従者になるまで (オーディ視点)
ある日、ソード様の屋敷で働く使用人の全員が一人ずつ呼び出された。呼び出しのあとに戻ってきた者は皆、放心か悔しそうにしていて何があったのか一切教えてもらえない。すごく不安だ……。
「次はオーディ。こちらに来なさい。旦那様がお呼びです。」
「はい。直ちに。」
家令のシーク様に名前を呼ばれ一気に緊張が走る。手と足が震える。なにがあったんだろう、解雇通告だったらどうしよう。少し泣きそうになりながらシーク様のあとを追う。
「旦那様、オーディをお連れしました。」
ノックをし、一切隙のない華麗な動作で一礼をしたシーク様のあとに焦ったように一礼をしたまま待機する。
「オーディ、君は女性と接したことがあるか?」
「――っいえ!幼い頃に母親と一度だけです。」
ソード様に突然問われた質問の意図がわからず、冷や汗がでる。ソード様は寛容な人ではあるが、敵とみなした者にはとことん追い詰める冷酷さも持っている。
「そうか。顔を上げてこれを見てくれ。」
そこにはソード様に大事そうに抱かれた赤子がいた。赤子は可愛いと同僚にもよく聞いていたが、嘘だろ。これは天使!天使なのでは?
「どう思う?」
「これは天使です!!」
しまった!!赤子の可愛さの衝撃につい心の感想を言ってしまった!慌てて口を押さえるも、発した言葉は戻らない。 終わった…。
「はっはっは!!オーディ、君にしよう。シークもいいか?」
「承知しました。」
「…え?」
「すまない、説明していなかったな。この子の従者を決めようと思ってな。私の大事な娘だ。頼んだぞ。」
――え?え? 娘?女の子? 自分が女の子の赤子に接する機会がくるなんて!しかも天使!
あの後、シーク様に諸々の指導を受け退室すると、同僚達に囲まれる。
「オーディ、どうだった?」
「よくわからないけど、従者になったよ。」
「マジかよ!なんて答えたんだ?くぅ~羨ましい~。」
同僚達は「可愛いです」「小さいです」などの感想だったらしい。そして性別を知ってから抱っこすることが出来なかったという。ちなみに自分は膝が震えながらも抱っこできた。めちゃくちゃ小さくて、ふわふわしていて心がぎゅっとなった。
赤子を見ているときのソード様の愛おしそうなものを見る顔がすごく印象的だった。
~1年後~
今日もお嬢様は天使!!寝ていても癒される。初めて名前を呼ばれたときは泣き崩れてしまった。
「アイリスお嬢様、起きて下さい。朝食の時間ですよ。」
「……おーで…………。」
まだ夢の中のお嬢様を支度させ、抱き上げるとギュッとしがみついてくる。
「あぁ、天使すぎる。こんな幸せでいいのか。」
崩れ落ちそうな膝を歯を食いしばって耐える。今だけ、この時だけは必要とされている気がして満たされる。
「お嬢様……、魔の三歳児なんてこないで下さい……。」
この国では「天使の三年、魔の三歳児」という言い伝えがあります。
3歳からワガママになっていくことを指しています。
次回は本編に戻ります。頑張ります(。-`ω-)