十二話:大学
「コソコソしないで自由に歩けるって良いわね!!」
キキが興奮しながら言った。
「この間は端末に仕込んだ小型の磁場妨害機しかなかったからね。結構ヒヤヒヤしたよ」
「全然そんな風には思えない顔だったわ」
「よく言われる」
バイクで二人乗りをして地下通路を通り、大学へと向かった。異世界人を乗せて街頭スキャンを気にしないで走れるのはイッセイもとても気分が良い。気分が良いと言うか安心である。
キキがこの世界に来た時の部屋に来た。この部屋は教授以外立ち入る人が少ない。キキを待機させておくのにちょうど良いだろうとイッセイは考えた。
「この間の鏡でも探しててよ。俺、その間に友達のところに行ってくるから」
「そんなの画像でも撮って説明文貰えば良いのにわざわざ律儀というか真面目というか・・・機械好きなイッセイにしては効率が悪いような気がするけど」
「人間付き合いってそういうものじゃないだろう?友達は便利な道具とは違うんだから。”お姫様”って言われてるキキならわかってくれると思ったけど?」
イッセイの顔が『あれ?わからない?』と上から目線のような気がしてしまったキキはムキになって答えた。キキは元の世界では多くの人と接していた。機械文明も魔法も高度な世界だったが、それと同じくらいに狐神と呼ばれて崇めている神様を信仰している人間が圧倒的に多い。そんな狐神の神社の元に生まれた
キキは多くの人間の悩みを聞くことなど日常茶飯事だ。ただ声を聞くことでなく、「対面」がどれほど大事なものかは目の前の青年よりずっとわかっているつもりだった。
「ぅんなっ?!わかるわよ!!何よそのなんかしたり顔!!むしろ私の方がわかるわよ!!ちゃんと人と対面して顔見てそれで表情からちゃんと感情を読み取って、言ってることと思ってる事が違うことだって魔法なんか使わなくったってわかるくらいには・・・!!」
「じゃ、そういう事だから行ってきます」
「くわーーー!!なんか生意気な!!」
イッセイが部屋から出て行き、キキは自分がこの世界にくる時に使用した鏡を探し始めた。
「確か、凄く古くて、青くて、和風っていうより西洋風だったような気がしたのよね・・・誰かが適当に入り口指定にしちゃったからまさかあんな西洋風だとは大昔につなげた狐神本人もびっくりでしょうね!せめて、もうちょっと和風で木枠の鏡だったらなんか私っぽいのになぁー・・・・ぁあ?
あああぁあぁああああ!!!!!」
「って言うことらしい!つまり、大気汚染と水位上昇には関係があまりないのではないか!っていう論が今出てきてるんだってさ!」
「なるほどね・・・ありがとう。助かったよ」
「気にすんなって!随分急いでたみたいだったもんな!教授、イッセイが講義に出ないだけで随分つまらなさそうだったぞ!講義後にイッセイと話すのが楽しみみたいだったからな!」
「次に会った時に前回分も話すようにしとく」
「そうしてやってくれよ!あのじいちゃん教授と話が合うのはイッセイくらいだからな!」
先日、キキがこの世界に異動してきた日。講義を一つサボったのだ。その時の講義は環境問題。そう、現在の大気汚染や温暖化、そして水位の上昇の話しである。今、級友から聞くに、先日の講義で環境問題の新発見を早速入れてきた。全て、関連性があると言われていたこの環境汚染に関連性がないという新事実。
きっと、その日の講義にイッセイが出席していたら、講義後に教授と大盛り上がりした内容だろう。
しかし、イッセイはその関連性が無い事の真実の可能性の一つをキキから話された。どうやらこの環境問題の根源は全て『核』によるものだと。核がこの世界の均衡を崩している。
核がもし他の世界に渡ったら、環境が大幅に変わるんだろうな。学者は大忙しだ。
「(特に、父さん・・・)」
イッセイの父親は学者である。貴方の息子である自分と、父であるおじいちゃんは、これからもしかしたら信じられないほどのお仕事の邪魔をするかもしれません。心の中でイッセイは父に謝った。
