天使が通る
誕生日当日が来てしまった……。めちゃくちゃ緊張してる。誰だ、少人数とか言ったやつ!!あれは絶対に100人は超えてる。少人数とかてっきり30人未満だと勝手に思い込んでいた……。
「アイリスお嬢様、失礼致します。パーティーの準備をさせていただきます。」
美容担当の使用人達がオーディと共にやってきた。立っているだけでものすごい早業で準備されていく。今、ものすごく漫画世界のお嬢様を体感している気分。 本当のお嬢様だけど。
鏡に映る自分を見る。 顔を初めて見たときはとてつもなく美人なのでは?と思ったけど、お父様達を見ていると調子に乗ってごめんなさい。と謝りたくなった。 一度も短くしていない銀色の髪は、背中あたりまで真っ直ぐに伸びている。 着ているのは白のワンピースドレス。婚約者がいない人は白色を着る決まりがあるらしい。 このドレスは所々にレースがあしらってあり、歩くたびにふわりと揺れるのが可愛い。
「アイリス、準備できた……か?」
お父様が入室したかと思うとこちらを見て停止する。しばらくすると、大きなため息をついた。
「……可愛すぎる……。今日中止にしたくなってきた……。」
「それは駄目ですよ、旦那様。本日はジーニアス公爵様がお見えになっています。」
後ろに控えていたシークがすかさず釘をさす。
「あいつが?くそっ。なんで来るんだよ!内緒にしていたはずだぞ!!」
「天…ゴホン。アイリスお嬢様にお会いになる目的でいらっしゃったようですね。」
「腹黒のあいつのことだ。絶対にそれだけじゃない!憂鬱になってきた……。」
お父様が嘆いている間に準備が終わった。髪の毛はハーフアップにしており髪には大きな白い花の髪飾りがついている。鏡に映る自分に頬が緩む。綺麗にしてもらって気分が上がってきた!!
「アイリス、さぁ行こうか。」
シークに習った内容を頭で反復しながらお父様にエスコートしてもらい、気合いを入れる。 よし!頑張るぞ~!! 女の子が居たらお友達になれるかもしれないしね。
ガヤガヤとした中、色々な会話が飛び交う。しかし、全員そわそわと浮足立つような空気がある。
「今回のお披露目は娘らしいぞ。」
「あぁ、俺もその噂を聞いてこの招待状をなんとか手に入れたのさ。」
小規模のお披露目ということで娘だというのは周知されている。なんとか自分の息子を婚約者に。という目論見を会場の大人達は虎視眈々と狙っていた。
しばらくすると、ザワっという湧き上がる空気が流れたと思うとシンッと水を打ったような静けさが会場を覆った。コツコツ。と2つの足音しか会場には響いていなかった。
え?会場の2階に出た瞬間、急に静かになったけど、どうしよう。もしかして何か失態をしてしまった?不安になりながらもお父様のエスコートで階段を下りていく。
そして階段を下りきると、一歩前に出る。よし、ここで一言挨拶しないといけないんだよね。女性以外の人は。だけど。
ワンピースドレスの裾を掴み、顔に笑みを作りゆっくりとカーテシーを披露する。
「本日は、私アイリス・ソードのお披露目パーティーにご参加いただきありがとうございます。ごゆっくりとお楽しみ下さい。皆様にとっても本日が良い日になりますように。」
よし!噛まずに言えた!完璧じゃない? 心の中で出来栄えに満足をする。
――あれ?静かすぎない?
会場の人の様子を見ると、時が止まったかのようにこちらを見て動きを止めシンッとしていた。
困惑していると急に頭をなでられる。見上げると破顔したお父様がいた。
「すごいなアイリス!!ここまで素晴らしいとは!!どこまでも自慢の出来る娘だ。ありがとう。皆も本日は楽しんでくれ。」
お父様の言葉で開始の合図になり、ドッと一気に騒がしくなる。
「――ぐっ」
イケメンの本気の笑顔、胸にくる……!! それにこんなことしかしていないのに物凄く褒めてくれる。 ふと前世を思い出し、前世の私が少し報われた気がした。
2人で微笑み合っていると誰かがこちらに近付いてくる。
「――やぁやぁ、エリク。久しぶりだね。」
シークは普段アイリスのことを「天使」と心の中で呼んでいます(笑)
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ゆっくりですが頑張ります!