十四話:勾玉
午前5時
前日、おばあちゃんの角煮を食べた大勢は全員同じ家に寝泊まりした。
「あら!太郎さん早いのね!おはようございます」
神風が朝早く起きてリビングに行くと、すでにおばあちゃんはご飯を作っていた。早くないだろうか。とは言ったものの、巨大機械を見に行く為確かに5時半に集合だとは言ったのは自分だと神風は思い出す。しかし、朝ごはんを食べてから行くつもりなのだろうか・・・?疑問は尽きない。
「・・・おはようございます。他の方はまだ起きてないですよね?」
「イッセイだけが起きてますよ!リリちゃんはぐっすりでしたよ!キキちゃんもまだ起きてないみたいだから!」
「そっ・・うですか・・」
「太郎さん、知ってるかも知れないですけど、私も異世界人なんです」
「・・・はい?」
朝、5時は真っ暗ではなく少し明るい。しかし、家の中まで明るいわけではなく、キッチンの一部の電気しか点灯していない家の中は絵に描いた静寂だ。そこでおばあちゃんが突然神風に自分の事を話し始めた。
「全部の世界の人間が同じ構造かどうかはわからないんですけど、私はおじいさんと結婚をして子供を授かることができました。それに、あんなに可愛い孫もいます。みんな元気ですよ。キキちゃんの気持ちももちろん大事ですが、”一緒になる事が許されない人”なんていないんだって知っておいて欲しくて」
「それは・・・どういう・・・?!」
「キキちゃんは自分の世界のお姫様みたいな存在だし、皆んなが帰りを待ってくれてる人。太郎さんも、この世界にいて、この世界に来た異世界人を扱う・・・取り締まらなくちゃいけない側だけど、別に結ばれちゃいけない理由なんてないのよっ!だから、普段は全然喋れなかったり、立場的に本心と違うこと言ってもいいけど・・・ここぞという時は素直にならなくちゃダメよ!」
とてもニコニコとしながら言った。
「・・・?!なぜ!?今そのような話しをっ!?そして別に私はそのような思考は特にっ・・!!」
「そうそう、それでいいのよ、普段は!でも、本当にその”時”が来た時は、ちゃんと自分の心の声を聞いてくださいな!」
「・・・」
神風は、この夫人には、自分の心を読まれているような感覚がした。それも、今の自分ではなく『先の自分』への言葉だ。世界が違うもの同士が幸せに暮らす事ができると諭してくれたのだ。人生経験がそう言わせたのか、それとも単に鋭いのか、特殊能力なのか・・・そんなことを考えていた時だった。
「あらイッセイ!お母さんのお部屋にいたの?」
「うん、あ。神風さんおはようございます」
「おはようございます」
イッセイが現れた。手には何かいろんなものを持っている。
「懐かしいわね、そのお守り!」
「なんとなくだけど、借りていこうと思って」
「イッセイのお母さんは神社の生まれの巫女さんだったんですよ!神風さんにもおひとつお渡ししては?」
「そうだね。これ、どうぞ」
そう言って、勾玉のお守りを手渡した。
「お守り・・ですか」
「機関の方からしたら邪魔かもしれませんが」
「いえ、お心遣いありがとうございます。でも、本当に頂いていいのですか?」
普段の無知な異世界人騒動と違って、今回は内情を知る人物だ。そして、初めて人間以外が異世界からやってきた。緊張や恐怖ももちろんある。前代未聞なこの状況に、何か心の拠り所が欲しかったイッセイ。自分の母が保管していた勾玉を大量に借りる事にした。
「欲しいと思った時に持って行きなさいと母から言われてます。だから、良いんですよ」
「ありがたく頂戴いたします」
「リリちゃん今は自分でやってるの?毎朝大変ねぇ〜!」
「慣れれば大したことないんだけど・・・それでも伸びたわね・・・そろそろ切ろうかしら」
鏡の前でリリが身支度を整える。とても長い髪の毛をいつものツインテールにしている。その慣れた手つきにおばあちゃんは関心した。去年この世界に来た時にはおばあちゃんが結ってあげたのを思い出して言った。
「本当、長いわねぇー、洗うの大変じゃないの?」
「アナタも私と大して長さ変わらないでしょ?」
起き抜けで髪の毛を下ろしたままのキキもやってきた。
「リリちゃんの方がちょっと長そうだけど・・・これ筆作ったら何本分つくれるのかしら?」
「試すなら自分の髪の毛にして頂戴。・・・学校にも通うし、髪型変えようかしら・・・」
「まとめ方変えれば?!まぁ切ってみるのも・・」
「キキ!そろそろ出かけるけど準備はできた?」
「え”っ?!もうっ?!」
イッセイの現実に引き戻す声に、女性陣の楽しい会話も虚しく散った。
「よっしゃ!準備は出来たかっ?!」
「はい、出来ましたよ。お弁当どうぞ!」
「ばあさんいつもすまんな!そんで唐揚げは」
