にそっくりである。しかし、小動物のような生き物が、人間と造りの違う手でそれを描いたのである。五匹の精霊従者と一人の人間。自分達である。


「大好きって・・・!書いてある・・・っ」


 リリに教えてもらったであろう言葉をココが自分で書いたのだ。


「ココちゃん、リリちゃんに教えて貰って一生懸命書いたのよ!」

 おばあちゃんがキキに近寄り、教えてあげた。


 自分の世界で一番魔力があって、一番強くても、大事な精従を助けることができなかった。

 あろうことか、精従に助けて貰った。

 精従から契約解除をさせてしまった。

 キキの瞳から涙が溢れ出した。




 「ごめんなさいっーーー!!」



 感情のコントロールが出来ず、喉が締まり、金切り声に近い音でキキが言った。


「謝ることなんてないのよ」

 そうおばあちゃんが、キキの背中を撫でながら言った。









 気が済むまで泣いて一息ついた。

 気持ちを切り替えてキキが声をあげた。



「よしっ!もう大丈夫っ!!」


 涙はもう出ていないが目は赤く、少しだけ瞼が腫れている。


「元気でな。達者で暮らせ。なんなら帰りは次元移動装置使っても良いぞ」

「・・・何言ってるの?帰らないわよ?」

「はぁ?一悶着も二悶着もあって精従まで消えたんにまだ懲りないんかいっ?!」

「え?だって、懲りるも何も私は核を自分の世界に持ち帰ることが使命なんだからまだ帰らないわよ?」


 キョトンとしてキキはおじいちゃんに向かってなんとも無い風に言った。


「あの狐がおらんかったらお前さんが次に暴走したら誰が止めるんじゃい!別の狐が来るんかっ?!」

「別にあの方法じゃなくなたって他に方法あるでしょ!?なんだかわからないけど!?」

「近寄るのだって大変じゃったんだぞ!!大変っちゅーか別にワシは近寄ってもおらんがなんかブワっ!!として大変そうじゃった!魔法怖い!お前さん危険物じゃ!!」

「っな!!ちょっとっ?!大丈夫よ!!・・・多分!!」

「メイビーは受付とらんわーーーい!!!」


「もしっ!!!!!」



 キキとおじいちゃんの会話にリリが大声で入っていった。

 イッセイはリリの隣に座りながら彼女の顔を眺めた。いつもと顔つきが違う。キキをなんとなく最初からただの厄介者みたいに見ていたリリの顔が少しだけ違って見えた気がした。



「もしっ!!・・・また、あんな暴走するなら。あの子の代わりに私が目一杯・・・あの時よりももっと思いっきり顔引っ叩いて目を覚ましてやるんだから!!本当に思いっ切りだからっ!!!」



「・・・・・だって。じゃぁ良いわよね?」

 リリの言葉にキキが一瞬面食らった。しかし、すぐにおじいちゃんの方を見て、暴走を止める人がいるんだから良いでしょ?とばかりのにっこり顔で言った。


「小娘は顔引っ叩きたいだけだんべ?」

「それでも良いでしょ?ストッパーになってくれるんだって本人が言ってるんだから」

「お前さん達二人ともだいぶ変わっとるなぁー。まぁ当人が良いならわしゃ構わんがな」


 おじいちゃんが納得いかないが別に良いかと考えるのを辞めた。


「貴方の事はどうでも良いのよ。顔引っ叩きたい位だから。あの子が自分の存在を懸けてまで貴方を守ったの。あの子の想いを絶対無駄にさせないわ」

「そりゃどーも!」



 相変わらず喧嘩口調ではあるが、ココを通して何かが生まれた。決して二人の間に絆や信頼などというものが生まれたわけではない。それぞれが、ココの存在に対して思いを馳せているだけだ。気持ちは交わってなどいない。そんな二人を見て、イッセイは面白く思い少しだけ笑った。








・・・ーーー





 晴れた空の下、マスクを着けずに外に出ているイッセイ。

 デカブツの現れた場所や、デカブツの残骸の回収を行っている機関の元へ出向いた。


「イッセイ君。今回もお疲れ様でした」

「・・・なんというか、去年の火傷に続いて・・・神風さんて怪我多いですよね」


 早々に復帰して車椅子で仕事をしている神風にイッセイは眉間に皺を寄せて言った。本当に可哀想だと思っている顔である。


「まぁ、元々魔法だなんだを相手にしているから、逆にこれ位の怪我で済むなら良かったって思ってますよ。きっと、頂いた御守りのお陰かな?」

 そう言って、持っていた勾玉を見せてくれた。


「御守りが効いたなら良かったです」

 言って、イッセイは自分のポケットに手を入れ、中にある球の存在を確認した。勾玉に撥ね返されたココの球である。撥ね返されたことに何か意味があるのだと思い、ココを復元できないかと考えているのだ。もちろんキキには内緒である。



「あ、そうだ。そういえば凄かったですね」

「何がです?」


 突然神風が思い出したようにイッセイに明るく話しかけた。



「最後、磁場砲でデカブツを打つ前の事です。右目の視力がいいんですね。スコープ無しでしたよね?ずっと同じところ打ち続けないとタイヤは外れなかったでしょうから・・・」


「あぁ・・・。すみません。その件に関しては・・・


 右目に関しては内緒でお願いしますね」







 狐の嫁入り 三部 〜波動の音〜 完

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