十七話:使命
「孫!!行けるか?!」
唐揚げを頬張りながらおじいちゃんがイッセイに言った。
「多分大丈夫だと思う。でも、キキの魔法が瞬時に使えなくなるのはリスクだなぁ・・・」
「磁場の影響を受けない魔法があれば良いんだけど」
「魔法なのか身体なのか磁場がどっちに作用してるのかも分析しない事にはだからなぁ・・・」
「ちょっと魔法使えるか試してくるっ!」
おじいちゃんは残りのマスクのフィルター交換と掃除を行い、イッセイはキキの小型磁場妨害機に追加で設定をしている。キキは人と少し距離を取り、魔法が本当に使えないのか、また使える魔法はないのかを試し出した。
「結局イッセイは何してるの?」
この場で全員よりほんの少しだけ状況が飲み込めてないリリが、現在イッセイがパソコンで何をしているのかを隣に腰掛けて質問した。
「街灯スキャンから出ている磁場と同じ磁場をこの小型磁場妨害機から出すんです」
「そうしたら彼女、もう魔法が使えないじゃない?」
「そうなんですけど、巨大機械が工場に行くまでに、一瞬でも磁場の影響を受けない時間があれば、魔法で遠隔操作されてまた動き出してしまいます。そのため、絶対的に巨大機械に魔法封じの磁場を隙間も絶え間もなく浴びせ続けなければいけないんです」
「だから、その小型機から同じ磁場を発せられるようにしようってこと?え?イッセイそんな大変なことこの短時間でやろうとしてるの!アナタおかしいんじゃないの?!」
「大丈夫じゃ!天才発明家のただの”孫”じゃから!!」
「それじゃ本当にただの孫じゃない・・・」
「・・・ダメね」
「ココも、キキ様が魔法を使えないと何もできないデスぅ・・・」
人がいない場所に向かい、魔法が出せるか試しているキキ。一切魔法が出ない。感覚的に言うと、マッチを着火させる時に、箱の側面のヤスリにしっかりと擦り付けているのに着火しない感覚だ。しっかりと擦っている。素早く擦っている。角度も勢いも問題ないのに何故か火がつかない。マッチ自体が水に濡れたわけでもない。
「絶対に間違っちゃいないはずなのに腹立つわねーーーーー?!?!」
自分の両手を見ながらキキがイライラし始めた。
「キキ様!手を発動元や魔法の発信源にする魔法ではなくて、頭の中で魔法式を組み立てる魔法はどうデスか?!」
「なるほど!!・・・・・ダメっぽい」
「あちゃーデスっ!」
「こりゃあの巨大機械・・・なんかメカって沢山あるからもう『デカブツ』って呼ぶわ!あのデカブツどうにかしないと核探しどころじゃないわ!!一刻も早くデカブツをどうにかしないと・・・!」
「でも、デカブツ退治してすぐに核が見つけて触ったら、アナタすぐに自分の世界に戻るんでしょ?時雨はどうするのよ?」
「っへぇええっ?!?」
リリがいつの間にかキキの近くに寄ってきて質問をした。
「あのねリリちゃん!今はそんな事考えてる場合じゃないってさっき皆から冷たい視線を浴びせられた所で・・・!」
「そりゃそうよ。でも、デカブツの狙いがアナタの持ってるその核に関するものとアナタ自身なら・・・もし起動した場合には核を目指す可能性があるんでしょ?人間だけじゃなくて、触った瞬間に異世界移動するのが機械も同じなら、取られるわけには行かない訳で、デカブツと核を完全に切り離して話しを進行できる確証はないんじゃない?」
「じゃぁ・・・どうしろと・・・」
「そう言う事態が発生する可能性があるかもって事よ。自分が考えてるタイミングで物事は進まない事だってあるってこと」
自身が、ただの移動中だと思っていた最中に異世界に飛ばされたリリだ。今となってはこの世界が自分の生まれた本当の世界だし、両親も優しい。歳は離れてしまったが双子の妹も可愛い。そして、イッセイの家族に良くしてもらって、間も無く初めての学校に通うこともできる。でもそれは今だからだ。移動してきたその時は、意味もわからなければ時雨には追いかけられるし撃たれるし、なんなら用済みと自分には爆弾が仕掛けられていたし、生活面では昆布茶を好きになれなかった。
「突然、意図しない方向に物事が変わってしまうって事よ。元の場所に帰るって言うのは、遠距離とかいうレベルじゃないんだから」