「入ってますよ!」
おじいちゃんの号令に、これから外に行く者は気を引き締めた。
神風はスーツの襟を正し、ジャケットの上から拳銃の在処を再確認。
リリも髪の毛を整え、元いた世界の服を着ている。使い物にならない確率の方が圧倒的に高いが、以前の世界の機器も持っている。そして腕にはココを抱えている。
イッセイも作業服・・・ツナギを着て、自信の発明品をいくつか携帯している。
キキは、マスクを首にかけ、念の為にイッセイの作った小型磁場妨害機も持った。
「あ、キキ。キキも・・・神社の生まれだけどまぁいっか。世界違うし。はいこれ、お守りの勾玉」
イッセイがキキにも勾玉を渡した。首から下げるタイプである。
「・・・良いのかしら?私が着けて。力が反発しちゃったり・・・」
「キキちゃんも神社の生まれですから、異世界のお守りも着けてご利益倍増ねっ!」
おばあちゃが嬉しそうに笑うのでキキもつられて笑い、マスクの下に着けた。
「そんじゃ、行くぞぃっ!!」
「行ってらっしゃい!今日の晩御飯はすき焼きにしましょうね!」
「じゃあ今日は行かん!!」
「「すぐ帰ってくるわっ!!」」
「帰り次第お手伝いします」
「食べたいデスっ!!」
「ばあちゃん、よろしくね」
そう言って一向は玄関を出た。
外へと繋がる最後の扉の前に着くと、すでに最上が到着していた。
父親を見つけたリリが駆け寄る。
「パパおはよう!!」
「・・・昨日はどの部屋で誰と寝たんだ?」
「おばあちゃと一緒に寝たわ!!」
「・・・その言葉を信じよう」
「このメンツで何がどう間違うと思ってるのよあの父親」
キキが呆れた。
「防壁も結構な厚さと枚数ねっ!これなら・・・多分大丈夫!」
「多分かーい!!」
キキが昨晩設置された防壁を見て言った。
「爆薬や電磁波の準備もあります。あとはイッセイ君やおじいさんの計算を基に仕掛ける場所を決めて開始しようかと」
「やる時は私の防護魔法も念の為かけて置くわね!」
「あれ?キキ魔法使えるの?」
「ええ!とりあえず今はだけど・・・ほら見て!」
言って、キキは指先から炎を出した。
「確かに・・・」
「なんかイッセイの大学では使えないのよねーあそこなんかオカルト的な場所?」
「そんなことないと思うけどなぁ・・・?あと、オカルトと魔法って相性悪いの?」
「全然関係ない!!」
「よしイッセイ!爆薬と電磁波どっち使うか?!」
「この際両方かな。どっちかが効きが悪かったとしてもどっちかが効けばなんとかなるだろうし」
「賛成ー!!」
「よし・・・」
「こんなもんじゃろう!!」
イッセイとおじいちゃんが機械の手の入る限り中の方まで爆薬や電磁波の発生装置を取り付けた。虫のような構造のため、関節のように見える部分に重点的に仕掛けた。もちろん本体っぽく見える動体のような部分にもたくさん付けた。その、イッセイたちが取り付けを行っている様子を、今日も遠目に見ているリリとココ。
「そういえば、精従は他にも四匹いるのよね?」
「そうデス!ココの他にもトト、ノノ、ロロ、ボボというデス!!」
「名前の付け方安易すぎない?!」
「可愛いって言ってキキ様が付けたデス!」
「なんで全員着いてこなかったの?全員いた方が心強いじゃない?」
リリが最もらしいことを聞いた。異世界にきて見たこともない物質を持ち帰るいわば冒険だ。そんな異世界への旅だ。精従をぜんいん引き連れてくる方が安心だろうと。
「全員来てしまうと、もとも世界でのキキ様の代わりがいなくなってしまうからデス!お水のお清め、祈祷、儀式とか色々、キキ様の代わりを残りの精従がやってるデス!!」
「ココは何が得意だったの?」
「ココは番犬ならぬ番狐デス!見張りデス!!」
「こんな可愛い子が見張り・・・?!」
「よっしゃ!念の為の拘束も出来たわい!!」
甲殻類を縛るかのように、所々バンドのようなもので拘束を施した。
「・・・じゃぁ、始めようか」
イッセイの声で緊張感がこの場を覆った。
機械から離れてはいるものの、一番近くでキキが待機。そして、その近くで神風が起動スイッチを持っている。その後ろでイッセイとおじいちゃんが待機している。
リリとココから離れて最上は神風の近くへと向かった。
「では、皆さん、始めますよ!5・4・3・2・1・・・
爆破!!!!!」
神風がボタンを押したその瞬間だった。
「えっ・・・?」
巨大機械につけた電磁波装置の光が見えたキキ。そしてその光は自分に迫ってきている。
「ちょっと待って・・!嘘っ?!」
そして、キキの腕につけていた小型磁場妨害装置に当たったーーーその瞬間
ーーーーーヴォォォオオオオンーーーーー
音と共に巨大機械の眼のような部分が真っ赤に光り出した。