「ありがとう、申し訳ないんだけどこれから用事があってすぐ出るんだ。これお礼」
「イッセイのおばあちゃんの焼き菓子じゃん!!これすげぇ美味いって噂の・・!良いのか?!こっちこそありがとうな!!」
穢れという文字すら知らなさそうな無垢な級友がとても喜んでいる。渡したのは西洋菓子だ。こんなに喜んでもらえたらイッセイの方が嬉しくなる。
「なるべく講義に出るようにするんだけど、ちょっと家の手伝いでもしかしたらまた休むかもしれない。その時はまたお願いしても良いかな?」
「もちろん!」
イッセイは、大学の食堂で持ち運びの出来る軽食やお菓子を買ってキキの元へ向かった。珍しい物を少しでも見せてあげたいという優しさである。両手に飲み物やスイーツを持って倉庫へ戻るとそこには顔を真っ青にして佇んでいるキキがいた。
「キキ?」
「・・・イッセイーーーーー!!!!!」
「これはまた派手に・・・落ちたかな・・・」
「別に私は核に触れば帰れるから・・・良いっちゃ良いけど・・・後世はどうしようかしら・・・」
「魔法で治したりできないのか?もしくは、通路としての機能を他の対象物・・・他の鏡にするとか?」
「いやいや、対象の変更は無理よ無理!私の力は歴代最大の強さだけど、コントロールとかはまた別物よ。しかも、そもそもこの通路としての魔法式を掛けたのは私達人間じゃなくて、大昔の狐神だから!!まさか割れるとか想定外だわー!」
イッセイとキキの目の前には、鏡面が大きく割れ、部分的には粉々になっている例の異世界からの通路になる鏡があった。
「これだけガラクタのように扱われてればなぁ・・・まぁいいや、とりあえず、この状態を教授に見せるよ。そしたら多分もう要らないっていうだろうから持って帰って修復をしてみようか」
「イッセイ様ぁ〜〜〜!!!」
鏡を持って帰ってきたイッセイは鏡を目の前にしてキキに沢山質問をしている。
「修復が不可な理由は?」
「あ!そもそもやっぱりあの部屋では魔法が使えなかったの!今また試してみるわ!!」
ヴヴォォオオオンーーーーー
キキの手から光が出た。その光は鏡全体を覆い尽くすように流れていく。これからもしかしたら治るかもしれない。そう思った矢先だった
パンッーーー!!
光が弾かれたのである。
「えええええーーー!嘘っ!?なんで?!途中までできそうだったのに!!?」
「・・・修復する魔法が効かないようになってるとかじゃなくて?分析魔法かけてみてよ」
「了解!」
巨大機械の時と同じ魔法を使う。
「・・・。・・・・・。・・・?・・・ぬぅ??」
「ダメそうか?見れないか・・・」
「プロテクトっていうより、魔法かけたのが人間じゃないから全く理解ができないわ」
「なら、その魔法式とかっていうのは認識とか視認出来るのか?それを覚えて他の鏡にコピーして対象を変えるとか」
「それこそプロテクトが掛かってるわ・・・魔法式をコピーしようとしてもできないようになってる・・・!狐めぇっ!!」
「普通に考えたら修復できた方が絶対に後の為になるはずなのに・・・どうして修復魔法が効かないようになってるんだ・・・?」
「もしかしてあれじゃない?!ほら!絶対に持って帰れる適性者が通った時にはもう後世に不要だから鏡が壊れるようになってるとか?!だから修復する必要自体ないのよ!!」
「・・・随分ファンタジーな思考だね」
「今すごくバカにしたでしょっ?!?!」
「だとしたら核は一度移動したら二度とこの世界には戻らないって事だよね」
「もしかしたらね!」
呑気に自分に都合の良い憶測・・・というか妄想を繰り広げているとインターホンが鳴った。来客が来た。
「あ、キキ。俺、鏡面の修復にかかるから悪いんだけど来客対応してもらってもいいかな?」
「良いわよ!夕飯時に誰かしらね?リリちゃんかしら?」
そう言って、駆け足で玄関に向かい扉を開けた。
「・・っ!!あの、こんば」
「きゃぁぁああああああーーー!!!!!」
「貴方驚き過ぎなのよっ!!たかが時雨でしょっ?!?!」
扉を開けて目の前にいた神風 時雨を見てキキが絶叫した。