自分よりもはるかに年下の女の子のはずなのに、キキはリリからとんでもない重さの覚悟を突きつけられた気がした。確かに、この世界に来るための通路である鏡は割れてしまった。イッセイが修復してくれているが、魔法式までちゃんと治るかはわからない。もしかしたら核を触って自分の世界に戻ったらもう二度とこの世界には来れないかもしれない。じゃぁ触るのを待てば?その一瞬の気の迷いで核をデカブツに取られてしまったら?そんな事あってはいけないとキキは考えた。
「私は核を持ち帰ることを使命とする姫巫女です。何があっても核を優先します」
「アンタ本っっ当にわからず屋ね?!」
「なんで私怒られてる?!」
「キキ。リリさんは、使命とは別にちゃんと自分の気持ちを自分で認識するようにって言ってるんだ。姫巫女としての使命はわかったけど、キキという一人の女性としての幸せを願ってはいけない。なんてことは無いんだってリリさんは言ってるんだよ」
「願ってはいけないんです。核が命よりも大事なんです!」
「堅物だなぁ・・・」
「堅物とデカブツの戦いね」
「面白くまとめないでっ!!!」
「よし。1時間半で準備完了。上出来じゃわいっ!!」
小型の磁場妨害装置も設定を変更した。全員のマスクのフィルターも綺麗になった。工場への道も確保、そして工場を爆破しても問題ない状態にもした。あとはデカブツを物理的に運び込むだけである。
「娘の命名により、巨大機械が『デカブツ』となった・・・!それならワシの重機の名前も教えよう・・・
そう!!蜘蛛のような重機・・・!蜘蛛と言えど愛らしさのある蜘蛛・・!それはハエトリグモ!別名『アダンソンハエトリ』と呼ばれぴょんぴょんと飛ぶその姿が人気を呼びその効果音を名前に組み込み」
「つまり『ぴょんきち』って事」
「イッセイ!!一番美味しいところをワシに言わせないなんてっ!!」
「説明が長いのよ」
「デカブツが動かない間なら、ぴょんきちで対応が出来る。キキの魔法が切れる前にぴょんきちで工場に運ぼう。操縦はじいちゃんが、俺は近くで磁場妨害機をずっと持ってる。なので、最上さんや神風さんは十分に距離をあけて後ろから着いて来てください」
「承知した」
「了解です」
「レッツラゴーじゃぁー!!!」
おじいちゃんの掛け声と共に移動が始まった。ぴょんきちの操縦席に座るおじいちゃん。そして、席はないがぴょんきちに乗っているキキとココ。
イッセイは後ろをバイクで追いかける。磁場妨害機の範囲は1kmに設定。今できる目一杯の対策だ。
ぴょんきちの乗り心地は全く良くない。イッセイのバイクの方が全然良い。しかし、念の為でキキはデカブツに一番近い所・・・ぴょんきちに同乗している。イッセイが小型磁場妨害機を持っている。そして、道中にもしデカブツが起動するような事があったらイッセイが設定を切り替えて魔法が使える方の磁場を広範囲で発生させる。そして、
キキが対応できるようにというこの配置だ。
しかし、それはデカブツ側も同じだ。デカブツ側も遠隔操作が可能になるが、それでもこの方法を選んだのである。
つまり、何かしらの原因でデカブツが動いた場合、全て自分の魔法に掛かっているのだ。とキキは感じていた。
「娘!」
「はいはい?」
「気を負い過ぎるなよ。ワシらがお前さんに頼りすぎてるだけだからな。何かあったら最終的には自分の身の事だけを考えるんじゃ」
「・・・ここにきて初めて年配者みたいな真面目な事を・・・」
「結構言ってたぞいっ?!まぁ、明るく楽しくがモットーじゃからな。でも、その明るく楽しくを続けるには、時にはシビアな事を言わなきゃならん。見とらんからよーわからんけど、その『魔法の暴走』みたいな事が起きんように気を付ける事じゃな」
「あぁ!それは核探しの魔法に関してねっ!デカブツの取り押さえとかは」
「お前さんを追ってきた可能性が1%でもある以上、油断はするな。99%違って,1%だけお前さんと核を狙ってるだとしても、1/2じゃ。世の中わからん事だらけじゃからな。今がそうじゃ」
異世界人を数回見てきたおじいちゃん。もしかしたらこれが数年おきにあるかもな・・・くらいの気持ちだったのが、今度はまさか世界の事情を知るものや意図的に自ら異世界にやってくる者が出てきた。
人生とはわからないものだらけである。数字や確率など、説明がつかないことは商売敵な所がある発明家だが、やはりわからないもの、信じられないことが起こる事を身をもって体験したからこその言葉である。
「・・・1/2でも1%でしょ?」
「カッコよく決めた所を掘り返すなっ!!」




